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7) 2周目 説得とリボン / ウィローの耳飾り


「リア、寝てしまいましたね」

 居間の椅子で眠ってしまったリアの肩に、薄手の毛布をかけながらロアンが言う。

「買い物が楽しかったんでしょうね」


 ウィローは魔法の光を徐々に弱めると、手をとめて伸びをした。

「完成かな。2個とも良い魔石だったね。はい、これ、ロアンの分だよ」

 ウィローは青い魔石をロアンに渡す。

「ありがとうございます」

「どうやって身につけるの?」

「鎖をつけて剣の柄に巻き付けようかと。そうすれば帯剣していないときには、首にかけられますし」

「……首にかけるには、鎖が長いんじゃない?」

「気にしません」

 実用性重視です、という感じのロアン。


 ウィローが立ち上がり、リアを寝室に運ぶために近づこうとするのを、ロアンが止める。


「ウィロー、ひとつ提案があるのですが」

 ロアンは、リアを起こさないように声をひそめながら、勇気を出す。

「この髪飾り、リボンをつけてあげませんか? 私が縫うので」

 ウィローの表情がかたまる。ウィローはリアがめかしこむのを、ひどく心配するのだ。


「ねえウィロー、リアは可愛くしたいと思いますよ。今日の様子をウィローも見ていたでしょう?」

「うん、可愛いものを見ているリアが可愛かった」

 ウィローはうん、うん、と頷く。


「黒や灰色の服ばかりでは可哀想ですよ。こんな土地まで来たら、リアのことを、他国の辺境伯の姫君では? なんて、疑う人はいませんよ」 

「そうかなあ……」

「リアはもう、完全に町の子どもですよ……貴方がそう育てたので」

「でもリアは、たまに町の子どもは知らないような言葉遣いをするよね」

 ウィローの顔に笑みがないが、リアのためには引けない、とロアンは思う。

「貴族の言葉を知らない人は、変な言葉遣いだと思うだけのことです。いつも黒い服の方が不自然ですし、目立ちます」

 ウィローは悩む。

「ウィロー、リアの髪飾りにリボンをつけてあげましょう?」

「でも……」

「お願いですから」


「うぅ……」と声が聞こえて、ふたりはハッとしてリアの方を見る。眠りを妨げてしまったかな……とふたりは顔を見合わせる。


「……わかったよ、そうしよう。

 服も新しいのを、何着か用意しようね。

 ロアン、リアを運ぶから椅子を引くのを手伝って欲しい」

 

 ロアンが音を立てないように椅子を引くと、ウィローはリアをお姫様抱っこして、リアの部屋に連れて行こうとする。


「おやすみなさい、ウィロー……リア」


 ロアンがリアを呼ぶときに、眠りを妨げないようにさらに声を小さくしたのを聞き、ウィローはロアンを振り向いて微笑む。


「おやすみ、ロアン。君も良い夢を見てね」


ーーーーーーー


 翌朝、居間のテーブルの上に置かれたリアの髪飾りには、白いリボンがついていた。リボンの中央に、青い魔石の髪飾りがあしらわれている。

「……」

 寝巻き姿で寝ぼけ眼のリアは、絶句したあと、叫ぶ。

「可愛くなってる!!!」

 手に取り、しげしげと眺める。

「とっても可愛いわ! なにこれ、なにこれ……可愛いわ!」

「ふふふ、そうでしょう。私が一晩でつくりました」

 ロアンの目の下には隈ができている。

「ここをこうして、取り外せば、通常どおりバレッタとしても使えます」

「ありがとう、ロアンって本当に手先が器用ね! だいすきよ!」

 リアはぎゅーっとロアンに抱きついた。

 ロアンは赤くなるが、この抱擁はウィローの機嫌を損ねるのでは? と思い、あわててリアから離れる。ウィローは見た目には特に気にせず、という感じで、居間の椅子に座りあたたかいお茶を飲んでいる。


 リアは黒いウェーブの長髪を、リボン付きの髪飾りで結わく。


「似合っていますよ、リア」

「ありがとう、ロアン」

 リアは本当に嬉しそうだ。


「……ウィローは何か言ってくれないの?」 

「とっても……可愛いよ、リア」 

 ウィローもリアに微笑み、リアは満面の笑みを返す。


(私が可愛くするのを、ウィローはあまり喜ばないと思ってた。でも今日は、喜んでくれている……の、かな? 嬉しい!!!)


