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14) 2周目 燃える蝶

 

 夜明け前、ウィローはリアが倒れていた場所に戻る。魔法を解き、金色の髪に青い瞳だ。紺色の襟付きのシャツと黒いズボン、緑色のローブを纏っている。


 ウィローは、大きな樹を見上げる。

(この力の感覚は、懐かしい感じだ)

 大きな樹を手で撫で、目を閉じる。

(シンシア……)

 大樹からは、リアの力を感じる。神聖力が宿った『聖なる樹』が腐り落ちようとしていたのを、リアの神聖力によってとどめたことがわかる。


 金色の蝶が1匹、樹の中から現れる。

 蝶はウィローに警告する。


『穢れた手で、私たちの樹に触れるな』


 ウィローは冷ややかに、光る蝶を見る。


『アステル・ラ・フォティノース・コルネオーリ』


 ウィローが蝶を掴むように指を伸ばすと、蝶は逃げる。だが、すぐに燃えはじめる。

 樹から2匹目が現れる。2匹目もウィローはすぐに燃やす。会話を拒絶するように。

 3匹目の蝶が現れ、4匹、5匹と瞬く間に増え、大群になってウィローの前に現れる。


『許すものか、アステル』 

 地の底から響くような声がする。 

『私たちはお前を許さない、あの子を私たちから奪おうとするお前を』


「許すものか?」

 『アステル』は笑う。


 ウィローは蝶を無視して、鬱蒼と木の生い茂る暗がりに向かい歩き始める。蝶はウィローを追いかけようとして、大半がその動きを止める。動けなくなったのだ。

 糸が、暗がりで薄っすらときらめく。木々のあいだに、巨大な蜘蛛の巣が現れる。

 そして、巨大な蜘蛛が。


「アラーニェ」

 ウィローは蜘蛛の名前を呼ぶ。蜘蛛は、巣にひっかからなかったり、逃げた蝶に攻撃する。


 蜘蛛の巣は放射状に広がり、完成された美しい形をしている。そこに、もともと引っ掛かっていた葉や木の破片と共に、たくさんの金色の蝶が捕らえられる。

 銀色の糸と金色の蝶は、色だけ見れば美しさのある取り合わせだが、蝶の数が多くグロテスクだ。蝶はもう動かないものもいれば、ゆっくりと羽ばたいているものもいた。


『アステル、お前は、きっと報いを受けることだろう』

 蝶は呪いの言葉を吐く。


 ウィローは歩いて蜘蛛の巣の前に戻る。ローブのフードを被り、しゃがんで地面に触れて、広範囲に向けて何か詠唱する。

 その後、立ち上がり手をかざす。糸の端の方から、巨大な蜘蛛の巣は燃え始める。


「報い?」

 どうでもいい話だ。

「ぼくは、あの子がおまえたちに奪われたもの、そのすべてを、取り返そうとしているだけだよ」


 ウィローは燃える蝶を眺め、言う。青い瞳に、炎の光が反射してちらついている。



 ウィローは近くの切り株に腰掛けて、蜘蛛の巣と『聖なる蝶たち』の行く末を、焚き火でもしているかのように眺めている。

 巣だけが綺麗に燃え落ちるように防護魔法を張ったが、すでに糸にかかっていた葉や木は燃えたまま下に落ちてくるため、魔術で水をかけて森に延焼しないようにしながら、眺め続ける。



 夜が明けきるころ、蜘蛛の巣は完全に燃え落ちる。


 巨大蜘蛛は、怒っているようだ。怒ってウィローの頭をかじろうとしている。

「アラーニェ、ぼくも新しい巣づくりを手伝うから。頭をかじらないで」

 謎の粘液をフードにかけられながら、ウィローは蜘蛛をなぐさめる。


 ウィローは大きな樹を振り返り、見つめる。


 ひとつ問題がある。ウィローにとって、ここに『聖なる樹』があるのは嬉しくない、ということだ。この樹も、燃やしても良かったのだが……。


 リアが次にここに来たとき、この樹が消えていたら、きっと悲しむだろう。

(リアにとってこの樹は、自信に繋がるものだ。そうであれば、燃やすわけにはいかない。)


 巨大蜘蛛は頭をかじるのをやめたが、いまだに怒っているようだ。

「アラーニェ リアは、良い子だったろう?」

 蜘蛛の頭を撫でながら、ウィローは声をかける。蜘蛛は同意してくれているような雰囲気で、ウィローは嬉しくなる。


「この樹は、また、すこしずつ齧ってくれるかい? あれ? 樹のウロはそのままなんだ。よかったね、アラーニェ。きみの子どもたちは、このウロを気に入っていたものね」

 ウィローは巨大蜘蛛に微笑み、アラーニェも樹のウロのことに言及されるとすこし機嫌を直したようだ。


 楽しげな雰囲気の1人と1匹の足元に、おびただしい数の燃え落ちた蝶の死骸が広がっている。


ーーーーーーー


 ウィローが家に帰ってきたのは、昼を過ぎてしばらく経ってからだった。

 カランカラン、とベルが鳴り、途端にリアが走ってくる。

「ウィロー、おかえり! どうしたの?」

「ウィロー、おかえりなさい ……?」

 ウィローは煤と灰だらけだ。ローブは謎の粘液で汚れ、両手も真っ黒だ。魔法が解けて金髪のようだが、汚れて本来の色をしていない。

 そして何故か、片腕に植木鉢を抱えている。


「眠い……」

 ウィローはふらふらだ。

「何をして来たんですか?」

 返り血だらけで帰ってきたわけではなくてよかった……と思いながらも、あまりに汚いし焦げ臭くて、ロアンはびっくりする。


 リアは慌てる。

「ウィロー、その格好で寝たらダメだよ! 水浴びしないと……」

 しかし、ウィローはそのまま家の入り口で丸くなってしまう。

「ここで寝ないで! もう少しがんばってください!」

 ロアンの必死な声を聞きながら、ウィローはそのまま眠りに落ちる。

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