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53) 2周目 魔物の描いた魔法陣


「帰還の魔法で、アズールの家に行ったのかな? だとしたら、ぼくとすれ違ったんだ」

 ウィローはリアの書き置きをロアンに返す。


「ウィロー、アズールの家って今どうなっているんですか? 結界は?」 

「破られていないよ。今のところ、教会に見つかってもいないようだ。念のため住むのはやめたほうがいいと思うけど、一時的に帰るだけなら問題はないよ。ぼくも植木鉢とか本とか持ってきている。たまに様子を見に行っているんだ」

(本? ウィローは今、どこに住んでいるのだろう?)


「でもウィロー、ウィローではないのですから、リアはアズールの家に行っても一方通行で、タフィに帰って来られません」

「確かにそうだね」

「それにリアは、ウィローがタフィにくるのを本当に楽しみにしていたんです。タフィから出ていくとは思えません」

「じゃあ、タフィの村のどこかか……」

 ウィローは口元に手を当て考えている。


 ロアンは念のため、聞いてみる。

「探知魔法って、リアに効果ないですよね?」

「探知魔法には、名前と髪と目の色の情報が必要で、人が2つの姿、2つの名前を持っていると途端に探知が困難になる。だからまあ、難しいね。必要になる道具も多いし、ややこしい魔法だよ」 

(あれを街中で発動させたときは、本当に大変だったよ)


「どうやって探すのが良いでしょうか……」

「タフィは魔物の多い土地だ。魔物たちの力を借りてみよう」

「ウィロー、思ったより冷静ですね。リアの家出なんてもっと狼狽するかと思っていました」

 ロアンの方が、よっぽど焦っていた。ウィローが冷静なので、ロアンも段々と落ち着きを取り戻してきた。


「ぼくは学んだんだ、やみくもに探すより冷静に探したほうが見つかるのが早いって。

 今のリアは『お守り』を持っているし、タフィの中にアサナシア教会の人間はいない。自分から出て行ったのならどこかに身を隠しているだろうし、前にちょうちょを追っていなくなったときよりも安全だと思うよ」

(ちょうちょ? そうだっただろうか?)

 ロアンは首を傾げる。


ーーーーーーー


 ルーキスに魔物を庭に集めて良いかを聞きに行くと、少し待って欲しいと言われ、ウィローとロアンは屋敷の玄関にて待つ。ほんの少しの時間でルーキスに呼ばれ、ふたりは庭に行く。 


 庭には黒いインクで大きな丸い落書きが描かれている。そして丸い落書きのあたりに、黒い鳥の魔物やねずみの魔物など、ちいさな魔物が次々に集まってきていた。ロアンの背中にぞぞぞ、と悪寒が走る。


「我が主、魔法陣で近くの小型の魔物を集めました」

 ルーキスは恭しく報告をする。

「これ? これが魔法陣?」

 ウィローは愕然としている。

 庭にかがみこみ、ルーキスが黒いインクで描いた『魔法陣』をつぶさに観察する。ウィローは本当に信じられない、という顔だ。


「どうしてこんなデタラメな書式で効果があるわけ? こことここが繋がっていない、ほらここも。文字も数も全然読めない、外周の円すら繋がっていない。ああ、ぼくこれ、今すぐ一から描き直したいよ」 

 ウィローは珍しく、イライラして小麦色の髪をかきあげている。


「ウィローだって字が綺麗とは言い難いじゃないですか」

 ロアンがツッコミを入れる。

「ぼくは理論を考えたり、計算するときは、いつも走り書きだけど、魔法陣は綺麗に、完璧に描きたいんだよ! そうでなければ発動する気がしないじゃないか」 


「我が主、お気に召しませんでしたか」

 ルーキスは残念そうにつぶやく。

 ウィローは慌てて立ち上がる。

「いや、そんなことはないんだよ、目的は達成できているんだから……。

 ありがとうございます、ルーキス。そして、ごめんなさい。ぼくは、魔物の描いた魔法陣を初めて見たんだ」 


 ルーキスは骨張った手を組みながら、庭の魔法陣と集まってきた小型の魔物を眺める。


「我が主は、人間と魔物の使う魔術の違いをご存知ないのですね」

「人間と魔物の使う魔術の違い?」

 ロアンが聞く。


「この魔法陣は、所詮、人間の真似ごとです。魔物には、魔法陣や触媒は本来必要ありません。

 魔物は自らの体内に蓄積されている魔力を魔術に使用できますから、魔力との距離が人間よりもずっと近い。魔物にとって魔術とは、自分の願いをかなえるために魔力を用い、感覚的に扱うことのできるものなのです。

 人間は触媒を必要としますし、魔力を御すのが魔物よりも下手なので、論理的に型にはめることで魔術を使おうとする。しかし、私はそれを面白いと思っているので、魔法陣である程度、魔術の方向性や型を絞ることを練習しているのです」


 ルーキスは灰色の瞳をウィローに向ける。

「ですが……主は、理論が完璧でなくても、魔術を自由自在に扱えたことがあるのではないですか? だって貴方の魔力は、私達のそれと質が同じだ」


 ロアンはハッとする。ウィローは理論に依らずに感覚で魔法を使ったことが何度もあるのではないか、と思う。聖騎士たちを気絶させたときだってそうだ。魂だなんて、どうやって計算で導きだすのだろうか。


 しかし、ウィローはきょとんとしてルーキスを見つめる。

「ないよ、そんなこと」


(もしかして、気づいていないんだろうか?)

 ウィローの様子に、ロアンは不安を覚える。


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