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44) 2周目 「いらない」、月と星を見る、別離


 ウィローは、リアの部屋の扉をノックする。

「リア、入るよ」

 入って、ウィローは言葉をなくす。


 リアは『ウィローのお守り』を外している。

 リアの髪は白くて、瞳は青みがかった灰色で、泣いて赤い目だ。白い寝巻きを着てベッドに腰掛け、ウィローをにらんでいる。ウィローの後ろからロアンが顔を出すと、ロアンのこともにらむ。


 ウィローが立ち尽くして動かないので、ロアンはウィローを追い越して部屋に入り、リアの近くに行って声をかける。


「リア、なんでお守りを外しているんですか?」

 にらんだって、あんまり見えていないはずだ。

「私、お守り、いらない」

「は!?」

 ロアンは意味がわからない。『ウィローのお守り』は、リアに絶対に必要だ。ウィローと別行動なのであれば、絶対に。


「これは貴方のものだわ、ウィロー!」

 泣くリアがお守りをウィローに投げつけようとするのを、ロアンはリアの手をとって止める。慌てて、お守りをリアからいったん取り上げる。

「お守りは貴方に必要なものだわ。私はいらないわ。そのかわり、ウィローが私と一緒にいて! 毎晩、おまじないをかけてよ!」

 意味がわかった。リアには『お守りがあるからウィローが一緒にいてくれない』という思いがあるのだ。そういうわけではないとわかりつつも、一緒にいたいと駄々を捏ねている。


 ロアンはウィローを振り返る。ウィローの藍色の瞳が、透明に見える。ここにいない感じだ。おかえりパーティーのときも、同じ表情をしていた瞬間があった。遠い昔にも、その場にいるのに、その場にいないアステルを何度も見た。

(この人は)

 ロアンは気づく。ウィローは心の痛みに鈍感なんじゃない、麻痺しているのだ。お守りは、アステルが身を削って作ってきたものであるとロアンは知っている。だからロアンは、リアの発言も行動も許しがたい。

 リアの部屋に来て良かった、正解だったとロアンは思う。来ていなかったらリアはウィローにお守りを投げつけていたし、それはどちらにとっても大きな心の傷になったはずだ。


「リア! ウィローに謝りなさい!」

 白い髪のリアはロアンをにらむ。口がへの字だ。

「お守りはウィローにとって大事なもので、リアにとって必要なもので、これを作るのにウィローはすごく努力したんですよ」

「知ってるわ」

 リアは、泣きながら言う。

「でも、これは、ウィローにこそ必要なものなのよ……私、ウィローが誰を愛しているのか、全然わからない……」

 意味がわからない、とロアンは思う。そういえばそんなことをリアはこの間も言っていた。


 ウィローはハッとして、リアに近づく。

「リア」

 跪いて、リアに聞く。

「そんなふうに思っていたの?」

 ウィローはロアンに目配せして、お守りをもらう。お守りをその手に包んで、リアに話す。


「確かにぼくは、お守りを持っているときに考えたり、祈ったりするのは、リアのことではなかったかもしれない。けれど、ぼくはこんなに大事なお守りを、愛する人以外に渡すことは決してない」

 ウィローは、リアの姿をしっかりと目におさめる。

「ぼくがこのお守りを、リアのためにつくったことは、確かなんだ。リアの幸せを願って、小さなリアのことだけを考えてつくったお守りなんだよ」

 ウィローは、お守りに口付けする。

「だから、どうか受け取ってほしい。ぼくがきみのそばにいられないことも、許してほしい」


「許さない」

 リアはちいさな声で、言う。

「でも、受けとるわ。愛する人にしか渡さないお守りなら」

 そっぽを向いて頬を赤らめたリアに、ウィローは微笑む。

「かけてもいいかい?」

 リアが頷いたので、ウィローは、リアの首にお守りをかける。


 ロアンはリアに怒っている。

 ロアンは再度、言う。

「リア、ウィローに謝りなさい」

「ごめんなさい、ウィロー」

「いいんだよ、リア」


 ウィローは微笑む。正直、ウィローが許しても、ロアンには許しがたい気持ちがあった。まだそんなに大人になれない、とロアンは思う。

 ロアンは、ウィローが死にたいと思わないようにしたい。もうこれ以上、心にあまり傷を負わないでほしい、と思っている。楽しいことや嬉しいことだけ、ウィローのまわりにあってほしいとロアンは願う。


ーーーーーーー


 ロアンとリアは、束の間の睡眠をとる。リアが寂しがったので、いつかみたいにリアの部屋で3人一緒に寝ることになったのだが、ウィローは寝つけずに、椅子に座って窓の外の夜空を見ている。アズールの家からは、星も、月もよく見える。


 ロアンにもらった「魔除け」をローブのポケットからだして、ウィローは眺める。ふふ、と笑う。

 聖騎士の男の話は、ウィローにとって恐ろしい話だった。自分をしっかり保ちたい、とウィローは思う。魔のものにも何にも負けず、ただ、自分に課した役目だけを果たせるように。


 

 ウィローは、リアの寝顔を見つめる。

 前髪をそっと撫でる。

 一緒にいられた幸せを噛み締める。


「リア、ぼくがきみを守るよ。

 ぼくの何を犠牲にしたって、きみを守りきるからね」


ーーーーーーー


 早朝、庭に描かれた転移魔法陣の前に、ウィローとロアン、リアの3人はいる。

「ぼくも聖騎士たちの後始末が済んだら、一度、様子を見に行くよ」

 ウィローは話す。

「タフィのコミューンについたら、タフィ教の教会をたずねるといい」

「わかりました」


 転移魔法陣に乗る前に、ウィローは急に、ロアンとリアを、一緒くたにしてハグをする。


「ぼくはきみたちのことが、本当に大事」

 リアもロアンも、ウィローの腕の中でぎゅーっとされている。

「体に気をつけてね」

「すぐに会いにくるんですよね?」

 ロアンは不安になって聞く。

「もちろん」

 ウィローは笑う。


 リアは、2人一緒にハグされたのが気に入らないようだ。

「ウィロー! かがんで!」

 リアから、ハグを返す。ウィローはリアを抱き上げて、くるくる回る。リアは笑って「止まって!」と言うと、ウィローの頬にキスをする。

「研究がんばってね、ウィロー!」

「がんばるよ」

 ウィローは頬を染めて微笑む。元気付けられたようだ。その横顔を見て、ロアンはあーあ、と思う。

(リアは、ウィローの研究を知らないから「がんばってね」なんて言えるんだ……)


「あの……ウィロー 食べたり寝たりしてくださいね」

「努力するよ」

「どういうこと???」

 リアが怪訝な顔をする。


 転移魔法陣にのるときに、ロアンはウィローに声をかける。

「私もリアも、ウィローが大事なんですからね。それを決して、忘れないでくださいね!」

 ウィローは手をあげて微笑み、ロアンの言葉にこたえる。


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