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【連載版】竜の器と囚われの贄姫 ~竜にされた家族を助けるため、貴族の家を飛び出し世界最強の男と傭兵になります~  作者: 神崎右京
第二章

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第10話 旅立ちの朝 (Side:アルヴィン)

 ふ……と瞼を押し上げると、眩しい朝日が窓から差し込んでいた。

 ――なんだか、随分と懐かしい夢を視た気がする。

 昨日、カルロが実家の庭園のバラの香りを再現してくれたせいかもしれない。


 ゆっくりと身体を起こすと、隣の寝台に見知った男の影はなかった。


「カルロ……?」


 部屋を見回すが、返事はない。

 朝食に行ったのか、森の調査に出かけたのか。子供じゃないんだから、さほど心配する必要はないだろう。

 寝台から滑り出ると、昨日の依頼後の出で立ちのままだった。

 どうりで、身体が固まっているような感覚がするはずだ。剣やポーチなどの装備品は外してくれたようだが、カルロは使用人ではない。寝間着にまで手を出す義理もないだろう。


 昨日一日、走り回った疲労を引きずりながら、部屋のシャワールームへと向かう。

 服を脱ぎ、蛇口をひねれば、顔にかかる熱い湯が気持ちよかった。


 貴族の僕が、一念発起して傭兵になったところで、生活水準の違いについて行けまいと、カルロは意地悪く揶揄いながら、必ずそれなりの宿を取るよう提案してくれる。

 「貴族のお坊ちゃんが地面で寝られるはずがないだろう」と笑って、次の街に辿り着けなさそうなら無理をせずにもう一泊する念の入れようだ。

 おかげで僕は、傭兵になってこの半年、未だに外で水浴びすら経験がない。


 金銭面を心配をすると、カルロはただ呆れた顔を返すだけだ。

 家を飛び出した僕には、自由に使える金はほとんどない。全て傭兵稼業で稼がなければならないのだから、節約しよう――と申し出たが、取り合ってくれなかった。

 

 後で知ったことだが、カルロは魔道具発明のおかげで、黙っていても収入があるらしい。

 シャロンと婚約し、フロスト家の後ろ盾を将来的に確約されたカルロは、領内の商業ギルドと魔道具製造および販売の専属契約を結んだのだ。製造方法は門外不出で、造れる職人も極めて少ないという。

 竜騒動以降、身を守る魔道具を求める人々が、こぞって領地に押し寄せ、落ちる金は過去最高額になっているそうだ。

 発明家として、魔道具が一つ売れるごとにキックバックもあるらしい。ああ見えてとんでもない資産を蓄えているようだ。

 大変情けないことに、僕はその恩恵に甘え、駆け出しの傭兵の頃から最低限の生活水準を落とさずに済んでいる。


「まぁ……革命的な発明だった、らしいし」


 顔にかかる湯に目を細め、左手に光る指輪を眺めて呟く。

 魔道具の価値は今一つ理解できないが、この防御の指輪も、このご時世なら、高値で売れるかもしれない。

 宝石の一つもない指輪は、婚約指輪としては物足りないかもしれないが、市場価値だけは十分なのだろう。


 熱いシャワーで覚醒した身体を拭き、用意してあった清潔な衣服に袖を通す。

 カルロに揶揄されるのは心外だが、染み付いた衛生観念は消えない。

 確かに僕には、野外の水浴びや野宿など、耐えられないだろう。

 

 タオルで髪の雫を拭きながら浴室を出ると、ちょうどカルロも戻ってきたところだった。


「おう。風呂入ってたのか」

「うん。カルロはどこに行ってたんだい?」

「ダミアンのところだ。ああ見えて一応、優秀な白魔法遣いだからな。昨日の泉まで案内して、浄化してもらった。お前も気にしてただろ」


 朝一で出かけたのだろう。眠そうに欠伸を漏らしながら、何事もなかったかのように言う。

 あの広さの泉を、魚や植物まで浄化するには、かなり高度な白魔法が必要だ。

 研究職を『魔導師』、戦闘職を『魔法騎士』と区別して呼ぶのは、大抵、どちらかにしか適性がないことが多いからだ。

 だが、ダミアンは、研究も魔法行使も両方で優秀ということになる。非常に稀有な存在なのだろう。


 ……まぁ、黒魔法で言えば、この飄々とした男も、同様に稀有な才能を秘めているのだが。


「森はもう大丈夫かな?」

「たぶんな。魔鳥の群れはうざかったが、巣ごと焼いたし、周囲の街に影響が出そうな箇所はダミアンが浄化した。残りの細かい浄化や魔物退治は、傭兵ギルドが請け負うだろう。少しは仕事を残しておかないと、恨まれても面倒だからな」


 言いながら、小さなテーブルに紙袋を置く。


「帰りに下の食堂で買ってきた。髪乾かしたら食え。俺はもう食ったから、軽くひと眠りする」

「えっ……あ、ありがとう。気を使わなくていいのに――」


 カルロに礼を言うと、後ろ手でひらひらと手を振り、面倒くさそうに言う。


「あんな庶民御用達の食堂で、一人で『貴族です』って顔でお上品に食事してりゃ、絡まれるに決まってる。わざわざ面倒ごと起こす必要はねぇ」

「それは――うぅ……ごめん……」


 僕が一人のときに絡まれやすいのは、自覚している。

 カルロと一緒だと、視線を感じはしても露骨に声をかけられることは少ないが、カルロが席を外すと、突然見知らぬ人から話しかけられるのだ。

 出身はどこだとか、名前はなんだとか。

 貴族社会では、顔見知りでも必ず社交辞令の挨拶から始まる。だから、ハジメマシテの相手が無遠慮にこちらの素性を探る質問をしてくるのには、酷く驚いた。

 しかも何故か、大抵男しか声をかけてこない。

 カルロが戻って来ると喧嘩や揉め事に発展することも多く、迷惑をかけっぱなしだ。


「そういえば、ダミアンがレーヴ領行きに便宜を図ってくれるらしい。迷惑かけた詫び、だとさ」


 仮眠の準備だろう。カルロはローブを脱いで放り、慣れた手つきで装備品を外していく。

 ためらいなく上裸になった相棒に、思わず心臓が跳ねた。慌てて目を逸らす。


「紹介状も書いてもらったし、事前に実家に知らせも送ってくれるらしい。関所の煩わしい手続きが簡略化するってよ」

「ぁ、そ、そう……」


 男同士なのだから、恥ずかしがることはない――そう思うのに、なぜか心臓が早鐘を打っていた。変に思われていないだろうか。

 傭兵稼業で鍛えられた身体を惜しげもなく晒したカルロは、こちらを気にすることもなくするりと寝台へと滑り込む。


「あ、ありがとう、カルロ」

「おぅ」


 もう一度お礼を言うと、カルロは背中だけで欠伸交じりの気安い返事をして、すぐに寝息を立て始める。

 僕は一人で、不意に走り出した心臓を必死になだめるのだった。


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