リッキーと⻤ヶ島の⻤娘(おにっこ)達!!
今から数百年前、⻤族によって⻤力を動⼒とした労働⼒補填の為の自動機人が造りだされた。
通称、⻤力機人である。
昔から⻤族と交流があった人間の国に、戦乱の世の切り札として鬼力機人は、戦に駆りだされていた。
当時、⼈には⻤⼒を充填する術がなく、⻤⼒が底をついた⻤⼒機⼈は寿命を迎えたとして使い捨てにされていた。
その平均寿命は起動させてから僅か6ヶ⽉⾜らずであった。
ここは、とある海に浮かぶ⻤ヶ島。⽂字通り⻤族(鬼人族)が棲む島である。
⻤ヶ島に住む鬼族の子である鬼娘達、⻤紅・⽔⻤・⻤⽷の三人は、数⽇続いた⼤⾬のため外出できずにフラストレーション爆発寸前、気持ちがウズウズしていた。子供なので無理もないことである。
それから数⽇が経ち。本⽇は晴天ナリ!!
このウズウズした気持ちを晴らすため、彼⼥達は勇んで⻤岬の⽅へ遊びに出かけることにした。
⻤岬とは、⻤の⻆のように突き出た岬のことで、彼⼥たちが勝⼿にそう呼んでいるだけである。
だから、これは正式な名称ではない事をここに記しておこう。
さて、彼女達の事を語るうえで、話をスムーズに進めるためにも、人ではない彼女達、鬼娘たちの特筆すべき点を、ここで紹介しておこう。
まずは、⾚い髪の鬼娘、その名を⻤紅と云う。彼女はちょっと変わった⼦だ。
⻤紅は、⽬隠しをして⽇々の⽣活を送る⽬隠し⻤なのだ。何故ゆえ、彼⼥が⽬隠し⻤の⽣き⽅を選んだのかは、⾄極単純な理由からである。
彼⼥は、怖いものが⼤の苦⼿なのである。彼⼥たちが棲んでいる⻤ヶ島は、そこいらじゅう怖いものだらけだ。それこそ、⽩⻣死体や物怪の抜け殻が散乱し、体⻑数メートルもある怖い顔をした⼤⻤やらも闊歩している、とんでもなく恐ろしい処である。いくら⻤紅がそんな処の⽣まれであっても、それらが怖くて仕⽅がない彼⼥は、⾃分の⽬をサラシで封印することを選んでしまった。
しかし、それは悪いことばかりでは無かった。
⻤紅には、そんな⽣活を続けることで不思議な⼒が育まれていったのだ。
その⼒とは…。
視⼒を使わずとも、周辺の情報を細かく感じ取る能⼒、すなわち⼼眼である。
⼼眼で感じ取った怖いものは、彼⼥の脳内で全て`可愛い`に変換する事が出来るのだ。これでもう⻤紅には、暗闇だろうと、物怪の巣窟だろうと、⾒るモノ全てが可愛く映り、へいちゃらなのである。
次に⻘い髪の⻤娘、名は⽔⻤。三人の中で一番年上の彼女は、実に論理的思考の持ち主である。
物事を正しく判断でき、正しい答えに導く事ができる賢い⼦である…。
が、彼⼥には⼀つだけ弱点があった。
それは⽔が怖い。正しくは、⽔底の仄暗い世界に恐怖を感じてしまうのだ。それには理由があった。その理由とは、⼩さい頃に川で溺れた彼女は、その体験がべっとりと脳裏にこびりついて離れない死の恐怖、これが忘れられないのである。そのため、彼⼥は深い川や暗闇が弱点になってしまったのである。
最後に⻩⾊い髪の鬼娘、名は⻤⽷。この⼦は、物事への好き嫌いがはっきりしている⾏動派の幼⼥である。
三⼈の中で⼀番幼い彼⼥は、好きなことには積極的に⾏動を起こす反⾯、興味ないことや⾯倒なことには、もっともらしい理由を付けて回避する頭の回転のイイ世渡り上⼿である。
彼⼥には、これと⾔った弱点はなく⾃分にとって有利に働くなら、たとえ暗く狭い場所でも気にしないストイックな性格の持ち主である。
