2時間で海
〜ふわふわ純愛逃避行①〜
男子目線
↓↓↓
「きれー。」
聞きなれた少し高い声で隣に座る彼女が言う。もう1時すぎだと言うのにガタガタと音を立てる窓から差し込む光は、俺には少し眩しすぎる。
もう夏も終わるというのに。
「綺麗だね。それにそろそろ着きそう。」
最寄りから2時間ちょっとで海に着く。恵まれた立地だともう3回は話した気がする。
今日の彼女は普段とは違って見える。別にそれは彼女が珍しくワンピースを着ているからとか、麦わら帽子がよく似合っているからだとか、巻かれた髪がふわふわだからとか、そういうことだけではない、多分。
不意に、彼女が俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ、似合ってる?」
「何が?」
「.........。」
「......。」
............。
.................これ終わらないやつだ。
「...似合ってるよ。」
「それだけ?」
「ワンピースも麦わら帽子もよ〜くお似合いですよねー。」
「ん〜〜!まぁ、合格ー!っと。」
大きく伸びをしながらそう言って、彼女は窓の外に視線を戻した。彼女も俺もお互いの赤くなった耳と少し重なった指先には気付かないふりをした。
できるだけ、できるだけゆっくり進め、電車。
〜ふわふわ純愛逃避行②〜
女子目線
↓↓↓
「きれー。」
予想よりも上ずってしまった声ががたがたと揺れる窓に反射する。
「綺麗だね。それにそろそろ着きそう。」
男子にしては少し高いけど私よりもずっと低い声で彼が応える。いつもと変わらない態度の彼に安心はするけど少し妬ましくも思う。沢山考えているのが私だけなんじゃないか、って。
それに今日は、今日は少しだけいつもと違う。お友達と買いに行ったきり着ていなかったレースの付いたワンピースを着て、大きめのリボンが着いた麦わら帽子まで被って。おまけに30分かけて整えたふわふわの髪の毛まで。変じゃないかなぁ、とか気合い入りすぎかなぁ、って少し不安になる。
でも、もう夏は終わってしまう。よし______
「ねぇ、似合ってる?」
あああ。言っちゃった。取り消したい。タイミング間違えたかも。
「何が?」
「............。」
言わない気か。言わせてやる。絶対言わせてやる。やつにもどきどきさせてやる。とか、考える。振動する電車と心臓の音がやけに大きく聞こえて、
「似合ってる。」
「それだけ?」
口をついて出てきた言葉に自分でも驚く。でも彼は口を開いてなにか言い出した。
「ワンピースも麦わら帽子も.................お似合い.........。」
彼の言葉はそっと重ねられた指先にうつってしまった私の心臓の音にかき消されてほとんど聞き取れない。けどきっとわたしよりも真っ赤になった耳が見えたから。だから、
「ん〜〜!まぁ合格。」
大きく伸びをした後にもう一度彼の手に私の手を重ねる。もう目を見る勇気は無いから海に気を取られたことにしよう。海に着いたら何を話そうかな。
できるだけ、できるだけゆっくり進め、電車。