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88) 2周目 ウィローの誕生日


 ウィローの元に、ルーキスから手紙が送られてくる。白い封筒が、花模様の赤い封蝋で閉じられている。リアに何かあったのかと心配になりながら開けると、それはリアからの手紙だった。


「愛するウィローへ


 ウィロー 元気にしている? 私は元気! いつもウィロー元気かなあって考えているよ

 お誕生日パーティーをするから、ウィローの誕生日は、お昼前くらいにタフィに来てね! 絶対に来てね! 待っているからね


 愛を込めて リア」


 ウィローは、口元がゆるむのを抑えられない。

(かっわいい手紙……可愛い字、ぼくの大好きな字だ)

 ずっと変わらない筆跡をなぞり。ソファーに座りながら、何回も手紙を眺める。そのあと、手紙に魔法をかけると、大切なものを集めている箱にそっとしまいこむ。


ーーーーーーー


 ウィローの誕生日。まだ朝のうちに、ウィローは陰鬱屋敷にやってくる。庭にはリアの姿が見えた。庭に咲いた花のうち、綺麗なものを飾りにしようと切っているようだ。リアは現れたウィローに気づき、駆け寄る。

 リアは白いワンピース姿だ。ウィローも白いローブを着ている。紺色の襟付きのシャツに黒いズボンを履いている。


「おはよう、ウィロー! 早いのね 準備がまだ全然おわっていないわ」

「おはよう、リア ぼくに手伝えることがあったらな、と思って早めにきたんだ」

「お祝いされる本人にお手伝いしてもらうことなんて、何もないわ」

 ウィローは、リアの抱えている数本の花を見る。ウィローは花にそっと触れる。

「庭のお花、綺麗に咲いたね」


 リアは片手に花を持ち、両腕を広げて、ぎゅーっとウィローをハグする。

「ウィロー 20歳のお誕生日、おめでとう!」


 ウィローはリアにぎゅーっとハグを返す。

「ありがとう、リア。ぼくって最高に幸せ者だよ。きみから手紙をもらって、パーティーを開いてもらえて。もちろん手紙に保護魔法をかけたんだ」

「保護魔法って何年くらい持つの?」

「ぼくの魔力がつづくかぎりはもつんじゃない?」

 じゃあ、相当長持ちだ、とリアは思う。


「こんにちはー」

 屋敷の門のあたりから、リアのよく知った声が聞こえる。リアは嬉しそうにかけていく。

「テイナ!」

「リア、こんにちは。今日、ウィロー様のお誕生日パーティーをするんだってロアンが言っていたから、もしかしたら会えるかなって思ってきたの」

 ウィローがうしろから、のんびりと顔を出す。

「テイナ、久しぶり ぼくに何か用?」

 

 テイナは茶色の髪を三つ編みにしている。薄茶色の瞳で、おそるおそるウィローの顔を見る。

「あの、ウィロー様、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、テイナ」

 ウィローは微笑む。親しい相手にする微笑みではなくて、すこしかたい笑い方だ。


「あの、私、魔王様にお願いがあって参りました」

「?」


 リアは、嫌な予感でいっぱいになる。


「テイナ、噂を信じているの? ぼくは魔王じゃないよ」

 ウィローは困った顔をする。

 テイナはタフィ教徒だ。タフィ教徒にとっての魔王は、信仰の対象のひとつだ。テイナは深々と礼をして、頭を下げる。


「ウィロー様が魔王様であるのなんて、もう、タフィの村のみんなが知っています。お願いがあって参りました」

「ぼくは魔王じゃないけれど……ひとりの人間として、親友の恋人の頼みは聞いてみようと思うよ。だから、顔をあげてくれる?」


 顔をあげたテイナの瞳が、懇願の色を帯びている。


「ロアンを助けてください!」

「……?」

 ウィローは意味がわからず、となりのリアを見る。リアの表情は、凍りついている。

(何? リア、どうしたの?)


「魔王様は、魔王の呪いを操れるのでしょう? そうであるなら、どこかにやってしまうこともできるのではないですか?」

「ちょっとまって、テイナ。話がのみこめないんだ。ロアンに何かあったの?」

 ウィローはテイナの表情とリアの表情を見ながら、困惑している。テイナは涙をこぼす。


「ロアンが、魔病にかかって――」



ーーーーーーー


 テイナが去っていったあと。リアはウィローにかける言葉が見つからない。ウィローもリアに何も言わず。何も聞かずに、屋敷に向かう。リアはあとをついていく。

(ウィロー、怒ってる?)