さて、そんな⼀癖も⼆癖もある三⼈は、いつもの調⼦で目的地の⻤岬へ難なく到着を果たした。
鬼岬、そこは程よく⾵が抜ける気持ちのいい場所だ。殆どが岩場である⻤ヶ島で数少ない⾃然の草⽊を感じられるここは、彼女達のお気に⼊りの場所だ。
⻤⽷は、いつもみたいにカラクリ⻤蜘蛛のクゥの⽷を岩場に貼り付け、クゥの背に乗って凧のように空に舞い上がって遊んでいた。
「ヤッホーみずきチャ~ン!」
「今⽇の⾵は調⼦イイよ~う!」
空の上から大きな声でレポートする⻤⽷。
「エイちゃんには、この⾵は強すぎるみたいですね」
身が軽く⾵が強いと何処かへ⾶ばされてしまう絡繰イトマキエイのエイちゃんを気遣いながらその背に乗って、岩場の隙間を道なりに⾶⾏させる⽔⻤。
そんな中、⻤紅は、⼼眼の能⼒で崖の⽅にただならぬ気配を感じ取っていた。
「どうかしました?」
「⻤紅さん」
⼼配そうに⽔⻤が声を掛けた。
「崖の下から、寂しそうな気配を感じるの」
ちょっと不安げに答える⻤紅。
「昨⽇までの⼤⾬で下の⽅、すっごい事になってるよ!」
カラクリ⻤蜘蛛のクゥちゃのオシリから出した⽷を近くの⼤岩に貼り付けて、ロッククライマー宛らに崖下を覗き込む⻤⽷。
不安タラタラにそれでも気になってしょうがない三人は、気配のする崖の下へ降りることにした。
⻤紅は、空中を浮遊できるコマ、空独楽2機を下駄を履くように乗って…。
⽔⻤は、空中を泳ぐように⾶⾏する絡繰イトマキエイのエイちゃんに乗って…。
⻤⽷は、崖上の⼤岩から⽷を垂らし降下できるカラクリ⻤蜘蛛のクゥちゃんに乗って…。
三人は、ゆっくりと降りていった。
ここで、彼女達が持っている素敵アイテムの紹介もついでにしておこう。
先ずは、⻤⼒という⼒の源である⻤⽬⽯を紹介しよう。
これが無いと彼⼥たちが使⽤するアイテムは、何⼀つ機能しない。この⻤⽬⽯には、それぞれ紅、⻘、⻩と性質が異なる⻤⼒を放出し、各アイテムは放出された⻤⼒を消費して性能を引き出す能⼒を有している。この⽯をはめ込んだフラフープ⼤のリングを、各⾃⼀つずつ胸に掛けている。
そして、⻤紅が所有する2機の空独楽(右コマと左コマ)は、⻤⼒を浮⼒に転換して空中浮遊を可能にする乗り物として活⽤されている。
次に、⽔⻤が所有する絡繰イトマキエイ、名はエイちゃん。この⼦は、⻤⼒を主との意思疎通と⾶⾏能⼒に転換し、その背に⽔⻤を乗せ空中を泳ぐ様に移動する事を得意とする機獣で、⽔⻤の移動⼿段であり⼤切な友⼈でもある。
最後に、⻤⽷が所有するカラクリ⻤蜘蛛、名はクゥ。この⼦は⻤⼒を主との意思疎通と機動⼒に転換し、その背に⻤⽷を乗せて壁や天井等を伝って縦横無尽に⾛ることが出来る機獣である。更にオシリから出す⽷を空中に伸ばし凧のように⾵を捉えれば、空の散歩も楽しめる⻤⽷のペットであり、背中の甲羅に⼩物⼊れも装備している。
他のアイテムの紹介は、また今度にしておくとして、機獣の説明はしておこう。機獣とは、鬼力で動く機械仕掛けの人型以外の絡繰(我々の世界で云うロボット)の別称である。
これらは、車などの操縦とは違い、意思疎通で動物を操る感覚なので、意思疎通には時間を掛けた訓練が必要となる。
これらを駆使して、彼⼥たち三⼈の⾏動域は、⻤ヶ島全体に及んでいるのだ。
閑話休題…。
崖下に降り着いた三人は、⼤⾬で流れ出した⼟砂から露出した⾦属質の何かを⾒つけた。
