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運命は回避不可能……? 1

 噴水がある中庭でミレイさまの手提げ袋(レティキュール)が水浸しになった出来事以来、わたしとアデラインさまはますます周りに気をつけるようになった。


 しかしまるで見えない何かが操っているように、アデラインさまが予期した未来が次々と現実になる。


 ミレイさまのクラスでダンスの授業が行われるとき、なぜかアデラインさまがそのクラスのダンス指導の補佐として急遽招かれ、授業中にミレイさまが着ていたダンス用のドレスの裾が破ける出来事が起こった。

 ミレイさまは破けたドレスの切れ端を握りしめ、すれ違った際にアデラインさまが裾を踏んだからだと涙し、授業は中断になってしまったという。後日、そのドレスはベイジル王太子殿下から贈られたものだったのでは、という噂が流れた。


 その後、季節が夏に変わると、ミレイさまがいつも大事に身につけていたネックレスが紛失する出来事が発生した。


 ミレイさまが学院に登校後、ネックレスの金具の不具合に気づき、あとで修理するため外してカバンの中に入れていたはずなのに、放課後になってカバンの中からなくなっていたらしい。

 そこでミレイさまが友人とともに必死で探したところ、校舎の隅に鎖がバラバラに切られたネックレスが打ち捨てられていたのを発見したそうだ。

 その際、大ごとにしたくなかったミレイさまが友人に口止めしたらしいが、数日経って『ネックレスは何者かに故意に盗まれて壊された』という話があちこちで聞かれるようになった。


 さらにその数週間後には、昼休憩前にミレイさまが学院の地下室に閉じ込められる出来事が起こった。


 ミレイさまによると、手紙で呼び出され地下室に入った瞬間、鍵をかけられたという。

 問題の手紙には、アデラインさまのイニシャルが書かれていたらしい。

 そのため、アデラインさまにとって人に聞かれたくない話があるのだろうと思い、疑うこともなくひとりで地下室に行った。

 地下室に閉じ込められる瞬間、アデラインさまのような特徴的な赤い髪の令嬢を見た、とミレイさまは証言した。


 しかしそのうえで、アデラインさまのせいではない、もしかしたら誰かのいたずらかもしれないと、アデラインさまをかばうような言葉すら発していたようだった。


 それを聞いたベイジル王太子殿下はお昼の休憩中、別室にいるアデラインさまのもとに押しかけ、抗議の声を浴びせた。


「──なんとか言ったらどうなんだ、アデライン! ミレイ嬢を手紙で呼び出し、暗い地下室に閉じ込めたのはきみなんだろう⁉︎ 手紙にあった筆跡はきみのものによく似ていた! イニシャルもきみと同じだ! そのうえめずらしい赤い髪の令嬢ならきみしか考えられない!」


 廊下まで響くその声は、急いで駆けつけたわたしの耳にもはっきりと聞こえた。


 わたしはドアの前でピタリと足を止める。


「──存じません」


 部屋の中からは、アデラインさまの感情を抑えた声が聞こえる。


「私の心がミレイ嬢に傾くのがそんなに許せないのか! だからこんなことをしたんだろう⁉︎」


「──っ、存じません」


「ミレイ嬢に危害を加えそうな人間は、アデライン、きみしか考えられないではないか! ミレイ嬢のドレスを破った件やネックレスを盗んで壊した件といい、今回の地下室に閉じ込めたことも、こんな卑劣な真似をしてウェイレット侯爵家の令嬢として恥ずかしくないのか!」


「──わたくしから申し上げることは、何もございません」


 どんな罵声を浴びせられても、アデラインさまは終始一貫した答えを貫いていた。


 ベイジル殿下はしびれを切らしたように、

「言い訳すらしないのか、きみがこんな女性だったとはな! もういい、話すだけ無駄だ!」


 直後、ダンッ──! と、ドアを強く殴りつける音がした。


 ドアの前にいたわたしは驚いて大きく肩をびくつかせる。


 ドアが内側から勢いよく開かれる。部屋から出てきたベイジル王太子殿下は、わたしが立っていることに驚き、すぐに顔を歪める。


 わたしは何か言葉を発しようとしたが、その前に殿下がわたしを押しのけるようにして通り過ぎ、怒りを抑えきれない様子で廊下の向こうへと姿を消す。


 わたしは息を深く吐き出し我に返ると、

「──アデラインさま! 大丈夫ですか⁉︎」

 部屋の中へと駆け込む。


 アデラインさまは執務机に手を当て寄りかかるようにして、かろうじて立っている状態だった。


 わたしの声に気づくと顔を上げ、かろうじて言葉を発する。


「……リゼ嬢」


 その顔はひどく真っ青だった。手も震えている。


 事態は日を追うごとに、ますます悪化している。


 回避できるように行動するだけでは意味がない。しかし問題の出来事を起こしていないという証拠を出そうにも、それ以上にアデラインさまが起こしたと思わせるような状況や証拠が出てくる。


 無実を証明できる、よりたしかな証拠を突きつけなければ、この先の断罪を回避できないのではないのか、わたしは焦りを募らせる。


 なぜなら、このあと夏の半ばに行われる卒業パーティーの直前には『階段から突き落とす』という次の出来事が起こるはずだ。


 階段から落ちればけがを負うどころか、最悪命を落とす可能性もある。


 これまでの持ち物を破損させたり、地下室に閉じ込めたりするのとはわけが違う。ただのいたずらでは済まされない。


 これだけはなんとしても避けなければいけない──。


 わたしは震えを押し隠すように拳をぎゅっと握りしめた。



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