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王子さまと恋に落ちるのは女の子の憧れで……? 1

 放課後、わたしはいつものように図書館での仕事を終え、帰宅しようと図書館の正面扉を押し開いた。


「──おい、ぶつける気か⁉︎」


 聞き慣れたぶっきらぼうな声がする。

 レイだった。


「あ、ごめん、ごめん!」

 わたしはすぐに謝る。


 するとレイは目ざとく、わたしが手にしている高級そうなラッピングが施された小箱を見ると、

「それ、なんだ」

 鋭い声で言った。


「ああ、これ?」


 わたしは頬をゆるめ、今日の昼間にもらったチョコレートが入った小箱を掲げて見せる。なんとなく誇らしい気持ちになるのは気のせいだろうか。


(ある意味、友情が芽生えた証と言ってもいいもんね!)


「……ふふ、ナイショ」


 わたしの答えに、レイは瞬時に顔をしかめる。


「おい、正直に言え、誰にもらったんだ」


 まるで尋問するように下からわたしに詰め寄ると、さっと小箱を奪い取る。


「えっ⁉︎ ちょ、ちょっと! 何するの!」


 わたしは慌てて手を伸ばすが、レイは取り返されないように少し距離をとる。


 わたしは悲痛な叫び声を上げる。


「今日はそれを食べることだけを楽しみに、授業も仕事もがんばったんだから! 返してよ!」


 これを逃したら、こんな高級なチョコレートを食べられる機会は二度とない。


 レイはふと手を止め、

「ふーん、食べ物なのか」

 目を細めて、ちらりと小箱に目を向ける。


「そうだよ! わたしには貴重なものなんだから、返して!」


 おそらくそれなりの家門の子息であろうレイにとって、めずらしいものではないかもしれないのだから、すぐさま返してほしい。


 わたしはジリジリとレイに詰め寄る。


 しかし、レイはニヤリと笑って、

「誰・に・もらったんだ?」


 答えないかぎりは返さないという強い意志を感じる。


 わたしは息を吐き出す。このままではらちが明かない。


「はぁ……、多分、友達……? になったご令嬢? からもらったの」


 わたしはしぶしぶ答える。


 レイは首をひねりながら、眉をしかめ、


「友達? になった令嬢? なんだそのあいまいな言い方は」


 わたしは不貞腐れるようにそっぽを向き、

「もういいでしょ! 答えたんだから、返して!」

 と言いながら、手を伸ばす。


 レイは少しだけ考えるそぶりを見せたものの、興味を失ったように、

「ほらよ」

 そう言って、放り投げてよこす。


 わたしは慌てて、それを両手でキャッチする。


(セーフ! ったく、なんてことするんだ!)


 わたしはちょっと怒りながら、レイをにらみつける。


 レイはくるりと向きを変え、図書館の中には入らず、外門に向かって歩き始めた。


「あれ、寄ってかないの? まだ開いてるよ?」


 わたしは後ろ姿のレイに声をかける。


 わたしの今日の仕事はもう終わりだが、閉館時間にはまだ少し時間がある。貸し出しくらいなら対応してくれるはずだ。


 レイはちらりとわたしを振り返り、

「いや、今日はいい。行くぞ」

 そう言って、スタスタと歩いて行く。


 わたしは慌ててあとを追うが、

「え、行くぞって言われても、わたしもう帰るところなんだけど」


 今日の仕事は終わったので、あとは下宿先にまっすぐ帰るだけだ。


「送ってやる」

 レイはそっけなく言う。


 わたしは意味がわからず、

「え、送るって?」


「だから、下宿先まで送ってやるって言ってるんだよ」


 そう言われるが、わたしはますます首を傾げる。


 自分よりも年下の男の子に送ってやると言われても、むしろこちらが送ってあげなければいけないくらいではないのか。


(レイはどう見ても、良家の子息って感じだし、レイに何かあったら怒られるのはわたしなのでは……?)


「え、でも、子どもがひとりで帰るのはちょっと、危ないよ?」


 わたしの下宿先がある区域は比較的安全ではあるものの、それでも貴族の邸宅が並ぶ区域の治安と比べると安全とは言い難い。暗くなると酒屋で盛り上がった酔っ払いがふらついていたり時々ケンカも発生したりするので、ぱっと見、平民には見えない子どものレイがひとりで歩くにはいささか物騒だ。


 しかし、わたしのこの物言いが悪かったのか、

「うるさい! その口を今すぐ閉じろ!」

 あきらかに機嫌を損ねたように怒り出す。


(あ、子ども扱いされたのがいやだったのかな)


 わたしは生あたたかい目でレイを見つめる。


(そうだね、お年頃だもんね)


 すると、さっと振り返ったレイが、

「おい、また失礼なこと考えてるだろ。さっさと来い」

 とにらみつけ、まるで犬でも呼び寄せるように、人差し指の先だけでわたしを促す。


「はい、はい」


 わたしは仕方なく、それに従う。


(わたし、そんなに思ってること顔に出てるかな……)


 たしかめるようにそっと顔に手を当てた。



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