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3) 魔王城の池 さかな問題


 アステル12歳(見た目は20歳)の秋。


「魔王様、ひとつお願いしたいことがあるのですが、」

 大雨の降った2日後の夜、陰鬱屋敷の居間でルーキスが恭しくアステルに話しかけた。

 リアはやや警戒して父を見る。


「ぼくは魔王じゃないけれど、なんでも聞くよ、ルーキス」

「なんでもって言ったらダメよ、アステル」

「えー でも、ルーキスにはお世話になっているし、シンシアと結婚したらルーキスはぼくのお父さんになるから……」

「な、そ、」

 リアは頬を真っ赤に染める。

「そ、そそそうね、お父様も大事にしないとね……」


 ロアンは少し離れたところで会話を聞いていて、リアは相変わらずで心配になるなあと思っていた。


「魔王城の視察に来てほしいのです」

「魔王城の視察?」

「先日の大雨で、雨漏りがひどいところがあるのです。誰かが屋根を壊したようでして……」


 ロアンとリアは、ぎくっとなる。ぎくっとしたあとで(それはアステルに魔王の遺骸の封印の現場に行ってくれ、ということでは?)と気づく。


「お父様、私たちもアステルと一緒に行っても良い?」

「構いません。昼間でないとよく見えないでしょうから。昼ではありますが、私も同席しましょう」

「お父様、大丈夫?」

(あるじ)のためであれば」

 ルーキスは相変わらず、アステルには微笑みかける。リアは(お父様が微笑んでいるのは、ぞぞぞーっとする)と思いながらも黙っている。


ーーーーーーー


「わあ〜〜すごいねえ」

 アステルは感嘆の声をあげる。

 ロアンとリアは、唖然としている。

 魔王の遺骸の封印の現場が、おおきめの池、もしくは小さめの湖と化していたからだ。

 4人は封印の扉から続く廊下に立っているが、もう廊下の先は暗くない。陽の光が差し、明るい。


(屋根、こんなに壊れたんだっけ……?)

 リアは眩しそうに屋根にぽっかり開いた穴を見つめる。父ルーキスはフリルのついた黒い日傘を持参の上、廊下の暗い部分に立って眩しそうに目を細めている。リアは父の日傘にツッコミを入れたいが……母の遺品か何かなのだろうか?


 池を見つめ、ロアンは思う。

(これは雨漏りってレベルじゃないだろう)

「おととい、こんなに雨、降りましたか!?」

「どうも外に流れ出ていないようなのです。アサナシア教会が魔王の遺骸の消失に気づき、調査に訪れたときにもすでに水が張っていたようです」

 ロアンは想像して、教会は敵ではあるが、水が張った状態での調査は大変だったろうな……と思う。

「そこから少しずつ降り積もり、おとといの雨でこの水位に。この水位より先はそこから流れ出るようなので、廊下に水は来なさそうなのですが……」

 ルーキスは説明後、アステルを見つめた。


「魔王様のご判断に委ねます」

「どういうこと?」

「水を抜いて、屋根をなおすか、このまま池にしておくかということをです。魔王城はアステル様のものですので」


「うーん」

 アステルは池の水の青さを見つめ、腕を組む。

「ぼく、泳げないからなあ」

 アステルは心配そうに池を眺める。

「え!? アステル様は泳げますよ?」

「え?」

「昔、避暑地のプールで遊んでおられたとき、ちゃんと泳げていました」

「そうだっけ? でもぼく、水の中って苦しいから入りたくないんだよ」

 ロアンはガツンと殴られた気持ちになる。失言にも程がある発言だった。ロアンは、アステルが病んでいた時代のことを少しも思い出してほしくないのに。


 リアは、池の淵にしゃがみ、水の青さを見つめている。池の中に、何かいる。

「お父様、おさかながいるわ!」

「魚が好きな魔物が放したようなのです。我が主の魔王城だというのに勝手をしてなんたることだと、皆で処罰を与えましたがーー」


 アステルは悲しそうにルーキスを見た。

「ねえルーキス、おさかなを放したくらいで罰せられるのはかわいそうだよ」

「出過ぎた真似を致しまして、大変申し訳ありません」

 ルーキスは跪き、謝罪する。

「処罰を受けるべきなのは、魔王様にお伺いをたてなかった我々ですね」

「ううん、ぼくが言いたいのは、『みんななかよくして!』ってこと」

 アステルは跪いたルーキスと同じ目線になって伝える。ルーキスは、もう一度頭を下げる。

「かしこまりました、我が主」



 アステルもリアのとなりにやってきて、廊下の縁に手をついて、池の中を見つめる。

「おさかながいるのに池の水を抜くのは、かわいそうだよねえ」

 

「そのままにして、釣りができるようにしたら良いんじゃない? 魔王城に住む魔物たちが気軽におさかなが食べられるのは良いことだと思うよ」

「釣りってーー」

 魚にとって、水を抜くのと釣り場とするのと、どっちがかわいそうかしら、とリアは首を傾げる。


「かしこまりました。では、その旨を全体に周知致します」

 ルーキスは恭しく言った。リアは、全体ってどこからどこまで?と思う。魔王城内なのか、それとも旧魔国全体なのだろうか。



 一週間くらいして、アステルはルーキスに聞いた。

「あのあと、どうなったの?」

「魔王城の釣り場は、大変好評です。みな、あの池の魚は美味しいと話しています。魔力が高まるそうです。流石、魔王様のご判断です」

「そうなんだ。ぼくも食べてみたいな」

 アステルは微笑む。

(アステルに、これ以上魔力が必要かしら?)

 ただでさえ隠す練習が大変で、今後増えていく予定なのに……とリアは思う。


「あの場所は魔力の素となるものが豊富なようで、手足が生えた魚が釣れたという報告も受けております」

「うえー 気持ち悪いわ」

 リアは眉をひそめるが、アステルはニコニコしている。

「ぼくは興味があるよ、食べてみたいよ」

「アステル、人間は、手足が生えた魚は食べないわ!」

「えー?」

 アステルは眉毛をハの字にして、リアのことを見つめる。


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