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セトさんと僕
「…で、お前はなんで戻って来た?」
「だって、やっぱり怖いから」
1ヶ月後、僕は魔王を倒すこともなく、セトさんの元に戻って来た。
決まり悪く笑う僕を、セトさんは困ったように笑って出迎えた。
「魔王を倒さないと、元の世界に帰れないんだろ?」
「…」
大好きなセトさんの言葉が、今は残酷に僕に届く。
セトさんは、相変わらず困ったように笑っている。
まるで、聞き分けのない子供を諭すように。
「ミーナは、魔王を倒さないといけない。そうしないと元の世界へは…」
「帰れなくていいよ、そんなの!」
セトさんの他人事のような言葉に、思わずそう叫んだ。
「セトさんだって分かってるんだよね!分からないはずないよね!?」
「…そうだな、悪かった」
セトさんは、僕の頭をぽん、と軽く叩いた。
僕が辛い時、いつもセトさんがしてくれる事だ。
闘いで負けて悔しかった時。
他の剣闘士に「人間だから弱いのは仕方ない」と慰められた時。
「お前に、俺を倒せ。なんて酷い事を言ってしまって」
大きな爪を、僕を傷つけないように丸めて、鋭い牙のある口で笑いながら。
いつだって、セトさんはそうしてくれた。