「これだよ」
「この何かから、寂しい気配を感じるの」
そう確信した小心者の⻤紅は、怖いものを可愛い変換しているので興味が優先しているようだ。
「この艷は、きっとお宝いっぱいの宝箱だよ」
お⽬々キラキラの⻤⽷は、少々楽天家で、好奇心の塊だ。はっきり言って恐れる心は持ち合わせていない。
「⼆⼈とも、ここは慎重に注意深く⾏きませんと」
「危険なモノかもしれないですわ!」
⼆⼈を制した⽔⻤は、警戒⼼の強いお姉さん。どんな状況の時でも、一歩引いて俯瞰で物事を捉え、正しい判断を下す慎重派である。
「ねえ掘り出すんなら キイト、いいもの持ってるよ!」
そう⾔うと⻤⽷は、カラクリ⻤蜘蛛クゥの背中にある⼩物⼊れを開き、取り出したシャベルと熊⼿を⼆人に⼿渡した。
「えへへ…後で潮⼲狩りしようと思って持って来てたんだぁ」
誇らしげな⻤⽷。
「グッジョブです!⻤⽷さん」
⽔⻤は⻤⽷の頭を撫でながら褒め称えた。
三⼈は、それぞれ獲物を持って慎重にそして、注意深く何かを掘り出す作業に取り掛かった。
数時間後…。
掘り出された何かは、鎧を装着し⼟下座の体制を取った⼤きな機械仕掛けの⼈形のように思えた。背中には、カタツムリの殻の様な⼤きな球状のモノを背負っていて、当然その体は固くこびりついた泥で薄茶⾊に汚れまくっていた。
そんな鎧⼈形に興味津々の三⼈。
こんな時は、⻤紅の乗る空独楽の出番だ。上下移動を最も得意とする空独楽に乗って⻤紅は、鎧⼈形に近づき、おっかなびっくり調べ始めた。
そんな時だ…。
\カチン/
彼⼥の胸に下げられたリングにはめ込まれてた⻤⽬⽯が、鎧⼈形に触れた…瞬間、何かが始まった。
⻤紅の⻤⽬⽯の⻤⼒が、⾚い光となって鎧⼈形に吸い尽くされてしまったのだ。当然、⻤紅が乗る空独楽は⼒を失い墜落。落下した彼⼥は、地⾯に尻もちをついてしまった。
幸いな事にそこは、さっき鎧⼈形を掘り出した⼟がフワリと盛ってあった場所だ。彼⼥に⼤した怪我はなかった。
「痛ぁ~い」
「空独楽ちゃんたち、急にどうしたの?」
何が何だか分からない⻤紅は、お尻をさすりながらボヤいていた。
「⼤丈夫?キクちゃん」
⼼配して駆け寄る⻤⽷が、声を掛けた。
遅れて⽔⻤も。
「まあ…空独楽さんたち、⻤⼒がスッカラカンですわ!」
「いったいどうしたのかしら?」
⽔⻤は、地⾯に転がっていた空独楽たちを拾い上げ⻤紅に⼿渡した。
「ウチの⻤⽬⽯の⻤⼒が無くなっている…」
「今朝、満充填にして出掛けたのに…」
⻤⼒の源である⻤⽬⽯を確認した⻤紅が、呟やいた。
彼女の赤い鬼目石は、光を失くし黒く冷たくなっていた。
「もしかして、この⼟下座さんに」
「⻤⼒を全部吸い取られてしまったんでしょうか?」
⽔⻤が、推理した。
「⻤⽷さん!」
「⼟下座さんに触れては、いけませんよ!」
今にも触りたそうな⻤⽷に、⽔⻤が前もって釘を差したのだが…。
「みずきチャン、⼟下座さんってこれのこと?」
遅かった…⻤⽷は、すでに鎧⼈形をおもいっきりペタペタ触っていた。そして、水鬼のネーミングセンスは、ポンコツだと彼女のプロフィールに追加記入しておこう。土下座さんってねぇ~。
「きゃぁっっ!」
「⻤⽷さん離れて!」
⼼配してオロオロする⽔⻤。
「⼤丈夫だよ みずきチャン!」
「キイトの⻤⽬⽯は、クゥちゃんに預けてあるから!」
