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90) 2周目 アズールの家へ


 ロアンとリアは、懐かしい我が家の居間に立っている。

「あー アズールの家のにおいだあ……」

 リアは、ホッとした声だ。アズールの家は、薬草のにおいとあったかいひだまりの混じったようなにおいがする。ウィローの曽祖母が薬師だったそうなので、薬草のにおいが壁に染み付いているのかもしれない。こんな事態でも、安心を感じる。


「そうだろうとは思っていましたが、ウィローの気配はありませんね」

「でも、ウィローの部屋に入ってみようよ。何か手がかりがあるかも……あ、ロアン、ちょっと待って」

 リアはいったん自分の部屋に入ると、白いうさぎのぬいぐるみを抱えて出てくる。猫くらいの大きさだ。少し、くたびれている。

「タフィに持っていっていなかったんですか?」

「うん。『いつか帰ってくるから、待っててね』って約束してたの、このうさぎと。これ抱えていると安心する」

 うさぎのぬいぐるみは、旅をはじめてすぐのリアの11歳の誕生日にウィローが贈ったものだ。ロアンはちょっと微笑む。リアにもまだ可愛らしいところがあるなあと思ったためだ。


「開けますよ」

 ロアンがウィローの部屋を開ける。ふたりは薄々勘づいていたことだったが、ショックを受ける。リアはぬいぐるみをぎゅっとする。


 ウィローの部屋は、片付いている。


 しかし何もないわけではなかった。家具はそのままで、本も数冊残されている。本は本棚ではなく、机の上に置かれている。

 ロアンはクローゼットを開ける。昔ここに、リアが隠れていたことを思い出しながら。ローブは一着もなかった。からっぽのクローゼットだ。


「コルネオーリ城と魔王城に行くのに、ウィローのローブを借りられたらな、と思っていたんですが……」

「陰鬱屋敷の客室にあるんじゃない? 荷物を少し置いといていいか、お父様にウィローが聞いていたわ」

「帰ったら、行ってみましょう」


 リアは机に積まれた数冊の本を見る。

 本の上に、メモ書きが残されている。


「リアへ 

 きみが、欲しいかな? と思う本だけ残していくよ。それから机のなかに、魔法を込めた魔石がたくさん入っているから、ルーキスに解析してもらったりして、自由に使ってほしい

 たくさんの愛を込めて ウィロー」


 ロアンはウィローの机を開ける。

 全部の引き出しに、魔石がたくさん、ぎゅうぎゅうに押し込められている。


「でた、ウィローが魔法を込めた魔石……」

「? 何その顔」

「聖騎士試験のときに私もたくさん貰いましたけれど、碌なものがないですよ……」

「今度は違うかもしれないわ」


 リアは本を見る。

 花の育て方の本、料理の本、転移魔法陣集――


「転移魔法陣集?」

 リアは目を見開く。

 花模様の、薄く伸ばした金細工でできた美しい栞が、或るページにはさまれている。


「ロアン、アズールの家に来てよかったわ。すごい収穫だわ。お父様の魔法陣もちょっと不安だったし、これを持って帰りましょ!」

 リアは嬉しそうに、愛しそうに本を抱える。


ーーーーーーー


 陰鬱屋敷の客室で、ロアンとリアはウィローのローブを入手する。ロアンは紺色、リアは緑色のローブを身にまとう。ローブの裾が、ロアンの足首より上の位置で揺れている。

「丈が、私が着るにはすこし短いですね」

「私が着るにはちょっと長いわ、足首の下まであるもの。でももう、引きずらないわ。私も背丈が伸びたものね」


 リアはローブの袖のにおいをかぐ。

「うーん ウィローのにおいがする 安心する……」

「リアは、どうしてそういう育ち方をしてしまったんですかね……」

 ロアンは呆れるがリアはふふ、と笑い、ロアンを意味ありげに見る。

「そんなこと言って、ロアンだって同じことを思っているんじゃないの? ウィローのにおいだ、安心するな〜 って」

「は? 思っていないですけど」

 ロアンはジトっとリアをにらむ。


 ロアンはルーキスから、ウィローがよくつけている「お面」を借りる。魔力を隠す面だ。

「ルアン君に、必要ですか?」

 ロアンには魔力が一切ないので、ルーキスは不思議そうだ。

「顔を見られたくない理由がありまして……」

 ロアンはお面をつけ、紺色のローブのフードを深く被る。


「ロアン、ウィローにそっくり!」

 リアはロアンにわざと横からぴっとりくっついて、冗談を言う。

「ローブとお面でウィローと認識しているんですか? 結婚したい相手なのに?」

「からかっているだけよ」

 リアは気を悪くして、ロアンをにらむ。


 ロアンはルーキスに時刻を聞く。ルーキスは金時計を手に、時間を教えてくれた。

 昼過ぎて、夕方にはまだならない時間だ。

(この時間なら、何もなければ厩舎のあたりは人が少ないはずだ)

 ロアンは意を決する。

(うまくいきますように。アステル様に、無事、会えますように)

 ロアンは祈る。アサナシアにでもなく、タフィにでもなく。しいていえば、アステルに――そこでそのまま何もせず待っていてください、という気持ちをこめながら。


「リア、行きましょう。コルネオーリ城へ」

 ロアンは転移魔法陣に乗り、リアに手をのばす。リアは、ロアンの手をしっかりと握る。

「リア、約束してください。ここからは声をひそめて、静かにするんですよ」

「はあい」

 いささか不安な返事だ。


「ルーキスさん、お願いします」

 ルーキスは、転移魔法陣に魔力を流して、転移魔法を起動する。


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