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81) 2周目 うわさ / リア、蜘蛛になる


 ロアンは「タフィのお祭り」の準備の集まりにリアを連れて行く。ルーキスが不在で屋敷に本当にリアだけしかおらず少々不安だったのと、リアがものすごく暇そうにしていたためだ。テイナも来るので、一緒に花飾りでも作っていたほうが屋敷にいるより良いかと思ったのだ。


 ロアンは(リアは可愛いから、村のみんなにちやほやされて調子に乗るかもしれないな)と思っていた。ところがリアが広場に行くと、何箇所かでひそひそ話がおこる。村の若い人たちがリアのことを遠まきに避ける……特に、男性が。露骨な避け方なので、リアはすごく悲しくなってしまう。


 はじめ、ロアンとリアとテイナは同じテーブルに座って準備を進めている。途中で『静かないじめ』みたいな状況に気づいたテイナが、露骨にリアを避けている若い男性の集団に向かって声をあげる。


「ちょっと、何? リアちゃんが可愛いからって、貴方たちなんなの? それでも『タフィ様のもとで共に暮らす者たち』なの? リアちゃん、泣きそうになってるのよ!」

「テイナ、いいよ……」

「はじめてこういう集まりに来てくれたんだから、優しくしてあげなさいよ!」

 テイナは、リアのために怒っているようだ。


 男性のひとりがテイナに言う。

「その子が、タフィ様だっていう噂があるんだ」

「は、え? 何?」

 テイナは眉をひそめる。

「去年、ルーキスさんの娘さんが村に来たあと、すごい可愛い子が来たって話で俺たち盛り上がって……一人がその子にちょっかいをかけようとしたあと、高熱をだして倒れたんだ。他にもこの一年でその子に直接、ちょっかいをかけようとした奴が2人、高熱で倒れてる」


 リアはロアンの顔を見る。ロアンは首を横に振る。初耳のようだ。


「最初に熱をだした奴が一番苦しんだんだけど、そいつは原因がわからなかった。あとの2人はわかっているよ。小さな蜘蛛の魔物に刺されたんだ」


 蜘蛛。テイナはわけのわからない顔をしているが、ロアンとリアは顔を見合わせる。


「最近になって、ほら、お面の人……魔王様だって噂がある人がいるだろ? あの人がその子を大事にしているところを村の誰かが見かけて、それで噂になってる。その子はタフィ様だ。恋をすると魔王様の機嫌を損ねる、『恋したら俺たちは死ぬ』ってね」

「馬鹿馬鹿しいわ。ウィロー様のことでしょ? 私、直接話したことがあるけれど、本当に優しくて良い方よ。仮に噂どおり魔王様の生まれ変わりだったとしても、あの優しいウィロー様がそんな、恐ろしいことをするはずがないじゃない」

 テイナは、ウィローを庇うが。

 リアは、撃沈している。

「……リアちゃん?」

 テイナは目をぱちくりさせて、テーブルに顔を突っ伏してしまったリアのことを見る。それからロアンに目を向けると、ロアンもテーブルに肘をつき、片手で額を抱えている。

 ふたりとも、テイナの味方をしてくれない。


 リアはしばらく突っ伏していたが、顔をあげて男性に声をかけた。

「あの、理由を話してくれてありがとう。ウィローと話してみるわ」

 男性は黙って軽く頷くと、リアからすぐに目線をそらす。


ーーーーーーー


 昼過ぎ、祭りの準備への参加をはやめに切り上げて、ロアンとリアはふたりで屋敷に戻る。


「……リア、どうするつもりですか?」

「どうしよう、ロアン。どうしたらいい?」

「本当に……どうしたらいいんですかね、あの人……」


 リアはため息をつき、ロアンも途方に暮れた感じだ。あの場で「ウィローじゃない、ウィローはやっていない」なんてふたりにはとても言えなかった。むしろ(絶対にウィローだ、ウィローがやりました)とふたりはそう思った。