⻤⽷は、離れた場所に退避させていたクゥの⽅を振り向き、ドヤ顔を⽔⻤に⾒せた。
「もうハラハラさせないで下さいまし…⻤⽷さん」
「寿命が300年ほど縮みましたわ!」
⻤族の寿命は⻑かった。
「エヘヘ…ゴメンちゃい みずきチャン」
少々やり過ぎたと反省する悪戯っ⼦な⻤⽷。
三⼈がグダグダやっているその最中…。
「すみません…あなた達はどなたですか?」
突然、知らない誰かが声を掛けてきた。
`今の誰?`っと三⼈は、お互いの顔を⾒合わせ戸惑っていた。
「もしかして中に誰かいるの?」
⻤紅は、鎧⼈形の背中の球体部に声を掛けた。誰か乗っているとしたらこの部分にいる可能性が⼀番⾼いからだ。
「お願いしますワタシを開放してください」
更に鎧⼈形から返事が帰ってきた。
「開放って、どうすればよろしいんでしょうか?」
今度は、⽔⻤が質問を続けた。
「背中の扉の鍵は外しましたので」
「外から扉を開けてください」
「下に取っ⼿がありますので、上に引き上げると扉は開きますから」
説明を聞いた三⼈は、泥が噛んで固くなっていた扉に⼿を掛けた。
しかし、扉はびくともしない。
「固い~っ!」
早々、⾳を上げる⻤⽷。
扉は、うんともすんとも動かない。
「開けぇ~!」
⼒を込める⻤紅。
やはり扉は、うんともすんとも動かない。
「くぅ~!」
「ビクともしませんですわ!」
⽔⻤もジンジンするその⼿を取ってから離し、指先のケアをするのだった。
「こんな時に⻤紅さんの化猫⼿袋のお⼒を、拝借できないなんて~!」
⻤紅が両⼿にはめている化猫⼿袋は、彼⼥の⼒を20倍にも⾼めてくれるパワー系アイテムなのだ。
そのことを熟知している⽔⻤が、フと漏らした。
「それだよ!⽔⻤ちゃん!」
何やら名案を閃いた⻤紅。
「えっ!?」
何がそれなのかピンときてない⽔⻤。
「ウチの化猫⼿袋を使えばいいんだよ!」
閃いたアイデアを⽔⻤に伝える⻤紅。
「だって、⻤紅さんの⻤⽬⽯は、⻤⼒が底をついてるじゃないですか!?」
「そんな状態では、化猫⼿袋は使えないんじゃ…?」
「わたくしの⻤⽬⽯の⻤⼒は⻘、⻤紅さんの紅とは性質が違いますから」
「鬼力をお譲りすることは出来ませんよ」
「うん知ってる!」
「だったら…」
「だから、⽔⻤ちゃんがウチの化猫⼿袋使えばいいんだよ!」
「これは、⼒を増幅するだけのアイテムだから」
「訓練とか⻤⼒の相性とか性質は関係ないの」
「化猫⼿袋に⽔⻤ちゃんの⻤⽬⽯の⼒を注ぎ込めば問題なし!」
「はいっ!」
「使って⽔⻤ちゃん!」
⻤紅は、化猫⼿袋を外して水鬼に手渡した。
「そうなんですか?」
「そういうことでしたら、お借りしますわ」
⻤紅から⼿渡された化猫⼿袋を装着した⽔⻤。
「では、いきますわよ」
「エイやっ!」
指先が痛くて、先ほどの半分の⼒も出せない⽔⻤だったが…。
\ガキッ!/
っと、重たい⾦属がぶつかり合うような鈍い⾳を⽴てて、扉が少しだけ開いた。
「動いた!」
⻤⽷が叫ぶ。
「少しですけど、開きましたわ!」
わたくしやりましたわっと⽔⻤。
なんとか少しだけ扉をこじ開けることに成功した三⼈。
鎧⼈形は、それを取っ掛かりにして…。
\グイィィン/
と機械⾳を響かせながら、扉を⾃動で開ききった。
「おお勝⼿に開いた!」
声を上げる⻤⽷。
「開きましたわ!」
続いて責任を果たした感の⽔⻤。
新たに気持ちを整えた三⼈は、恐る恐る中を覗いてびっくり!
