表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/152

43) 2周目 話し合い

 

 ロアンとリアは休憩した場所に放り出していた荷物を持ち、聖なる樹まで戻ってくる。そこで、死んだ親蜘蛛に寄り添っている1匹の子蜘蛛を発見する。 

「こんなことになって、ごめんね」

 子蜘蛛に寄り添うリアを、ロアンは見つめる。

(蜘蛛に罪はなかったはず、と思っているんだろうな)


 日が暮れたので、ロアンは鞄から組み立て式のカンテラをだして、中に、光る魔石を入れて灯りにする。 

 灯りを頼りにウィローが戻ってくる。男を1人、引きずっている。魔法をかけているのか、軽々した感じだが、男は色々なところに風船のようにぶつかり体を傷つける。


「おかえり!」

「おかえりなさい」

 リアとロアンがホッとして声をかける。

「ただいま」

 ウィローは傷だらけの聖騎士の男を地面に置き、微笑む。


「ウィロー、体はもう大丈夫なの?」

「リア、ぼくは丈夫だから、大丈夫だよ」

(嘘つきだなあ)

 ロアンは思う。ウィローは、決して丈夫な方ではないと、長年の付き合いから思う。


 ウィローは魔法も用いながら聖騎士5人の体を集めて、地面に描いた魔法陣の上に並べる。


「本当に3日は起きないの?」

 リアが聖騎士を見て聞く。

「魂が抜けているようなものだから、抜け殻だよ」

「それは、人殺しでは?」

 ロアンは眉をひそめる。

「戻すつもりだから大丈夫」

(戻らなかったらどうするんだ?)

 ロアンは怖くなる。ギルドで暴れたときにも思ったが、ウィローには知らない他人に対して罪悪感がかけらも見られない。心配になる。 


「魔術の実験に使わせてもらったあと、記憶を消して、転移魔法陣で別々のところに飛ばすつもり。それぞれ、全然違う国に」

 さらっと人体実験をするとまで言うウィローに、さらに怖くなりながらもロアンは聞く。

「消した記憶が戻ることはないんですか?」

「ない。だからこの5人については気にしなくていい。問題は、アズールの教会がこの5人を探しにくることだ。夜が明けてしばらくしたら、探しにくるだろうね」


「じゃあ、えっと、つまり……」

 リアはがっかりした表情をしている。

「逃げることは確定なんだよね、アズールのおうちには帰れないんだよね」

「いつかきっと戻れるよ、リア。いつだって『帰還の魔法』で帰れるんだから。それに、夜のうちに荷物をとりにいくのは大丈夫だよ、取りに行こうか」 


 3人はいったん、アズールの我が家に戻ってくる。ごちそうがテーブルの上に出しっ放しだったり、各々の部屋のドアが開けっぱなしだったり、慌てて出て行った感が満載だ。

 ウィローは血だらけだったのでお湯を浴びて着替えて戻ってくる。リアとロアンも、順番にお湯浴びをして着替えて戻ってくる。その後、ごちそうはもう傷んでいそうなので、ロアンが夕食を作る。 


 ロアンの作ったあたたかい夕食を、リアもウィローもたくさん食べる。ウィローがこんなに食べるのは珍しい。怪我の回復のためなのか、森でろくに食べていなかったからなのか、わからないが。たくさん食べるウィローを見て、ロアンは嬉しく思う。

 

 食後にあたたかいお茶を飲みながら、リアは聞く。 

「また、旅に出るの? どこに行くの?」

「あとでのお楽しみ」

「3人で一緒に行けるんだよね?」

「いいや」

 ウィローはお茶を飲む手を止めて、告げる。

「ぼくは、別行動だ」 

「嫌!」

 リアが立ち上がり、抗議する。

「絶対に嫌!」

「私も嫌です。そもそも、ウィローは私たちに話してくれなさすぎる」 

 ロアンも、ウィローに抗議する。

「何をするのか、何故、別行動でなければならないのか、説明をしてもらわないと納得できません。私たちが行く場所についてもきちんと説明してください」

 ウィローはロアンを不思議そうに見つめる。

「いいよ、わかった。じゃあロアンから質問して」


「ウィローが別行動する目的は何ですか?」

「魔王の遺骸の封印だよ」

「マオーのイガイってなに?」

「魔王の死体のこと」

「数百年前の死体がまだ残っているということですか?」

「そう。そしてそれが、魔王の呪いの原因だ」

 ウィローはさらさらと答える。リアは話についていけずに「マオー? ノロイ?」と唱えている。

「ぼくがアズールにきたのは、この家のこともあったけれど……多くの魔石を使うことで、魔王の遺骸を封印できないかと考えたからだよ。だから魔石の産地であるキアノスに来た。いろいろな魔石に実際に触れてみたかったんだ。

 ぼくはこれから、本格的に魔石の研究に取り掛かりたいと思っている。でも少々危ない研究だから、人里ではできない」

 ウィローはまっすぐにロアンとリアを見る。

「だけどきみたちには、人里で暮らしてほしいと思っている。だから別行動だ」

「嫌! 危ない研究でもなんでも、3人一緒にいようよ!」

 リアがウィローに願う。

(危ない研究なら、しないでほしい)

