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【番外編SS】横暴な主に仕える従者は苦労する

 王立貴族学院の午前の授業が終わった昼休み、いつものように食堂で昼食を済ませたわたしは、午後の授業が始まるまでの残りの時間を過ごすため王立図書館に来ていた。


「あ、レイ、聞いてよ。そういえばね、さっき学院の廊下ですごいかっこいい人とすれ違ったんだけど、途中入学の人みたい。職員室の場所、訊かれちゃった」


 ちょうどレイとばったり会ったので、ついさっきすれ違った人について思わず話す。


 レイはこの図書館で最近知り合った年下の少年だ。本人が語らないので詳しい素性は知らないが、わたしとしては会うたびにだんだん仲良くなってきている気がしていてうれしく感じている、のだが──。


「──は?」


 そう言って、レイはなぜか機嫌を損ねたように眉間に深いしわを寄せた。


(あれ、聞こえなかったのかな? それにしては不機嫌だな)


 聞こえなかったのかと思い、言い直そうとする。


「え? だから、さっき学院の廊下で──」

「リゼはかっこいい男がいいのか?」


 なぜかさえぎられるようにこちらが質問され、わたしは首を傾げる。


「え? うん?」


(どうだろう、そういうのはあんまり考えたことないなぁ……)


 むむむと唸っていると、


「俺は?」

「え?」

「俺はどうなんだ?」

「え、レイ?」


 自分の容姿が気になるお年頃なのか、やけに真剣な表情のレイがわたしに訊いてくる。なるほど、年上の意見も聞きたいということなのだろう。


 わたしはじっとレイを観察する。


 艶やかな黒髪と淡く澄んだ空色の瞳を持つレイは、子どもながらすでに整った顔立ちをしている。


(そうだなぁ、将来かっこよくなるのは間違いないだろうけど、でも今はどちらかというと……)


 わたしはしばし考えてから、

「……かわいい、かな?」

 と正直に伝える。


 やはりまだ十四歳という年齢もあり、幼さが残る顔立ちはどちらかというとかわいい感じが強い。


 しかし、レイはわたしのその答えがお気に召さなかったようで、すぐに反論してくる。


「は? かわいい? ふざけてんのか?」

「え! だめだった? ごめんごめん」


(あれ、仲良くなれてるのは気のせいだったのかも……?)


 レイはむくれてそっぽむいているが、その姿もやはりかわいいと思ってしまう。

 でも言ったらもっと怒られそうなので、ぐっとこらえる。


(うーん、男の子って難しいな……)


 わたしは心の中でつぶやいた。




          ***


「お前、学院ではこれかけとけ」


 彼が仕える少年、第二王子のレスターがそう言って放り投げたのは、分厚いレンズの眼鏡だった。眼鏡をキャッチしたのは淡いグレーの髪をした若い青年。


「え、なんですかこれ。邪魔だし、前がすごく見えにくいんですが……」


 視力は悪くないので、そもそも眼鏡をかける必要はない。ひとまず眼鏡をかけたものの、彼は率直に不満を漏らす。主従関係にあるとはいえ、自分たちの関係はそこまで堅苦しくはない。


「なんだそれ! ぶはははっ!」


 もうひとりの従者、茶髪の青年がこちらを見て大笑いする。彼はすかさずそいつに足蹴りして床に転がす。


 そんな従者たちをレスターは気にも留めず、

「文句言うな。いいか、学院では、とくにリゼの前では絶対それかけとけよ。ったく、なんでこんなすました顔がかっこいいんだ?」


 何やら文句をブツブツ言っている。


 それを聞いて、彼はなんとなく事情を察する。


 彼はこれから王立貴族学院に潜入するため、第二学年の生徒として途中入学する予定だ。


 主な目的は、学院に通う子息令嬢たちを通して各家門の状況を把握すること。王国内の水面下で怪しい動きがあるためとのことだが、そもそもまだ社交デビューもしていない未成年の子息令嬢たちが関与し、情報を持っている可能性は低いだろう。

 だから一番の目的は、東端部のヨーク男爵家の娘、リゼ嬢の情報収集だろうと彼は思っている。


 王国を出て以来、一時的に戻ってきたとしてもすぐに国を出ていたレスターが、なぜか今回は長期間国内に留まっている。

 どうやらそれにはリゼ嬢が関係しているようなのだが、なぜそうするのかレスター本人はまだ気づいていないのだから面白い。長い間そばに仕えているが、元々人間にさほど興味のないレスターが誰かのことをここまで気にする様子は見たことがない。


(そういえば、昨日リゼ嬢と接点を作るのに、学院の廊下ですれ違ったときに迷ったふりをして声をかけたがそのせいか……?)


 横暴で心の狭い(あるじ)であるレスターの背中を見つめながら、彼が深いため息を漏らしたのは言うまでもない。



こちらも本編の裏側でした!眼鏡をかけることになった裏では、こんなやり取りがありました。

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