「あれぇ!?」
「誰も乗ってないね?」
⻤⽷が呟いた。
その後、静寂に包まれた数秒間が過ぎた…。
「扉は開きましたけど…」
静寂にたまらず⽔⻤が話し掛けた。
「あの~う…そうしましたら」
「中に⼊って踵の施錠を外すレバーを押し込んでもらえますか?」
鎧⼈形は、恐縮する様に更なる願いを続けた。
「中暗いんですけど…」
⽔⻤が、唾を飲んで恐る恐る中へと⾜を踏み入れると。
\グイィィン/
と機械⾳を響かせ今度は扉が閉まった。
「きゃぁ!真っ暗なんですけどぉっっ!」
たまらず不安になった⽔⻤は、パニクを起こしてしまった。
「すみません…安全上、扉を閉めないと踵の施錠が外せない設計なんです…」
申し訳無さそうに追加説明をする鎧⼈形。
「⾜元のレバーを押してくださればイイだけなんですが…」
更に追加説明。
「無理ぃ暗くて何も⾒えませんわっっ!」
「ここから出してくださ~いっっ!」
⽔⻤、ここでギブアップ!
\グイィィン/
と機械⾳を響かせ扉が開くと、⽔⻤が半泣きで⾶び出してきた。⽔⻤は暗闇が苦⼿なのである。
「うわぁぁん!」
「ママぁ~、暗いのこわかったぁぁっっ!」
「お~よちよち怖かったでちゅねぇ~みずきチャン!」
「もう⼤丈夫でちゅよぉ~」
冷静沈着な⽔⻤が、⽢えん坊キャラになって正⾯にいた⻤⽷に⾶び込んで来たので、彼⼥は慰め役を買って出た。三⼈の中で⼀番幼い⻤⽷はこの時、⾄福の喜びを感じていた。
「やだなぁ~キイトも暗いの苦⼿だし…」
「困ったなぁ⽔⻤ちゃんも慰めなきゃだし…」
「あ~忙しいし、困ったこまったぁ~」
⻤⽷が⻤紅にチラリと視線を送り彼⼥に聞こえるように呟く。⻤⽷は、やりたくない事や⾯倒な事をやらなくていい⽅向に持っていく事が得意なのだ。
「ウチがやってみるよ」
「ウチは、⽬隠し⻤だから暗いのとか関係ないし」
「レバーの位置も⼼眼で探れると思う」
⻤紅が、名乗りを上げた。
⻤紅が、中に⼊ると。
\グイィィン/
と機械⾳を響かせ扉が閉まった。
「中…思ったより広いですね」
⻤紅は、素朴な感想を述べた。
「アリガトウございます…でも、⼤⼈だとかなり窮屈なんですよ」
「昔、乗っていた戦⼈もよく頭や肘をぶつけてました」
遠き戦乱の世の記憶を語る鎧⼈形。
「それってウチが⼩さいってことかぁ、エヘヘ!」
「そうですねハハハ」
⻤紅と鎧⼈形は、他愛のない会話で和んでいた。
「ねえ みずきチャン、キクちゃん楽しそうだね!?」
「そ、そうですわね…」
真っ⾚なお⽬々の⽔⻤は、バツが悪そうに⻤⽷から顔を反らせた。
「レバーってこれだね?」
⾜元のレバーに⼿をかけた⻤紅が尋ねた。
「そうです、それを奥に押しこんでください…」
鎧⼈形は答えた。
\ガコン!/
レバーが奥へ押し込まれると…。
\プシュッ!/
それに連動して、鎧⼈形の踵の施錠が外れ、脚の⾃由を取り戻した。
\ガコンキュイィィン…ズン!!ズン!/
鎧⼈形は、⼿を突いたまま起き上がり、両⾜の裏を地⾯にめり込ませ⽴ち上がっると、両腕を振り上げファイティングポーズを取って⾒せた。その頭は、水鬼たち⼆⼈が⾒上げる程の⾼さ4mにあった。
\ガタン!/
背中の上に位置する小さなハッチが開いた。
「ヤッホー!」
「⽔⻤ちゃ~ん、⻤⽷ちゃ~ん!」
⻤紅が中から顔を出し⼿を降った。
「アリガトウうございます…」