 ロアンは願う。願うが、ウィローの言うことの筋が思いのほか通っている。ウィローがリアに普通の暮らしをさせてあげたいと思っていることを、ロアンは常々感じてきたからだ。


「リア、別に、ずっと離れ離れってわけじゃない。たまに会いに行こうと思っているし、手紙だって書くよ」

 ウィローはリアをなだめようとするが、リアはうつむいて、ウィローと目線を合わさない。


「私たちはどこへ行くんですか」

「タフィのコミューンだ」

「タフィのコミューン??」

 リアは聞きなれない単語だらけでそのまま聞き返す。

「タフィ教のコミューン(生活共同体)ということですか? どこにあるんですか?」 

 ウィローは部屋から地図を持ってきて、指さす。キアノスの北西の山奥だ。旧魔国にとても近い。 

「タフィのコミューンには結界が張ってあるエリアがあって、アサナシア教会はその存在を認識していない」

「なるほど」

 リアにとって大陸の中でも安全な場所をウィローは探してきたようだ。

「私たちがどこへ行くのかと、ウィローの目的について納得できました」

「ロアン、納得しないで!」

 リアの声は震えている。

「でもリア、ウィローの案は良さそうですよ。教会から隠れるのに良い土地のようです」 


 リアは、ロアンをにらむ。ウィローのことも、にらむ。リアの目に涙があふれ、こぼれおちる。お茶の席を立つと、走り、自室にこもってしまう。


 ロアンとウィローは顔を見合わせる。

「どうします?」 

「ぼくが行ったほうがいいよね……」

 なにか、ためらっているようだ。 

「泣き疲れて眠ってくれたら……」

 ウィローのこぼした本音に、ロアンは苦笑する。 


「ウィロー」

 ロアンはずっと言いたかったことを言う。

「ひどいことを言って、ごめんなさい」

「魔物呼ばわりのほかは、正論しか言われていないよ。こちらこそ、傷つけてごめんね」

 確かにロアンも傷ついた。傷ついたから、ウィローにひどいことを言った。それで、ウィローも傷ついたはずだ……ウィローは物理的な痛みにも鈍感だが、心の痛みにも鈍感だと、ロアンは思う。


「もうひとつ聞いていいですか」

 ロアンの言葉に、ウィローは目線を向ける。

「何故、そんな魔力になってしまったんですか?」

「無茶をした」

 端的な答えだったが、本当なのだろうとロアンは感じた。


「ウィローの『役目』は、魔王の遺骸の封印ですか?」

 ウィローはお茶が喉につかえたようで、ケホケホ咳をする。

「ぼく、いつ、きみに役目の話をしたっけ?」

「私が9歳のときに」

「よく覚えているね!?」

 ウィローは心底びっくりしたようだ。ウィローは、あの『ひどい頃』のことをどこまで覚えているのだろう……とロアンは思う。


「それも大事なひとつだけど、でも、それだけじゃなくて、きみやリアを守ったり、暮らしたり、そういうことも役目だって、最近はそう思う」

「じゃあ、魔王の遺骸を封印したら、そのあとは、私たちと一緒にいてくださいますか?」

「……自信がない」

 ウィローは沈黙したあと、正直に答える。

「でも、一緒にいられたら、嬉しい、とは思っている。そういう願いがあるみたい」

(あるみたい? みたいってなんだ)

とロアンは思う。まるで他人事のようにウィローが言ったからだ。


「では、封印は、死にに行くわけではないですよね?」

 ウィローは黙りこむ。 

「死にたいって、まだ思っていますか?」 

「思うときもあるよ」 

 さらっとウィローは答えた。 

「でも、少なくなった。リアがいて、ロアンがいて、楽しいと思っちゃいけないのに、楽しくて」

 ウィローは微笑む。心からの微笑みに見えて、ロアンはほっとする。自分たちの存在がウィローにとって『良いもの』であり、『良い影響』をもたらしている感じがあったからだ。


「そうだ」

 ロアンは思い出し、机の上に小さな茶色の封筒を差し出す。封筒は膨らんでいる。

「クレムのお土産です」

「ありがとう……なにこれ?」

 手のひらよりも小さなサイズのなぞの青い生き物? のぬいぐるみに、紐がついている。

「クレム製の魔除けだそうです」

「あはは」

 ウィローは笑う。

「魔除け! ぼくに! でも今のぼくには、一番必要なものかも。ありがとうね、ロアン、本当に嬉しいよ」

 必要と言われるとは思わなくてロアンは驚くが、ウィローの明るい表情を嬉しく思う。


「そろそろリアの部屋に行かないとだよね……」

 ウィローは廊下のほうを見て、ため息をつく。

「行きたくなさそうですね」

 珍しい、とロアンは思う。

「リアとふたりきりになるのが嫌なんだ、ロアン、ついてきてくれない?」

 なんでだろう、と思いつつ、ウィローが立ち上がって歩き始めてしまったので、ロアンはウィローのあとをついていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