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42) 2周目 魔王の再臨


「さて、聖騎士ロアン。君の兄は魔物のようだ。渡した『聖なる(つるぎ)』で、彼を殺せ」

「できない」

 サンノスの言葉に、ロアンは即答する。

「残念だ、君は聖騎士失格だな」


 ウィローは、振り返りロアンに視線を送る。ロアンもウィローを見る。ウィローは、ロアンに微笑む。その微笑みを見ただけで(教会に敵対して良かった)とロアンは思う。


「神聖力のある子どもを隠そうとした例で言えば、コルネオーリの辺境伯だな。今代の聖女を育て、殺した男だ。当然、処刑された」

 サンノスの言葉に、リアの耳をふさいでおけばよかった、とロアンは悔いる。リアは唐突な話についていけず、目をぱちぱちしている。

「ロアン、教会の敵になるのであれば、お前も同じ運命をたどるぞ」 


「私、私のせいでロアンが死ぬって言っているの?」 

「ロアン、リア、ぼくはロアンもリアも死なせない。だから大丈夫だよ、耳を貸す必要はない」

 ウィローは断言する。


「ウィロー!」

 ロアンはリアを取り逃がす。リアは走り、ウィローを後ろからハグする。

「遅くなってごめんね、リア。怖い思いをさせたね」

 ウィローはリアをとなりに抱き寄せて、頭をなでる。

「アラーニェを庇ってくれて、ありがとう。友達なんだ」


 聖騎士隊は(なんだこれは)と目の前の光景を見る。神聖力のある子どもが、人型の魔物に懐いている。


「神聖力のある子どもを、魔物が育てたの?」

 ペタラが聞く。

「少女を魔物からひきはがせ! 守らねば!」

 ギーリが叫ぶ。

「誰から、誰を守るって?」

 ロアンは耳を疑う。

「ロアン」

 ウィローは、ウィローから離れたくなさそうなリアの肩を押して、リアをロアンにパスする。ロアンはウィローに頷く。


 サンノスはウィローに向き合う。

「蜘蛛型の魔物は、使役していたのか?」

「使役? 友達だっただけだよ」

「魔物は人間の言うことは聞かない。上位種の言うことでなければ聞かないし、それだって、魔力で服従させているだけだ」

 サンノスはウィローをじっと見つめる。

「言葉が通じるようだから、お願いしてみよう。子どもたち2人を置いて、去ってくれないか? お前を倒すのは骨が折れそうだ」

「じゃあ、骨を折るしかないね、ぼくが折ってあげるよ」


 ウィローは至近距離で顔が見えるところまで一気にサンノスに近づく。手をかざして魔術を使おうとするが、サンノスはすぐさま飛び退き、懐から聖なる剣をだす。動けないフロイが、ウィローの足止めをしようと何か詠唱している。ウィローはフロイに向かって魔石を投げる。詠唱が、フロイに向けて跳ね返る。

 サンノスはウィローが近づいたとき、手に小傷があることに気づく。傷が薄っすらと赤いのを見る。サンノスは目を見開き、いったん、ウィローから距離をとる。ホルトがウィローに立ち向かうが、ウィローは風の魔法でホルトを吹き飛ばす。ロアンとリアの方に視線を向け、まずいと思い、そちらに走る。


 ペタラとギーリは、ロアンとリアに向けて走る。ロアンが剣を抜いたので、ギーリも剣を抜く。

「おまえ、聖騎士のはずだろう!? 子どもを殺したくない、大人しく捕まってくれないか!?」

「できない!」

 ロアンはギーリと剣を交えるが、ペタラがリアに走るのを見て、剣を交えている最中にギーリの腹を強く蹴ると、リアに向かって走る。


 ペタラはリアに近づき、リアの胸に揺れる魔石に気づく。髪飾りにも魔石がついているのに気づく。

(どちらかが認識阻害の原因かも)