「あなた達のお陰で、再び⽬覚めることが出来ました…」
鎧⼈形は、⻤紅に感謝の気持ちを伝えた。
「どう致しまして」
鎧⼈形の背中で笑顔を⾒せる⻤紅。
⽔⻤は、エイちゃんに乗って⻤紅の側まで上昇すると、そっと彼⼥に⽿打ちしました。
「⻤紅さん…それでこの⽅の事は、これからどう対処しましょうか?」
「キイトん家は無理だなぁ」
「クゥちゃんの他にも同じ様なのが七匹もいるし」
「体の⼤きなママ蜘蛛ちゃんもいるから⼿狭なんだぁ」
「こんな⼤きなコ拾って帰ったら、おかぁに叱られるし」
突然背後に現れた⻤⽷が、⾯倒くさいことを回避しようと、先手を打ってきた。
「⻤紅さん、わたくしの家の庭先で宜しければ預かりますけど?」
⽔⻤の⾃宅は、⼤きな屋敷で庭も結構広いのだ。ただし、親の許しが貰える確証はないのだが。
「ありがとう⽔⻤ちゃん」
「⼤丈夫、ウチの納屋のガラクタ⽚せば、この⼦ギリで⼊ると思うから」
少々恥ずかしそうに家庭の事情を漏らす⻤紅。
彼⼥の家は、岩肌に張り付くように⼀階を物置として使⽤している納屋があり、⼆階が住居になっている。敷地に庭と呼べるような広さは無かった。
「そうですか、それは何よりです」
⻤紅の⾔葉にホッとした⽔⻤。
「あのぅ、今更でなんですが…」
「この⽅のお名前は、何とお呼びすればよろしいんでしょう?」
「そうだ、まだ名前聞いてなかった」
ハッとする⻤紅。
「⾃⼰紹介まだだったね」
急いで鎧⼈形に⾃⼰紹介を始める⻤紅。
「ウチは⻤紅」
「こっちの⻘い髪の⼦が…」
「⽔⻤と申します」
丁寧にお辞儀をする⽔⻤。
「そして、この⻩⾊い髪の⼦が⻤⽷」
「キイトだよ、よろしく!」
「ねえキミの名前は?」
⻤紅が、鎧⼈形に尋ねた。
「ワタシは…⻤⼒機⼈です」
鎧⼈形は答えた。
「きりききじん?」
⻤⽷が不思議そうに復唱した。
「ハイ…⻤⼒発動機を動⼒として活動する⾃動機⼈の事です」
「それって名前じゃありませんわ!」
「私は⻤の⼦です、⼈の⼦ですって⾔ってるようなものですよ」
勘違いしている鎧⼈形に訂正を⼊れる⽔⻤。
「しかし、ワタシ達には、他に⾃分を呼称する⾔葉が⾒当たりません…」
「どの個体もただ、⻤⼒機⼈とだけ呼ばれてました…」
「それじゃ、キイトがつけてあげようか?」
「まぁ、⻤⽷さんが名付け親になられるんですか?」
少しだけ、心配そうに聞き返した水鬼。
「ダメぇ!?」
⻤紅の顔⾊を伺う⻤⽷。
「イイヨ、⻤⽷ちゃんお願い」
笑顔で了承する⻤紅。
「よろしくお願いします⻤⽷…」
鎧⼈形も鬼紅に続いた。
「ハイ任せて、格好いいのつけたげるから!」
親指を⽴てイイねをする⻤⽷。
「そうだなぁキリキキジン…キリ…ジン…」
「キリキ…リキ…リキ…」
「決めた!」
「⻤⽷さん、もう決まったんですか?」
あまりのスピーディーさに、少々⼼配な⽔⻤。
「ナニナニ!?」
「教えてぇ!」
⻤紅は、興味津々である。
「発表しま~す!」
「この⼦の名前は、リッキー!…です」
「りっきぃ!? なの?」
「えっ!?」
「そんなんでイイの?」
っと⻤紅。
「そうリッキー!」
「⻤⼒機⼈のリッキー!」
これは、イイ名前だと⾃信満々な⻤⽷。
「素敵なお名前です⻤⽷さん!」
⽔⻤は、気に⼊ったみたいです。
「でしょう」
ホッとした⻤⽷。
「決まったみたい!」
⼆⼈がイイなら問題ないね!
