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初めての感触……?

 わたしが階段から落ちてしまって以来、アデラインさまに会うことはやはり難しかった。


 何度か侯爵邸を訪ねてみたが、応対してくれるのはあの品のよいアデラインさまの専属侍女で、答えはいつも決まって「お忙しいためお会いするのは難しいかと……」と言って断られた。


 では手紙ならば読んでもらえる可能性があるのではと思い、アデラインさまに渡してもらえるよう侍女にお願いしたものの、いくら待っても返事はなく、読んでもらえているのかすらわからない状態だった。


(アデラインさまは、本当にもうわたしと会わないつもりなんだ……)


 改めてその現実を突きつけられた気がして、わたしは泣きそうになる。


 でも泣いているひまなんかない。

 卒業パーティーの日がどんどんと迫っている。

 わたしがアデラインさまのために、やれるべきことはまだあるはずだ。


 わたしはわずかな時間も惜しむように、これまで起こった事件の現場を確認し、再検証を行うことにした。自分にない知識を求めて、図書館にある本も読み漁り、証拠固めとして役に立ちそうなものがあれば取り寄せるなど、思いつくかぎりの自分にできることを進めた。


 同時に、アデラインさまがそれぞれの事件にかかわっていないことを証言してくれる証言者も探し始めた。


 そして色々と動いている中で、わたしはあることに気づく。


(もしかして、アデラインさまも動いてる……?)


 わたしが声をかけた証言者の中には、すでにアデラインさまからも同様の相談を受けたという人が何人かいたのだ。


 ただし、詳しい話となるとみな口をつぐんでしまい、それ以上は訊けなかった。


 そのため、本当にその人たちが証言してくれるのか、効力のある証言内容なのかがわからず不安を感じるが、それでもアデラインさまも動いているという事実を知り、わたしの気持ちはずっと軽くなる。間違っていないのだと確信が持てる。


 わたしは勇気をもらえた気がして、突き動かされるようにより一層全力を傾けた。




「──おい!」


 図書館の仕事中、返却用の本をのせたワゴンを押しながら書架の間を進んでいると、突然背後から声をかけられ、思わず飛び上がる。


 振り返ると、そこには眉間にしわを寄せ、腕組みをして立っているレイがいた。


 会うのはずいぶんと久しぶりな気がする。


「……はぁ、もう、驚かさないでよ」


 わたしはバクバクする胸を押さえて言った。


「ひどい顔してるな」


 レイはわたしの顔を見るなり、さらに眉間のしわを深くしてつぶやく。


(……ひどい顔って、その言い方!)


 わたしは抗議しようとしたが、思いの外、険しい表情を崩さないレイを見てその言葉を呑み込む。


(なんで、そんな怒ったような顔してるの……?)


「何度も呼んだ」


「……あ、ほんと? ごめん、気づかなかった」


 わたしはかろうじてそう答える。

 しかしレイの表情は険しいままで、それは初めてかと思えるくらい本気で怒っているように見えて、わたしはますます焦りを覚える。


「ご、ごめんね。わざとじゃなくて、ちょっと考え事してただけっていうか……」


 しどろもどろで言い訳する。わざと無視したわけではないのだから、あまり怒らないでほしい。


「はぁ……」


 レイは深いため息を漏らし、くしゃりと髪をかき上げる。わずかに苛立った雰囲気が消える。すると、ちらりと視線をこちらに投げ、


「で、大丈夫なのか?」

「え?」


 レイはじっとわたしの目を見てくる。

 なぜかその瞳は、こちらを心配するような気遣いを感じさせた。


(アデラインさまのことを訊いてる……? それともこの間、わたしが階段から落ちたことを知ってる? まさかね……)


 わたしはなんて答えるべきか迷ってしまい、言葉を詰まらせる。


 微妙な沈黙が流れる。


 しばらくしたあとで、レイはおもむろに数歩進んでわたしに近づくと、流れるようにそっと手を伸ばし、わたしの頬に触れる。


 わたしは驚きのあまり固まる。

 こんなふうに触れられるのは、初めてのことだった。


「……無茶だけはするな」


 レイはそう言うと、わたしの頬からするりと手を離し、きびすを返して去っていった。


 わたしはその後ろ姿を呆然と見送る。


 レイに触れられた頬がじわじわと熱を帯びる。


 あんなふうに触られるのは初めてのはずなのに、なぜかその手の感触を知っている気がした。



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