僕は剣闘士
僕は剣闘士だ。
剣闘士は年齢制限があって、10歳からでないと剣闘士にはなれない。
僕は年齢は分からないけれど、一年前セトさんに「お前は10歳くらいだから10歳ってことにしろ」と言われたので、今は11歳、ということになっている。
セトさんは、僕の主人だ。
一年前、僕が街の外で立ち尽くしていた所を、たまたまセトさんが見つけてくれた。
セトさんは、僕が持っていた身体に似合わない程に大きな剣を見て言った。
「お前、剣闘士か何か?」
僕は記憶がなかったので、「分かりません」と素直に言った。
「馬鹿野郎。ここは分からなくても剣闘士って言っときゃいいんだよ」
「じゃあ…剣闘士です」
「そうか。つまりお前はどこかの町で大敗して、悪い主人に荒野に捨てられた剣闘士なんだな」
「ちが…はい、そうです」
彼の目が言っている。
そういうことにしておけ、と。
「そうかそうか可哀想に。ならこの優しい王様がお前の主人となってやろう」
そう言うと、彼は僕の手を握って歩き出した。
「おじさん、王様なの?」
「ああそうだ。そして、お前は王様の気まぐれで拾われた可哀想な剣闘士だ。それ以外の何物でもない」
彼にそう言われると、段々本当にそうだった気がしてくる。
そうか。だから、こんな所に一人で立っていたんだ。
「ところで、剣闘士って仕事は知っているか?」
「分からない、です」
「剣闘士って言うのは、色んな人と戦う仕事なんだ」
「こわい、ですか?」
「ああ、こわい仕事だ。でもお前はそれをやらないといけない」
「なぜ、ですか?」
「お前は、強くならないといけないからだ」
その言葉の意味が分かったのは、それから一年後のことだった。