「でも、少し派手じゃないかな、ロアン? どう思う? リアが可愛いすぎて、拐われたりとかしない?」

 ウィローはやはり心配なようだ。

「大丈夫、ウィローが『帰還の魔法』を込めてくれた魔石があるから、拐われる前にお家に帰れるし、拐われてもお家に帰れるもの」

 リアは(せっかく作ってもらったリボンを取り上げられてはたいへん!)と早口だ。しかしリアの言葉に、ウィローはさらに心配そうな顔をする。



 ロアンは『帰還の魔法』についてウィローに聞く。

「ウィロー、魔石に触れて『帰りたい』と言えば、発動するのだと言っていましたね」

「そう、でも一字一句『帰りたい』でなければならないよ」

「たとえば、私がリアの魔石を、リアが私の魔石を使うことは可能なんですか?」

「可能だよ、この魔法は、使用者は指定されない。あと、魔法使用時に肌と肌が触れていたら、一緒に帰ることになるよ」

 ウィローはコップを手にとり、あたたかいお茶をひとくち飲む。

「あー でも、ぼくのは使わないほうが良いかも…… 片方、失敗しちゃって、全然、べつのところに飛んじゃうんだよね」


「失敗? ウィローが?」

 ロアンが目を見開く。ウィローが魔法を失敗する姿というのは、知り合った5歳のときから見たことがない。『失敗したことにした』ことはあるのだが……。

「片方ってどういうこと?」

 リアが首を傾げる。


 ウィローは、茶色いローブの左胸の内ポケットの中から皮の小袋をとりだす。『ウィローのお守り』が入っている場所だとリアは思う。ウィローは小袋のなかから、耳飾りを取り出して机の上に置く。対の耳飾りの先で、小さな青い石が揺れている。耳につける部分と、魔石をつなぐパーツとして、ひとつは星、もうひとつは月の金細工が使われている。


「全員、青い石なんですね」

「みんなで、おそろいだね」

 ウィローはニコニコしている。


「せっかくならウィローも、ロアンや私の瞳の色にすればよかったのに。家族で家族の色を身につけるって、素敵じゃない?」

 リアがとぼけた感じでウィローに言う。


「えー……? だって、どっちの色にすれば良いか、わからないよ?」

 ウィローは、リアの瞳をのぞきこむ。

「黒にするべきか、青みがかった灰色にするべきか、迷ってしまうからね」

 ウィローは微笑み、リアは動揺を悟られたくなくて、そっぽを向く。そっぽを向いたほっぺは赤く染まっている。


「この耳飾りは、大切な人からの贈り物なんだ。まあ、レプリカなんだけれどね」

 ウィローの言葉の意味がわからず、リアとロアンは顔を見合わせる。この耳飾りにはもとの形があって、プレゼントとしてレプリカをもらった、という意味だろうか。

(ウィローにレプリカを贈る?)

 ロアンは違和感を覚える。意匠としてはウィローの私物らしさがあり、贈られたものということも納得できるのだが。


「右と左で、すこし色味とデザインが違うんだ」

「片方はこの家に帰ってこられるの?」

「そう」

「もう片方は?」

「空に投げ出されるよ」

「えぇ……」

「えー……」


 2人は絶句したあと、顔を見合わせる。

(ってことは、ウィローは一回、試したのかな)

(空からどうやって帰ってきたんでしょうか)


「だから2人とも、ぼくの耳飾りに触らないようにね」

 ウィローはそう言ったあと、小袋に耳飾りを戻し、ローブの内ポケットにしまう。

「つけないの?」

 リアは聞く。

「うん、とても大切なものだから、落としたくないんだ――必要なときには、もちろん身につけるよ」

 リアは、ウィローの耳飾りは、小麦色の髪と藍色の瞳に似合うだろうなと思った。

(金の髪に青い瞳ならもっと似合っただろうな。贈り主はウィローのことをよく知る人だったんだ……どんな人だったんだろう?)

 知らないウィローと知らない贈り主のことを考えて、リアは不思議と、すこしだけもやもやした。

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