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60) 1周目 ふたりの朝/教国エオニアからの使者

 

 シンシアは、アステルの腕のなかで目を覚ます。

 シンシアは白い寝巻きのワンピースを身に纏い、アステルは上半身裸で白いズボン姿で寝ている。シンシアはアステルを起こさないように、アステルの腕のなかから脱出する。もぞもぞ。


 脱出後、魔石に触れてベッドのそばのランプを灯す。部屋に相変わらず、窓がないためだ。やわらかな灯りに照らされるアステルの寝顔を眺め、金色のさらさらの髪にそっと触れてみる。長い睫毛をじーっと観察する。シンシアの中に、アステルに触りたい気持ちと起こしたくない気持ちの両方があった。


 シンシアはそーっとベッドから抜け出して、顔を洗って髪をとかしてから、足音を立てないように寝室に戻る。


 アステルはまだ眠っていた。

 シンシアはアステルのとなりに行って、寝顔をじーっと見つめたあと、頬にそっと口付けする。すると、アステルはシンシアの背中に両手をのばしてシンシアを引き寄せる。シンシアをふたたび腕の中につかまえながら、横に寝返りを打つ。 

「アステル! 起きてたの?」

 アステルは返事をする代わりに、シンシアの頭と背をぎゅーっと、力強く抱きしめる。シンシアの白い癖っ毛をくしゃくしゃにする。じたばたするシンシアを見て、アステルは、ふふ、と笑う。シンシアも笑う。


「おはよう、シンシア」

「アステル、おはよう」

 

 シンシアは一度解放されるも、アステルに甘えに行き、アステルを抱きしめる。アステルはシンシアをくすぐる。ベッドの上でふざけあい、笑いあいながら、ふたりはごろごろしている。

 

ーーーーーーー


 城の応接間と会議室を兼ねた部屋のソファーに、第二王子のエルミス、第三王子のディアス、そして第四王子のアステルとその妻、シンシアが座っている。テーブルを挟み反対側のソファーに、教国エオニアからの使者3名が座る。

 外交担当のエルミスは金色の長い髪を後ろでゆるく束ねている。軍事を担当するディアスは、この場にいる兄弟の中で一番短い金髪だ。アステルの髪は、耳にかかるかかからないかくらいの長さだ。


 エオニアの使者は挨拶するときに本当に恭しく、シンシアに接した。王子たちより聖女であるシンシアのほうが立場が上と考えているような振る舞いだ。エルミスとアステルは何も言わないが、ディアスは不快そうな顔をする。その後、4名は今回の魔病討伐の説明を受ける。


「別部隊?」

 使者の話を、大人しく聞いていたアステルが口を開く。

「つまり魔病討伐のあいだ、ぼくとシンシアは一緒にいられない、ってこと?」

 アステルはとなりに座るシンシアの片手をそっと握る。シンシアは部屋に入ったときからずっと不安そうな顔をしている。


「アステル殿下、魔病討伐隊においては伝統的に、聖女様の周りを守るのは神聖力のある者だけと決まっております」 

「それは、エオニア側が用意した人間だけなのか?」 

 ディアスが聞く。 

「もちろん聖女様が不安なようでしたら、コルネオーリから何名か、神聖力を持つ者をそばに置いていただいて構いません」

 アステルは、広い部屋の壁に並ぶ護衛騎士たちを振り向き見る。背の高い紺色の髪の騎士、ルアンとアステルの目が合う。


「では、アステルは何のために行くんですか?」

 エルミスが言う。エルミスは大事な弟が、戦いの場に行くことをあまりよく思っていない。

「アステル殿下は、魔術部隊です。魔術部隊は聖騎士隊の先に立ち、魔物を退けて、聖女様の進む道をつくるのが慣わしです」

「わた」

 シンシアは話そうとして、噛む。アステルはシンシアがこの場で話し出そうとしたことに驚く。


「……私の夫に、先鋒隊に立てと仰っていますか?」

 シンシアの青みがかった灰色の瞳が、使者たちを見つめる。

 場が静まり返る。


「……そうだ。アステルは仮にも王子なんだぞ? エオニアは、コルネオーリを侮辱するつもりか?」

 ディアスが言う。

(仮にも、って)とアステルは兄の顔を見る。


「でしたら、アステル殿下は、魔病討伐に参加されなくとも構いません」

「いや、参加するよ」

 アステルは即答する。

「ぼくの立ち位置なんてどうでもいい。ぼくはシンシアを支えたいと思っている。その魔術部隊とやらが、シンシアの果たす役割の支えになれるなら、ぼくはそこにいるよ。シンシアのところに、小さな魔物一匹も近づけないようにする」

「頼もしい限りです」

 エオニアの使者は微笑む。


 シンシアがアステルを見て、アステルはシンシアと目を合わせる。アステルはエオニアの使者たちに静かな声で話す。

「ぼくたち夫妻が気になっているのは、封印の儀式のことだ」

 場が再度、静まる。

「シンシアは、一人で封印の儀式にのぞむのだと言ったね。それは、なんとかならないの?」

 

「正確には、教皇様が途中まで立ち会います」

「ぼくも立ち会いたい」

「なりません。儀式は神聖なものです」


 アステルはしばし、考える。

 青い瞳で使者を見つめて、静かに、要求を伝える。


「じゃあ、教皇様に会わせてほしい。直接、話したい」

「お忙しい方なので、難しいかと……」

 使者はアステルの申し出を渋る。


「私からも頼むよ。シンシアは、あなたたちにとっては『今代の聖女』かもしれないが、弟のアステルにとっては、かけがえのない妻なんだ」


「……わかりました、エルミス様がそう仰るのであれば、一応、お話だけはしてみましょう」

 使者は渋々、了承をする。


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