30) 2周目 喜びと地獄
※ウィロー視点です。
シンシアといちゃいちゃしている夢を見た。いちゃいちゃというか、少々いやらしい夢だった。
目を覚ますと、リアの後頭部が見えた。長い黒髪がベッドに広がっている。慌てて、同じベッドで寝ている状況に飛び起きる。リアは背中を向けて、離れたところにいる。触っていないみたいだ。触っていない。たぶんセーフ……セーフだろうか?
リアはベッドの端にいて、お腹を出して寝ている。すぴすぴ。淑女とは程遠い姿だ。そっと服をもとにもどす。
まだ夜明け前だったが、起きて顔を洗う。
もう今日一日、ダメな気がする。
誰だ旅行に行こうなんて言ったのは。
(ぼくは、リアにいろんな景色を見せたかっただけなのに……)
リアがキスに興味をもって、おかしくなってしまって――かと思えば無邪気に甘えて布団にもぐりこんでくる――
(もう本当に勘弁してほしい)
という気持ちだ。
ーーーーーーー
ボートの上でリアに言ったこと、言わなかったこと。
「子どものようにも思っているし、妹のようにも思っている――それから――」
それから、もちろんリアは、最愛の妻シンシア、その人であるということだ。
同じ人だと考えないように努力している。しかし、考えなくても、いやでも思ってしまう。
リアの声、まなざし、表情、体温やにおい、触れた手の感触で。
『シンシアが生きている』ということを実感する。
それは最初、ただただ喜びだった。
けれど最近は、喜びとともに、地獄のように感じるときがある。
髪の色の魔法だって、もっと白に近い色は色々あった。でも、正反対の黒にしたのは「この子はあのシンシアではないのだ」と自分に戒めるためだ。シンシアではない、だから、自分とずっと一緒にいる存在ではない――添い遂げるわけではないのだと。
けれど――ボートの上で自分の要求に負けて、髪の色の魔法を解いて、(ああ、あのときのシンシアと同じだ。赤い葉が、白い髪に映えて、綺麗だな)と感じたり……たびたび、混同してしまう。
心のなかが、ごちゃごちゃになって、混ぜこぜにしてしまう。
いまのリアに――シンシアを愛するように、接するのは間違っている。リアは家族だけれども、恋人ですらないのだから。
しかしたまに、混同してしまう。
あの言葉も「思っている」というのは正確ではない。リアのことを「自分の子どものように、妹のように思わないといけない」と思っている。
この子を、育てないといけない、しっかり守らないといけないと。
今は、この子の保護者であって、もう、夫ではないのだと。
そうでなければ、もう、やっていられないからだ。