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51) 2周目 タフィのコミューン


 ロアンは屋敷の庭を通っていて、通り道の真ん中に植木鉢があるのに気づく。

(植木鉢?)

 どこかで見た植木鉢だなあと眺めるうちに、 ポ、ポ、ポン! と様々な色と大きさの植木鉢が増殖し、ロアンはぎょっとする。そこに、くるっと一回転するようにしてウィローが現れる。転送魔法と、帰還の魔法だとロアンは気づく。 

「ウィロー!」

「やあ、ロアン」

 ウィローは薄茶色の襟付きのシャツに黒いズボンで、紺色のローブを羽織っている。もうひとつ、大事そうに植木鉢を抱えていた。植木鉢の中には芽がでて背丈が伸び、つぼみがついた花があるようだ。 


「やあ、じゃないですよ! あれから、もう1週間ですよ! すぐ来るって言ってたじゃないですか」 

 文句を言いながらもロアンはウィローに会えて嬉しそうに、まくしたてる。


「ごめんごめん、タフィの暮らしはどう?」

「暮らし自体はまあまあですけど……」

 ロアンは小さくため息をつく。

「リアの機嫌が最悪です」

「だよね」

 ウィローは苦笑いした。 

「だよね、じゃないですよ! いつもいつも、前もって伝えておくべき情報が抜けているんですよウィローは!」 

「前もって伝えたら、リアはタフィに行ってくれないかもと思ったんだ」

「それは、確かにそうですけれども」 

 ウィローは足元にある植木鉢たちを眺めている。アズールの家のリアの部屋にあった植木鉢ではないかとロアンは気づく。


「それで、リアはどうしてる?」

「今日も朝から喧嘩して、今は部屋に引きこもっていますよ」


 ロアンは、ウィローにこの一週間について話しはじめる。


ーーーーーーー


 一週間前、ロアンとリアはタフィの『結界の中のエリア』が一望できる高台に転移する。高台から見るタフィの村は一見すると、のどかな農村に見えた。しかし高台を降りて、中に足を踏み入れ、ロアンは背筋が凍りつく。魔物の気配をたくさん感じたからだ。 

 しかしタフィの村の人たちは、呑気に農作業をしている。本格的な冬に向けて畑をやすませる作業をしているようだ。ロアンは彼らにタフィ教の教会の場所を聞く。人々はふたりのことを物珍しそうに見るが、教会の場所を教えてくれた。


 ロアンとリアはのどかな田舎道を歩く。

 道の向こうから父親と小さな女の子が、仲睦まじそうに手をつないだり、離したりしながら歩いてくる。ロアンは『リアの父が処刑された』という話を思い出す。ちら、とリアを見ると、目が合う。


「お父様が処刑されたって話だけど、私、信じられないわ」

 リアは顔をしかめている。変な顔だ。

「私のお父様ってすっごく強いの。殺されるなんて思えないわ。それに……私のためにそんな『献身』してくれる人じゃないわ。だから、間違った情報かなって思うの」


 リアは立ち止まる。父親と女の子が、ロアンとリアのもとを通り過ぎる。


「私、お父様にあんなふうに手を繋いでもらったことって一度もないの。本当に関わり合わない人だったし、関わったときの記憶も最悪なものだけ」

「……」

「だから『死んだ』って聞いても、ふーんって感じだった。会わないで済むなら、会いたくない人だったから」 

 リアは道中、ロアンにそう話した。


「そうなんですね、じゃあ、リアにとってはウィローが父親代わりみたいなものですね」

「それはちがうわ!」

 リアは必死になって否定する。ロアンの前を歩きながら、ぷんすかしている。

「ウィローはお父さんって年齢ではないし。それに私にとってウィローはお兄さん、でもないの」

「じゃあなんなんですか?」

 ロアンは急にぷんすかしはじめた少女に聞く。

「……リア?」

「……ただのウィローよ!」

 リアのほっぺたは真っ赤だ。



 教えられた『タフィの教会』はただの小さな洞窟のように見えた。ロアンとリアは困惑する。

「魔物でもでてきそうな雰囲気ですけれども」

「本当にここなの〜? ウィロー」

 リアは冗談で、この場にいないウィローに声をかける。


 『タフィの教会』のとなりに陰鬱な印象の屋敷があった。そちらもなんだかお化け屋敷のような雰囲気だ。


 洞窟の前に、魔石ではなく燭台、蝋燭、火打ち石が置いてあった。『ご自由にどうぞ』という感じだ。ロアンは蝋燭を燭台にのせて火を灯すと、意を決してリアの前を歩き、暗い洞窟に入る。


「こんにちは! どなたか、いらっしゃいますか?」

 洞窟を少し歩くと、広い空間に出た。

 奥に祭壇があり、蝋燭や魔石の灯りがたくさん灯っている。色とりどりの花や花輪が飾られ、小鳥がモチーフになった飾りも見受けられる。アサナシア教の祭壇と比べてカラフルだ。とても怪しく感じる。 

(タフィ教って鳥が信仰対象なのか?)

 ロアンは聖騎士試験の勉強でアサナシア教には多少詳しくなったが、タフィ教は『マヴロス大陸の解放』前からある土着信仰ということしか知らない。


 男が一人、祭壇の前にかがみ込んでいる。花飾りか何かの位置をなおしているようだ。


 誰もいないと思っていたロアンとリアはびっくりして歩みを止める。男は来訪者に気づき、立ち上がる。

 男は30代後半から40代前半のように見える。陰鬱な雰囲気だが威厳がある。癖のある黒髪をきっちりとまとめ、灰色の瞳をしている。洞窟に似合わない黒いスーツに身を包み、スーツに似合わない赤い刺繍のある白い帯を肩にかけている。タフィ教に関連したものだろうか? 

 男は低い声でふたりに言った。


「我が(あるじ)から知らせを受けて、貴方たちが来るのを待っていた。健在そうですね、シンシア」

「ひっ」

 リアは小さく悲鳴をあげる。ロアンは不審そうにリアと男を見比べる。

 リアは、目をこすりたい気持ちだったが、そんな行動はきっとこの人の前では許されないだろう。 


 処刑されたはずの父、ルーキス・ラ・オルトゥスがタフィのあやしい祭壇の前に立っている。


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