 ペタラはネックレスに手を伸ばす。

「嫌!」

 『お守り』に触られそうになって、リアが叫ぶ。

「触るな!!!」

 ロアンが叫び、ペタラに体当たりして、リアとペタラの間に立つ。

「リアの、大事なものだ!」

 まだ日が沈みきっていないのに、ネックレスを外されるわけにはいかない。その時点で3人の負けだ。

「そう、ぼくたちの大事なリアの、大事なお守りだ」

 ウィローが、ロアンとリアのそばにやってくる。


 ギーリが剣をしまい、聖なる剣を懐から出す。サンノスが「待て、ギーリ!」と叫ぶが、距離があり声が届かない。

 ウィローはギーリに向かっていく。

 ギーリは聖なる剣で、ウィローの脇腹を刺す。

「ウィロー!」

 リアが真っ青になって叫ぶ。

 しかし、ロアンは気づく――『刺されに行った』。ウィローは、ロアンに目配せし、口の形で伝える『う、え』と。


「ウィロー!」

 駆け寄ろうとするリアをロアンは止め、抱き上げる。

「ロアン、ウィローが!」

「リア、離れましょう!」

 リアを抱えて、ロアンは走る。


「なぜ?」

 ギーリは刺した剣を抜こうとして、溢れる血の赤い色に戸惑い、ウィローを見る。

「さあ、なぜでしょう?」

 ウィローは笑う。


 ウィローの血が地面に滴り落ちる。ウィローとギーリの足元に、魔法陣が浮かび上がる――いくつも、いくつも、いくつも――魔法陣は広がる。聖騎士隊は逃げようとするが、足が地面に貼り付いたように動かない。

 瞬間、轟音とともにあたりが白い光に包まれ、ウィロー以外の地面に直接触れていた者、全員がその場に膝をつき、倒れる。

(倒れた聖騎士たちは、眠っているのか死んでいるのかがわからない)

 大きな岩の上でリアを抱えながら、ロアンは呆然とその光景を見る。


「人間の魔術師を、剣で切ろうと思う馬鹿はいないよね」 

 ウィローはそう言った後、脇腹を抑えて剣を抜ききる。血がぼたぼた流れている。見ているだけで痛そうだ。

(痛みに鈍感なんだろうか?)

 ロアンが不安になっているうちに、ウィローは自分のお腹に回復魔法をかけたようだ。岩の上に避難しているロアン、リアを見上げて微笑む。


 ウィローは、指をのばして倒れた人間の数を数える。1、2、3、4――1人足りない。 


 リアはロアンの抱っこから降りて、岩から駆け降りる。ロアンもあとを追う。 

「ウィロー! 大丈夫!?」

「ウィロー、あなた、痛覚おかしいですよ……」 

 リアは神聖力を使ってウィローのおなかを癒そうとする。

「いてて」 

「痛い? 痛いよね、そうだよね」 

 リアは泣きそうだ。 

(リアの神聖力が痛い)

 シンシアの神聖力は心地よかったのに……とウィローはぼんやり考える。聖なる剣で刺された痛さの比じゃなく痛いのだ。

「ありがとう、リア、もう大丈夫だよ」

 ウィローはリアに笑顔をつくり、立ち上がる。 


「ふたりともここで待っていて」

「彼らは?」

「3日は何しても起きないよ」

 ウィローは準備運動をして、目を閉じると方向を見定め、目を開き前を見据える。


「取り逃がした男を追ってくる」


ーーーーーーー


 サンノスは森から出ようと走っている。過去の経験から木の上に登り、大魔法を避けて撤退しようとしたまでは良かった。しかし通信用の魔石を手にしても、繋がらない。退避できそうな魔道具をすべて試したが、効果がない。先ほどの大魔法で森全体まで結界が広がったのか、もともとこの森にそうした効果があるのかわからない。

 サンノスは何かにつまずき、転ぶ。違う。片足が動かなくなったのだ。後ろを振り返ると、いつのまにか金色の髪の魔物が立っている。魔物はサンノス同様、息をきらしている。日が暮れかかり薄暗い森のなかで、なぜか、不思議そうにこちらを見つめている。