「こういうことがあるたびに、もう私って、本当にウィローのお嫁さんになる他ないんじゃないの? って思うんだけど……ウィローは基本的に、私のことをからかっているだけなの」

「あんなにいちゃついていたのに?」

 ロアンはげんなりして聞く。


「ウィローってもともと距離が近いじゃない? 小さい頃からしているようなスキンシップをして『家族だから』って言い張る感じなの。どうしたらいいと思う? ロアン」

 リアはロアンの顔を見上げる。

 ロアンがにょきにょき伸びたせいで、小さかったころよりも見上げないといけなくなってしまった。


「もともと距離が近いのは、リアに対してだけですよ」

「え?」

「リアに見せたらびっくりすると思いますけど、小さな頃のあの方って『女の子に近づかないでほしい!』って感じで、声をかけられても冷たくあしらっていたんですよ」

「そうなんだ……想像つかないな……」

 リアは首を傾げる。


「じゃあ、やっぱり私は、ウィローにとって特別ではあるんだよね」

「間違いなく」

(それこそウィローは、リアのために生き方を変えたわけですからね)

……ウィローに付随してロアンもだが、それは置いておく。


「リアは『真剣にお嫁さんになりたいんだ』って、ウィローに言ってみたらどうですか?」

「えっ!? ううん……」

 リアは真っ赤になって目をぎゅっとつむる。

「……でも、確かにそうかも。『私はもう子どもじゃないんだから! 真剣なんだから!』ってアプローチしていかないと、ウィローに伝わらないよね。ずーっとはぐらかされてばっかりになっちゃう。

 あと『村で暮らしにくくなるから村の人に危害を加えるのはやめて!』って言わなきゃ」

 リアは胸の前で小さな両手をぐーにして気合いを入れる。


「ウィローとふたりきりで話したいな。次にウィローが来るのはきっと私の誕生日だよね。タフィのお祭りの日」

「そうでしょうね、必ず来るでしょうね」


「……お芝居をしようかな。私、お祭りの日、高熱をだして寝込むことにするわ」

「リア、協力しますよ。今年はお祭りの手伝いにしっかり参加するので、途中までですけれども」

「ありがとう、ロアン」


 リアはロアンに手を差し伸べる。ロアンはリアの手をとって、握手をする。『ウィローにあまりおかしくなってほしくない同盟』再結成だ。


ーーーーーーー


 お祭りの日の午前中。

 リアは自室の扉がノックされる音を聞く。


「リア、入るよ」

 ウィローの声だ。ロアンが、うまいこと伝えてくれたようだ。


「リア、起きてる? 熱を出したって聞いたよ。誕生日なのに、かわいそうに」

 ウィローは、一日看病する気満々な感じで腕にいろいろと抱えている。リアはベッドにまっすぐに寝て、毛布をすっぽり頭までかぶっている。


「リア、寝ているの?」

 ウィローは机の上にいろいろを置いたあと、ぽつりとつぶやく。

「リアがこんなにお行儀よく寝ているわけがないか……」

「どういう意味、ウィロー」

 リアは毛布から顔を半分だけ出す。

 長いこと中に入っていたので、顔は真っ赤で、体も汗ばんでいる。風邪っぽく見えるようにしたのだ。リアは上半身を起こす。


「ほら、起きてたね。大丈夫? リア」

 ウィローは心配そうにリアの額に手をあてて、気づく。さほど、熱はなさそうだ。


「大丈夫。蜘蛛に刺されただけだから」


 リアは、緑色のローブの胸元を全力でぐいっと引っ張る。ウィローはバランスを崩して、リアの横に、手をつく形になる。リアの目の前にウィローの顔がある。リアは片手はローブ、片手はウィローがついた手の腕を握る。

 今日は絶対に逃さない、とリアは思う。


(私が蜘蛛になってやる)


 ウィローから話を聞き出せるだけ聞き出すし、リアの気持ちも洗いざらいぶちまける。ウィローが困るとわかっているけれど、告白する。


 リアは口を一文字に結んでウィローを見上げ、黒い瞳でにらみつける。


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