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27) 2周目 どうしてそうしなかったの?


 スペンダムノスの街のコーキノの湖にて。


 すばらしい紅葉(こうよう)にリアは目を輝かせる。少し時期が早く、染まりきっていない葉もあるが、とても美しい。

「わあ〜! ウィロー、見て! 赤い色がたくさんあるわ!」

 リアの表情を見て、ウィローは本当に幸せそうだ。

「湖にも映ってる! 湖の色も、真っ赤ね」

 リアは、(こんな景色を見たの、はじめて!)とはしゃいでいる。


 2人は2人乗りのボートに乗って、湖の紅葉を楽しむ。リアが指差した方へ、ウィローはボートを魔法で進ませる。最初からそのつもりだったのか、ボートに乗った辺りからウィローは髪と目の色の魔法を解いている。


 リアは船着場の様子を思い出す。恋人たちが3組くらいいた気がする。

(ここってやっぱり、デートスポットなのかな?)

 じゃあウィローも、デートだと思ってくれているかな? と考えて、そうかなあ……とリアは自信がない。リアが暇そうだから、遊びに連れてきてくれただけな気がする。


 人気(ひとけ)がないあたりにボートが流れついたころ、リアはウィローの表情を観察する。ウィローも、木々の赤を楽しんでいる様子だ。リアと目が合うと、にこ、と微笑む。

(誰もいないし、今なら聞けるかも)

 ずっと知りたかった、ロアンに聞いてもわからなかったことをリアは聞く。



「どうしてウィローは、私を見つけてくれたの?」

「見つける?」

 ウィローは(何の話?)という表情だ。


「どうして、塔にいた私を見つけられたの?」

 リアは勇気を出して、ウィローに聞く。

 

 ウィローはさらっと回答する。まるではじめから(いつか聞かれる)と思って準備していたかのように。


「君が、ぼくの婚約者候補のなかにいたから」

「えっ ろく 6歳年上なのにお見合い相手になるの!? だってウィローが12歳のとき私、6歳よ!?」

「でもきみが20歳になれば僕は26歳で、25歳になれば31歳だ。そんなに不自然な差じゃない」


 リアは『ウィローが婚約者候補だったこと』が予想外すぎて、心の中でジタバタする。そんなリアの様子に気づかず、ウィローはなんてことない話をするように続ける。

「結婚なんてそんなものだよ 大事なのは互いの家の利益だったり目論見だからね」


「じゃあ、そのままだったら結婚していた未来もあったってこと?」

「そうなるね」

「でも、じゃあ、ウィローはどうしてそうしなかったの?」

「えっ?」

 リアの言葉に、ウィローはびっくりした様子だ。


(確かに今の言葉は、ウィローと結婚したがっているように聞こえたかもしれない、恥ずかしい……)

 リアは恥ずかしさに縮こまるも、こう続けた。


「私、ずっと不思議だった。ウィローも貴族だったんでしょう? どうしてウィローは、ウィローの地位を捨ててまで私を連れだしたんだろうって。

 私、あのままだとお父様に殺されてたと思う。だから、連れ出してくれて感謝してる。お姫様じゃなくなっちゃったけど、あのままお姫様だったらやりたいことなにもできなかったから、ただの『リア』にしてくれて感謝してるの」

 リアはまっすぐにウィローを見る。

「でも、ウィローがただの『ウィロー』になることは、なんていうか……ウィローは良い思いをしていないじゃない」


「なんだって?」

「私、おかしなこと言ってる?」

「言ってる」

 ウィローはリアをまじまじと見る。

「ただのウィローになって、リアとロアンといられて、良いことしかないよ」

「そうかなあ」

 リアは落ち着かず、髪の先をもてあそぶ。


「ウィローははじめてあったときから、私を大事にしてくれてるよね」

 リアはそわそわしながら聞く。

「でも、理由がわからないなあって思ってるの」

 

「逆に、」

 ウィローはリアをまっすぐに見つめる。

「愛に理由なんて、いる?」

「愛!?」

 リアは、心臓が飛び出るかと思った。


「えっと……ウィローは私のことを愛しているってこと?」

「愛しているよ」

 淀みがない答えが返ってくる。

「それって、どういう意味で?」


「むずかしい」

 ウィローは目をつむる。

「たまにリアが可愛すぎて、リアと結婚したら、リアみたいな可愛い女の子が生まれてくるのかなって思うときがあるよ」


 話が変なことになってきた。

「どういうこと? 私がふたりいるの?」

「うん」

 ウィローは微笑む。

 なにそれ、おかしいよ、とリアはくすくす笑う。


「……でも、つまり、ウィローは私のことを子どものように思ってるってこと?」

「子どものようにも思っているし、妹のようにも思っているし――それから――」

「それから?」

「とにかく、いちばん大切な人ではあるよ」

「……」

 ウィローの愛は、結局、よくわからない。


 ボートは湖の奥のほうにきたようだ。木々の赤い葉が、すごく近くに見える。


「リア、目をつむって」

 急に目をつむってといわれて、リアはドキドキしながら目をつむる。

「髪と目の色の魔法だけを、解くからね」

 ウィローが髪に触れると、ふわっと魔法が解けて、白い髪になる。


 白い髪に青みがかった灰色の瞳のリアと、金色の髪に青い瞳のウィローはボートの中で向かい合う。


「……ウィローは、こっちの髪の色の方が好きなの?」

「どっちのリアも好きだよ、でもこっちは、懐かしい感じかな」

「懐かしい?」

 10歳のときのことを言っているのかな、とリアは思う。


 木々の紅葉の赤い色がリアの白い髪に映える様を、ウィローは愛おしそうに見つめる。


「ところでリア、キスされるかもって思ったの?」

「えっ そっ そういうわけじゃ」

「キスしてもいいの?」

 ウィローが近づくと、

「……」

 リアは目と口をぎゅっとつむってみせる。


 その顔があまりに可愛くて、ウィローは笑ってしまった。

(可愛いなあ、もう)

 ウィローはそっとリアの前髪を上げると、おでこに軽いキスをする。


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