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6) 2周目 10歳 ウィローのお守り


 旅をはじめて、すぐの頃だ。だからリアは10歳で、ウィローは16歳だったと思う。


 リアはぶかぶかのコートを着込み、革のブーツを履く。泊まった宿の玄関の扉を開けると、雪がどさどさと屋根から落ちてきた。外のあまりの眩しさに、リアは思わず目を細める。

(雪の積もる地方の朝は、こんなに眩しいんだ……)

 綺麗と感じるより先に、リアは不安に襲われて、自分の髪をひと束とって目をやる。黒い。リアは、ホッとする。

 黒は好きな色ではないけれど、黒い髪なのは、魔法が解けていない証拠だ。ウィローはリアに「おまじないの最初に、髪を黒くするからね」と約束しているのだ。「髪が白に戻ったら、おまじないが解け始めている証拠だよ」と。リアが自分の危険に自分で気づくことができるように。



 宿屋の少し先、水の止まった噴水の縁にウィローが腰掛けているのが見えた。厚手の緑色のローブを着て、白い襟付きのシャツと黒いズボン、革のブーツを履いている。ウィローは手に何か持って眺めている。キラキラと輝くそれは、ひときわ眩しい光を放っていた。


 リアが歩くと、積もった雪にブーツが沈み込み、ぼふぼふと音がした。ウィローは顔をあげてリアに気づくと、キラキラを手の中に隠した。  


「おはよう、リア」

「おはようございます、ウィローさま」

 リアは恭しく礼をして挨拶をする。

「素敵な挨拶だね。でもリア、丁寧な言葉や仕草は使わなくていいよ、その格好では逆に怪しまれるから」

「じゃあ、ウィローさん?」

「ウィローでいいよ」

「ウィロー……」

 呼び捨ては恥ずかしい……とリアは頬を赤らめるが、気を取りなおしウィローのとなりに座る。勇気をだして、名前を呼ぶ。

「ウィロー、それはなあに?」

「ばれちゃった? これはね、お守りだよ」

 ウィローは、手を開いた。金細工のアクセサリーが朝の光と、雪から反射する光で煌めいている。


「わあ、綺麗!」

 リアは目を輝かせる。ウィローは、すこし眉をさげながら微笑む。


 『お守り』はまるい形をしていて、全体に繊細な金細工が施されている。中央に丸い紫色の宝石があしらわれ、金細工は、蔦や花をモチーフにしたデザインだ。細い金色の線が、紫色の宝石を守るように、カーブを描いている。金色の細い鎖がついており、ネックレスであることがわかる。


「このお守りはね、きみを守ってくれるものなんだよ」

「私を? どうしてウィロー……が持っているの?」

 気を抜くと敬語がでそうになる。


「お守りに魔力と魔法をこめるために、今は、ぼくが持っているよ。

 リアのことはぼくが守るから、今はリアに渡さない。でもいつか、ぼくが守ることができなくなったら、きみにあげるね」

 リアは不安にかられて聞く。

「ウィローさまも、いつか、どこかに行っちゃうの?」

「今は、どこにも行かないよ。でも旅は危険だし、何があるかわからないから。離れ離れになることもあるかもしれない」


 ウィローはお守りを持つ手をまた閉じて、もう片方の手でリアの手をとった。幼いリアの顔が沈みこんでいることに気がついたからだ。元気づけるように、ウィローはリアの手をぎゅっと握った。


「ほら、リアがなにか楽しい理由で、ぼくたちから離れていくこともあるかもしれないでしょう? お仕事をはじめるとか、お嫁に行くとか……」

 ウィローも一瞬、悲しそうな顔をするのだが、幼い少女を元気づけるように笑いかける。

「いつか、ぼくの魔法をた〜くさん込めて、この素敵なお守りをきみに渡すよ」

 ウィローの言い方は『この先には楽しいことがたくさん待ってる』と励ますようで、リアの表情はすこし明るくなる。


「でも今は、ウィローさまが持っているから……ウィローが持っていたら、守られるのはウィローではないの?」

「どうだろう、考えてもみなかったな」

 ウィローはリアの手を離す。冷たい手だったな、とリアは思う。ウィローはいつからここにいたのだろう?


「そうかもね、これはぼくを守ってくれている、ぼくの大事なものだね」

 ウィローはもう一度、手を開いてお守りを見て、目を細めた。

「ぼくはこれが、自分の命より大事だ」

 リアはびっくりしてウィローの顔を見る。ウィローは立ち上がると、リアに手を差し伸べる。

「でも、君にあげる。いつかね」

 リアはおそるおそるウィローを見上げ、その手をとって立ち上がる。風で、ウィローの小麦色の髪がゆれている。細い髪も、光にきらめいて綺麗だ。


(ひとから『命より大事にしている、大事にしてきたもの』をもらうなんて、怖い)

と10歳のリアは思った。


ーーーーーーー


(でも、似たデザインのものを買ったから、これでウィローとおそろいね! 

 2個あったら、ウィローは、ウィローのお守りを私に渡さないかも)

 12歳のリアは、机の下で手をにぎりしめる。

(ずっと一緒にいてくれるかも)

 

 リアはナナメ前の椅子に座るウィローが、魔石に魔法をこめるのを見ている。ウィローが青い魔石に手をかざすと、ほんのりとあたたかい光が魔石を照らし、魔石もぼんやりと青く光る。


 ウィローの髪は、魔法をつかっているときだけ、小麦色から色がぬけるように、金色の髪になる。目の色も藍色から、もう少し明るい青に変わる。

(ウィローが魔法を使っているところ、綺麗で好きだなあ)

 リアは腕を机の上にだして、頬をその上にのせながら、ぼーっとウィローの魔法の光を眺める。


 ウィローもロアンもリアも、魔法で髪と瞳の色を変えている。ウィローの本来の髪色は、魔法を使っているときの金色だ。そのことを思う。

(こんなに遠い土地にきても、変え続けなきゃいけないのかな……)

 リアは、目をつむる。

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