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プ・レ・ゼ・ン・ト



「はい、誕生日プレゼント」



旦那は、少しだけ得意気に、そのプレゼントをテーブルに置いた。



「ありがとう、開けちゃってもいいかしら」



「勿論さ」



テーブルには、旦那と個人的に付き合いのあるパティシエが特別に用意してくれたケーキがのっていて、ほのかに甘い香りを放っている。



広尾にあるこのフレンチレストランで、そんな我儘を聞いてもらえる客もそういないのではないかと思う。



包みを開けると、ストレートのプラチナ台に、ダイヤが7つも並ぶネックレスが出てきた。



私は、その輝きに一瞬、息を飲み、旦那に謝意を表そうとした。



「凄く綺麗、これって…」



「そう、この間、銀座で、君が素敵だ、って言ってたやつだよ」



覚えている。



旦那は、誕生日が近くなると、それとなく、私をブランドショップに連れて行き、お気に入りを聞き出す。


100万はするはずの、そのネックレスを、旦那は、さも簡単に買ってくれる。



「大したことは無いさ」



旦那は、そう言うと、シャンパンを喉に流し込んだ。



そう。旦那にとって、100万のネックレスを買うことなど、造作無いことだ。



食事を終えて、私たちが住む、六本木のマンションに戻ると、旦那は直ぐソファーに横になり、寝息をたて始めた。



私は、さっきもらったばかりのネックレスを首に巻き、東京タワーが向こうに見えるリビングの大きな窓に、自分を映した。




…涙が溢れるのは、なぜだろう。



胸が締め付けられるのは、何故なのだろうか。



今の旦那と結婚するとき、それまで付き合った相手から貰ったプレゼントは、全て処分した。



「僕が、1から君をレディにするんだ」



旦那は、そう言い放ち、今まで貰った安物の宝石類は、全て捨てるように言ったのだ。



今、私のジュエリーボックスには、旦那から貰った、沢山の宝石類が、詰まっている。



でも。



一番下の小さな引き出しの奥には、ただ一つだけ、捨てることができなかった、金の細いネックレスが残っている。



もちろん、旦那には内緒だ。



タケシ。



学生時代、熱烈な恋愛をした。



何かを好きになるというよりは、華やかな時代に乗っていた、そんなときだった。



タケシは、私を「愛してる」そう言ってくれた。



どこで知ったのか、私の誕生日に、デートに誘ってくれた。



「タケシは、あなたのためにずっとバイトしてたんだよ」



友達のヨウコが、そう教えてくれた。



「愛してる」



生まれて初めて、その言葉を心から受け入れることができた。



タケシが、バイトして買ってくれた、金の細いネックレス。



私は捨てることができない。



涙が出るのはなぜだろう。




~~完~~


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