77) 2周目 亡霊
ウィローの木の前に、シンシアがいる。
変わらずに可愛らしいそのひとは、青みがかった灰色の瞳で、ぼくのことを見つめる。
長く白い癖っ毛が風で揺れるのを、シンシアは耳にかきあげる。
そして、白い手をぼくにのばす。
「アステル きて 寂しいよ」
シンシアの可愛らしい白いドレスの裾が、風に揺れている。
晴れて青空の広がる日だというのに、シンシアはお守りをつけていない。
でも、もう、平気なようだ。
「ウィローの木で、待っているからね」
ウィローの木が、風に揺れている。
シンシアは、泣いている。
「痛い、痛いよ、アステル」
シンシアは、ポロポロとこぼれ落ちる涙を、白い手でぬぐっている。
「どうして私を置いていったの?」
シンシアの近くに行き、なぐさめたいのに、いつもシンシアに手が届かない。
「きみのところに帰るよ、シンシア。
ぼくは、きみの願いを叶えている途中なんだ」
シンシアの白い指が、指差す。
「その子ばっかり、ずるいわ」
ぼくは、リアのちいさな手の感触に気づく。となりに10歳のリアがいて、ぼくとリアは手をつないでいる。
ちいさなリアは、不思議そうにぼくのことを見上げる。
「私のお守りなのに」
シンシアの胸にお守りはなく、リアの胸にお守りがある。
「私のアステルなのに」
シンシアは、ぼくと手をつなぐことができない。
「シンシア、愛しているよ」
ぼくはリアを守りながら、シンシアを言葉でなぐさめる。
「あともう少しだけ、待っていて。
かならずウィローの木に、灯りを灯しに行くからね」
ぼくはシンシアに、約束をする。