1周目&2周目 木の実
魔術院の庭にて
「わあ、あの木の実、美味しそう!」
8歳のアステルが木になった赤い実を指さす。
「とってきましょうか?」
6歳のルアンが聞く。
「そんなこと、できるの? 魔法も使わずに?」
アステルが目をぱちくりとする。
ルアンは得意げに、低木に登る。
(木に登っていいの!?)
木登りを生まれてはじめて見て、びっくりしているアステルに、ルアンは木の実をとって渡す。
アステルは「わあ!」と笑う。
「アステル様、おれが先に毒味をするので、まだ食べちゃダメです……って」
アステルはもう食べている。もぐもぐ。
ルアンは悔しく思い、木の実をもうひとつもいで木から降りると、すぐに口に入れる。
アステルは変な顔をしている。
「あんまり美味しくなかったね」
「そうですね」
ふたりはそのまま、魔術院の庭を冒険している。そのうちに、ルアンの足取りが重くなる。
「ルアン、どうしたの?」
「いえ、なんでも……」
アステルに心配をかけまいと、ルアンは強がるが……足が動かなくなり、しゃがみこむ。
「おなかが、いた……」
ルアンは道端に倒れ込んでしまう。
「!? ルアン!?」
ルアンは、真っ青な顔をしておなかをおさえている。アステルはあわてて回復魔法をかけるが、理論が間違っているのかうまくいかない。苦しそうなルアンの様子を見て、アステルは、魔術院に向かって叫ぶ。
「だれか!! 助けて!!」
しかしだれも来てくれない。アステルは魔術院に走りたい、でもルアンのそばも離れたくない。
ルアンはひどく苦しそうにしている。
(ルアンが、死んじゃう!)
アステルは恐怖する。
パニックになり、泣き始める。
「あーーーー!!!」
アステルは、大声で泣き続ける。
「どうされましたか、アステル殿下」
泣き声を聞きつけて、魔術院の研究者が一人、そばにきてくれる。アステルとは顔見知りだ。
研究者はルアンを負ぶうと、泣きじゃくるアステルの手を引いて、アステルの祖父、魔術院の院長のところへ連れて行く。
院長先生の回復魔法で、ルアンは目を覚ます。
アステルが、ルアンの手を握っている。アステルはボロボロに泣いている。
「ルアン、よかった。よかったよ……」
アステルの涙に、ルアンは驚く。
「ぼく、きみが死んじゃうかと思ったよ」
「アステル様は、おれに死んでほしくないんですか? そんな、泣くほど?」
「? 当然でしょ」
ルアンは、実の家族のことを思い出す。ルアンに『居なくなればいい』と言い続けた家族のことを。
(アステル様は、おれに、生きていてほしいのか)
喜びよりも、驚きだった。そのあとで、なんだか胸が熱くなった。アステルから、あたたかい気持ちをもらった気がした。
ルアンは、アステルの涙を拭こうと魔術院の仮眠室のシーツをひっぱる。
「アステル様、泣かないで」
ルアンは笑いかける。
「おれ、元気になりましたから」
「……ところで、アステル様は大丈夫だったんですか?」
「ぼくは全然大丈夫だったんだ。具合が悪くなったのは、ルアンだけだよ」
(アステル様はなんて丈夫なんだ)
ルアンは驚く。
「アステルは、自らに無意識に回復魔法をかけていたようだね」
院長先生が言う。
「これに懲りたら、ふたりとも、よく知らないものは口にしないことだね」
「はあい、おじいさま」
「はい、ご迷惑おかけしました」
ふたりは院長先生にお礼を言って、すこしふざけあいながら、魔術院から駆けだして行く。