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1) 2周目 アズールの街にて


「どうして、なぜ、ああ……ああああ」


 男の人が慟哭している。悲痛な声が耳のそばで聞こえる。靄がかかって何も見えない。手も足も動かない。

 男の人は、冷たい床に横たわる私の体を抱き寄せる。とても大切なもののように。

 大きな温かな手は、震えている。


「どうして……犠牲になる必要が……」


 熱い雫がポタリ、ポタリと顔に落ちてくる。


 私は、何が悲しいのか、もう全然わからないのに、ただただ悲しい。糸がほどけていくように、私の身体も、男の人の声も、ほどけてなくなっていく。


 たまに、そんなふうに消える世界の夢を見る。


ーーーーーーー


 アズールの港町は何もかもがキラキラして見える、とリアは思う。ウェーブがかった長い黒髪をひとつにまとめて揺らしながら、街道沿いの市場を1人、リアは歩く。


(潮のかおり、風! 燦々と輝く太陽! 色とりどりの果物や野菜! 楽しそうな人たち! 港町って素敵!!!)


 旅をしていた今までと異なり、これからは帰る家があることも嬉しくてたまらなかった。毎日あたたかいお布団で寝ることができ、好きなときに水浴びをすることもできる。

「本当に素敵!!」

 気持ちがつい、言葉となって口にでる。

 笑い声が聞こえてハッと横を見ると、露天の果物屋からガタイの良い店主が笑顔を向けている。

 リアは店主にぎこちない笑顔を返す。


「お嬢ちゃん、ご機嫌だね。ご機嫌ついでに果物はいかがかな?」 

 店先に並ぶ果物はどれも美味しそうだ。 

「うーん……じゃあ、この緑色のを3つと、赤くてまるいのを2つください!」 

「はいよ!」 

 店主は紙袋に果物を詰めたあと、赤い果物をもうひとつ乗せた。

「お嬢ちゃん可愛いから、ひとつおまけだよ」

「えっ カワイイ!?」

 ひとつに結んだ黒髪がはずむ。黒い髪に黒い瞳、ワンピースも黒で、腰に巻いたエプロンは白だが……ほぼ、黒づくめだ。

(地味! 本当に地味! なのに、カワイイって言ってもらえるなんて……)

 ニコニコしていると、リアは背後に影を感じた。


「あーあ、怒られますよ、最後のひとつは毒かもしれないのに」 

「毒!?」

「毒!?」

 リアと一緒に店主も驚きの声を上げる。

 リアよりも背が高い、年上の少年がリアの後ろに立っている。ジトっとした視線に、リアに対する怒りがこもっている。

 少年は癖っ毛の薄茶色の髪をとても短く切り、緑色の瞳をしている。茶色の半袖の服に黒いズボンに革のブーツを履き、帯剣している。


「知らないんですか? 『知らない人から何も貰ってはいけません』と言われていたお姫様がまあるい赤い実を他人からもらって食べて、お亡くなりになる話があるんです」

「ちょっと! ロアン! おじさんは私をカワイイって言ってくれたのに、失礼よ!」

「そもそもリアが、私を撒くからいけないんですよ。浮かれちゃってまあ……ウィローがまた体調を崩しますよ」

「うう……私はウィローにもロアンにも、美味しいものを食べて欲しいだけ!」

 あっけにとられている店主にリアは代金を払い、商品を受け取る。


「おじさん、おまけをありがとう、またね!」

「毒ははいっていないから、またおいでね!」

 店主の声にリアは笑顔で手を振り、ロアンはやや冷たい視線を向け、会釈をして去って行く。



 ロアンはリアが抱えた紙袋を奪いとる。

「ありがと」「いいえ」と短いやりとりのあと、海沿いの街道を並んで歩くふたりは兄妹のように見える。


「私もう12歳よ、どうして一人で出かけちゃいけないの? アズールの町って安全なんでしょう? じゃなきゃ、ウィローが住もうとしないよね」

「港町ですよ、船に乗せられてどこかに連れていかれたらどうするんですか」

「お船! 乗ってみたーい!」

「ウィローが倒れそうなセリフですね」


 リアは街道と砂浜の境界線にある、積まれたレンガの上をわざと歩く。ロアンは眉をひそめる。


「今度、お船に乗せて欲しいって頼んでみようかなあ」

「リアが1人で買い物をしていたことをウィローが聞いたら、乗せてもらえないと思いますよ」

「ウィローもロアンも、本当に過保護!」

「海側を歩かないで、リア」

 ロアンはレンガの上からリアをおろそうと手を差し伸べるが、リアは口を尖らせて、わざと早歩きで歩き始める。

「リア!」

 ロアンが後を追う。

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