 ウィローはサンノスを魔術で拘束する。

「仲間を置き去りにして、平気なの?」

 ウィローはサンノスの両手を後ろ手で固定し、地面に這い蹲らせているにも関わらず、心配そうに声をかける。


「大義のためなら、仕方ないことだ。部下達も全員、わかってくれる」

「きみみたいな人が、うらやましい」

 魔物は一瞬、魔力を隠すのを、完全にやめる。

(まだ隠していたのか)

 あまりに膨大な魔力を感じ、サンノスは目を見開き、話し始める。


「6年前、魔王の遺骸に異変があった」 

 ウィローの表情の変化を、サンノスは見つめる。

「お前はやはり、魔王の遺骸を知っているんだな? 関係しているのか?」 

「さあ……正直なところ、よく知らない。興味がなかったからね。

 でも今は、興味があるから、聞かせてよ」 

 ウィローはサンノスが話しやすいように、彼の髪をひっつかみ持ち上げ、彼を木にもたれ掛からせて座らせる。


「魔王の遺骸から呪いが漏れ出る速度が上がったのだ。大陸の民のマヴロ病の進行に関係している。3年後の封印では間に合わないかもしれん」


「教皇陛下が、興味深い話をしてくれた」

 教皇、と聞いて魔物の魔力が揺らぐ。嫌な揺らぎ方をした。サンノスは気がつかないふりをして、続ける。

 

「魔王カタマヴロスが、何故、己の遺骸を城に残して行ったかという話だ」

 サンノスは緑色の瞳で魔物の青い瞳を見つめる。

「魔王カタマヴロスはもともと人間だった。人間が魔に魅せられて、強い魔物となった逸話がある。ここまではお前も知っているかもしれないな」

 魔物は話をじっと聞いている。

「カタマヴロスもしくは魔そのものは、再び人間に取り憑き、再臨するために、呪いのこもった遺骸を城に置いて行った。マヴロ病は、魔王が『新しい体を探す』過程で、副次的に生まれるものなのだと」


「私が聞きたいのはひとつだ。 

 6年前、魔王と契約しなかったか?」

 ウィローは少し考え込む。 

「契約なんてしていない。ぼくだってこうなりたくてなったわけじゃない。魔物に間違えられる体って不便だよ」

(大切な人にすら、怯えられるし)

 ウィローはロアンの怒声や、幼いシンシアとの出会いを思い出す。 

 

「魔王の遺骸が、呪いを出すスピードをあげたのは――新たな体を見つけたからではないか? それがお前ではないか? と私は疑っている。

 赤い血の魔物だなんて、私の知る限り、伝承にある魔王だけなのでね」 


「ぼくが魔王?」

 ふふ、とウィローは笑う。

「おかしなことを言うね。ぼくはただの魔術師だ。人間だよ。でもまあ、魔王だと言うほうが、あいつを怯えさせられるかな?」 


 ウィローはサンノスの髪をひっぱりあげ、痛がる顔を覗き込む。

「ぼくはこれから、君の記憶を消すつもりだ。でも、君が教皇と知り合いなら、彼に伝えてほしいことがある」


 今までのらりくらりと話していた魔物の空気が変わる。青い瞳に怒りの色があり、サンノスは恐怖を覚える。

『聖女の墓を暴こうとするのはやめろ』

 不愉快と憎しみのこもった声だ。 


「加えて、『新たな魔王は怒っている』と教皇に伝えるが良い」 

 魔物はサンノスの髪から手を離すと、また、ふふっと笑った。


 サンノスは思い出す。亡くなった10歳の聖女の骨を、教皇の命令を受けて研究班が掘り起こそうとした。しかし、聖女の墓に謎の結界がかかっていてできなかった。その結界の解析には、時間がかかっているという話を。それが、処刑された辺境伯の呪いだと噂されていたことを。

(この魔物の仕業だったのか)

 しかし、なぜ魔物が、聖女の墓を気にするのか? それこそ、この者が本当に魔王に選ばれた者なのであれば、 

(聖女と魔王は、敵対関係だろうに)


「きみの記憶を消しても、それだけは覚えていて」

 魔物はローブのポケットから小刀をとりだすと自らの手を切り、血を流す。そしてサンノスの額に、手をかざす。 


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