と⻤紅。
「キミの名前は、リッキー!」
「キミ個⼈の名前だよ」
決定事項を鎧⼈形に⻤紅が伝えた。
「リッキー…ワタシの名前はリッキー…」
初めて貰った⾃分の名前に酔いしれる⻤⼒機⼈のリッキー。
「素晴らしい名前をアリガトウございます!」
お礼を⾔うリッキー。
「リッキー、キミは今⽇からウチと⼀緒に住む事になるから!」
「ワタシを側に置いていただけるのですか?」
「アリガトウうございます⻤紅…」
「ああっ!」
「キイトはぁ、キイトにもお礼を⾔ってぇ!」
身を乗り出してお礼を催促する鬼糸。
「ハイもちろんです⻤⽷、名前をアリガトウ」
「そして⽔⻤…ワタシのために、涙を流してくれてアリガトウ!」
「そ、それは無しでお願いしますぅ!」
顔を真赤にして否定する水鬼。
「冗談です、ワタシを助けてくれてアリガトウ水鬼」
お礼を⾔うリッキー。
「リッキーさん、わたくしもお友達が増えて、とても嬉しいですわ!」
笑顔の水鬼。
「そうだわ!」
「明⽇は、皆さんでリッキーさんを洗って差し上げましょう!」
⽔⻤が提案をした。
「賛成!」
「キイト、タワシ持ってくるから」
「おにがわら⾏こ!」
更に⻤⽷が提案を上乗せした。
「でしたら、少し川上の方に滝⾏ができる場所がありますから」
「そこにしませんか?」
更に⽔⻤が…。
「賛成!」
その提案に⻤紅も乗っかった。
「良かったねリッキー」
嬉しそうに⻤紅がリッキーに予定を伝えた。
「明⽇は⻤河原で⻤の居ぬ間に洗濯だぁ!」
変なコトを⾔い出した⻤⽷。
「⻤⽷さん、それ意味が違いますわよ!」
真⾯⽬に修正を⼊れようとする⽔⻤。
「そうだよ、⻤の⼦はウチらなんだから居ぬ間は成⽴しないよ」
間違いに気づいてない⻤紅は、ボケを被せてきた。
「いやですから…そうではなくてですね…」
「鬼が本当に洗濯する訳では無くてですね…」
「これは比喩であって…」
修正が全く追いつかない⽔⻤。
「わたくしが⾔いたいのは…」
水鬼の修正も空しく三⼈の会話は、フェードアウトしていった…。
翌⽇、⻤河原にて…綺麗に洗ってもらったリッキー。
彼の背に⻤紅、⾜元に⽔⻤と⻤⽷がポーズを取っている⼀枚の写真で幕は降りた。
続く
この物語は、続きを書こうと思っています。物語に登場した⻤力について深堀りしたり、⻤力機人が人間の世界の産業革命後のテクノロジーの産物と対峙したり、リッキーが他の鬼力機人と戦ったりするシチュエーションを、ひねり出したいと思っています。