 ウィローの歩くのがはやくて、リアはついていくのがやっとだ。いつもなら、リアの歩く速さを気にしてくれるウィローなのに。


 

 屋敷の居間で、ロアンはパーティーの準備をしている。薄茶色の襟付きのシャツに、黒いズボンを履いている。居間にはルーキスもいて、お茶を飲んでいる。午前中にいるのは珍しい。

 ルーキスは、ウィローが来ると知って、挨拶をするために待っていた。しかしルーキスは現れたウィローを見るなり、視線を逸らした。ウィローの魔力から、ひどい混乱を感じたためだ。


「ロアン」

「ああ、ウィロー もう来たんですか?

 約束の時間より早いですよ? ケーキも焼き上がっていないですし……」

 ロアンはウィローの表情を見て……リアの表情と目配せに、察する。


「……どうしました、ウィロー?」

 ロアンは朗らかに笑う。心の中では(なにも誕生日にバレなくても)と思いながら。

 ウィローは、深刻な顔をしている。


 ウィローはロアンの手をとり、長袖の腕をまくる。魔病の印である、灰色の斑点が腕にある。


 ロアンは、もし、ウィローにバレたら。つとめて明るく振る舞おうと決めていた。こんなことは、なんてことないことだ。なんてことないから大丈夫だと、ウィローに伝えるために。

 しかし、ウィローの表情が、本当につらそうだ。

(こんな顔をさせたかったわけじゃ、)

 ロアンは泣きそうな気持ちを堪えて、つとめて微笑もうとする。


 ウィローはぽつり、と言った。


「ぼくのせいだ」


 ロアンとリアの表情がかたまる。


「なんでそうなるんですか?」

「きみが、ぼくのいちばん近くにいたからだ」

 藍色の瞳に翳りがみえる。

「だって、魔王の呪いが探しているのは、ぼくなんだ」

「?」

 ロアンもリアも、ウィローの言葉の意味がわからない。


「リアは、リア自身の力で守られている。お守りに込められた魔除けの魔法もある。ぼくは、きみにも魔除けの魔法をかけておくべきだったんだ。なんで気づかなかったんだろう」

「クレム製の魔除けがありますよ」

 ロアンは明るく笑いかける。

「私はウィローの近くで育っていますから、逆に、魔のものへの耐性は強いんじゃないですか?

 そんなすぐすぐ死にませんよ、だから、ウィロー、お願いですから」

 ロアンはどこかへ行こうとするウィローの手首をぐっと握る。

「落ち着いてください」


 ふたりは、にらみあう。

 そこにリアが、ぽつりと言葉をこぼす。


「私が、封印すればいいんじゃないの?」


 ウィローは心臓が止まりそうになる。


「ウィローひとりで、魔王の呪いの封印をする必要はないよ。だって、本来、私の役目なんでしょう? 私たち3人で協力して、それをしようよ」


 ロアンも勇気を出して、言葉をかける。


「そうですよ、ウィロー1人が、大陸の平和を背負うことはありません。私たち3人で、協力してそれをしましょうよ。ね、ウィロー。私たちはずっと貴方の力になりたいと思っている。私たちのことも、頼ってください」

 

 ウィローは黙っている。何を考えているのかがわからない。透明な眼差しで、遠くを見ている。(ここにいない)とロアンは感じる。

 しばらく、沈黙の時間があった。



 ウィローは突然、リアをぎゅっとした。ぎゅーっと抱きしめて。ロアンの肩も抱き寄せて、ぎゅーっとした。ハグされたことで、ロアンはウィローの手を離す。理解が得られたのではと思ったのだ。

 唐突なハグのあと、ウィローはロアンのほうにリアの背を押した。

「ロアン、頼んだよ」

 ロアンがリアの体を受け止め、呆然としているとウィローが口を開く。


「ルーキス」

「はい、我が主」

「ぼくが目的を遂げるまで、リアとロアンを屋敷からだすな。これは命令だ」

「かしこまりました」

 ルーキスは立ち上がり、深々と礼をする。

 ウィローはふたりに背を向け、離れる。ふたりとウィローの間に、ルーキスが立ちはだかる。


「え!? ウィロー 何言ってるの!?」

「ウィロー ちょっと待って、話を聞いてください!!」

 リアがウィローに近づこうとすると、ルーキスがそれを阻む。

「ちょっと! いやだよ、なに!? なんで!? お父様、どいて!」

「ウィロー!」

 ロアンは力づくでもウィローを止めようと、走る。力だけなら、きっともうウィローに勝つことができる。


 しかし、ウィローは魔術師だ。

 ロアンは足が動かなくなるのを感じる。

 ウィローは魔石をひとつ割る。屋敷全体に、なにか、魔術が走る。


「リア、ロアン、ぼくと一緒にいてくれて、本当にありがとう。リア、愛しているよ。

 ロアンも、どうか幸せにね」


 ウィローはローブの内ポケットに手を伸ばす。耳飾りを取り出して、「帰りたい」とささやく。

 ウィローは青い光に包まれて、ふたりの前から消えてしまう。


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