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第3話 友の演説

 雑談している人たちもエルライが壇上に上がったのに気がつくと、一斉に注目して広場は静まり返った。

 すると、エルライは取りまとめ役の人と目を一度合わせてから語り出した。


「皆さん。お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」


 みんなに聞こえるように、大きな声ではっきりと話す姿を、僕は不思議な気分で眺めた。


「この度、北の遺跡において重大な発見がありました。それはこの世界に住む全ての人の寿命に関わるものです」

「寿命……?」


 みんなが不安げに囁くと、エルライは頷いた。


「はい。寿命です。私たちの寿命が昔に比べて短くなっていた事実が、今回の発掘によって分かりました。現在の私たちの寿命はおよそ二十五年です。しかし、数百年前の人々は今よりずっと長く生きていたのです」

「何が原因で短くなったんですか?」


 聴衆の中のひとりが尋ねると、エルライはその人のほうを向いて答えた。


「私たちは消滅する時、魂が体から離れます。その魂の通り道に星が停滞していたようなんです。そして、その星にぶつかって、魂の一部が地上に散らばっていました」


 その言葉にざわついた。


「魂の通り道にあった星は現在観測されておらず、これ以上は魂は分離しないと考えられています」

「散らばった魂はどうなってしまったんですか?」


 また別の聴衆者が不安そうに質問する。


「散らばった魂のかけらは、地上にある『星粒の木』に集まっていると古代の文献にあり、私たちはその場所を探しました」


 エルライはみんなを安心させるように、微笑みながら見渡した。


「そして、星粒の木の存在を確認しました」


 その言葉にみんな安堵したように喜んだ。


「そして、私たちはその木から魂のかけらが結晶化した『星粒』を採集して、世界中の人々が魂の再融合をできるように運ぶことにしました。しかし……」


 そう言うと、エルライは少し緊張した顔で続ける。


「しかし、星粒と適合する人は十万人に1人程度の割合であることが確認されました」

「どうしてそんなに少ないんですか?」


 聴衆の中のひとりが手を挙げて質問した。


「それは『星粒の木』が一度に結実する数に限りがあり、過去に消滅して、まだここに生まれ変わっていない人たちの星粒もあるためです。そのため、適合の数が少ないと考えられています」


 その回答に、みんなは納得したように頷いた。


「しかし、実際に適合した人がすでに数人います。そして、個人差はあるでしょうが、その人たちはおよそ二十年ほど長く生きると思われます」


 二十年という長い命を手に入れるという事に、みんなざわついた。


 僕はその話を聞いて想像した。

 親しい人たちが消滅していくのを見送り、たったひとりで二十年もの長い時を過ごす。それは、孤独で寂しいものではないのだろうか?

 ひとりだけ長い命を手に入れることは代償が大きいような気もするが、エルライは延命することの大切さを訴えた。


「確かにひとりだけで長く生きることは孤独です。しかし、毎年数人ですが仲間も増えています。延命した人で、希望する方には、延命した人たちの情報もお渡ししています」


 さらに言葉を続ける。


「実は私たちの寿命が短くなったことで、知識の断絶が起きているのです」


 知識の断絶という言葉に、この都市に点在する今の技術では再現できない金属を思い浮かべる。


「古代の文献や知識は、この世界の人々が短命になるにつれ、失われ、途切れていったのです。木や紙に綴られていた重要な情報は、それを管理する人が不足し、腐食しても気が付けず、数百年、数千年前の知恵が失われているのが現状です」


 広場のみんなが、エルライの言葉に注目する。


「北の遺跡では、その事実に気がついた五百年前の先人が知識が断絶しないようにと、長い年月をかけて大量の石板に情報を刻んだのです。そのお陰で、このような発見に繋がったのです」


 僕は、北の遺跡がすごいところだと噂では聞いていたが、まさかそんなにも重要な場所だとは思わなかった。


「もしまた寿命が短くなるような出来事があった時に、再び星粒の森の存在が忘れられたらどうなるでしょうか?」


 静まり返った広場には、エルライの透き通った声だけが響く。


「今より短い寿命では、新たな知識を手に入れるために、他の土地へ旅することすらままならないかもしれません」


 その通りだと、数人が頷く。

 この大都市の住民のほとんどは、他の地域の出身者なのだ。


「私たちはこの星に暮らす同じ仲間です。長く生きて、知識を保存して後世へ伝えていくことは、未来にこの星で暮らす仲間のためにもなります」


 エルライは両手を胸に当ててそう言うと、最後に


「そのためにも、魂の再融合にご協力いただけないでしょうか?」


 訴えるようにそう広場に向かって投げかけた。

 集まったみんなは、最初はまばらに、しかしだんだんと大きな拍手を送って歓声を上げた。


 そうして、みんなの協力を取り付けて、エルライは適合者を調べる準備のため、広場に隣接する集会場の建物へ消えていった。



 *



 その後、広場に集まっていた人々は、ひとりずつ集会場の廊下を歩かされた。そして、左右の部屋のどちらかに引力を感じた場合は別室に行くという、少し変わったことをさせられて終わった。


 今回は適合者はいなかったようだが、また来年も同じように星粒を持った人が訪れるから、同じように協力してほしいと建物を出る時に言われた。

 そうして、今回集まった人たちはぞろぞろと解散していった。



 僕は広場のベンチに腰をかけて、エルライが作業を終えるのを待つことにした。

 そして、先ほどの広場での演説を聞いて、あれが今のエルライなのかと目を瞑る。


 堂々とした様子で大勢の前で話す姿は格好が良かった。

 そして、バジにいた頃には無かった、強い信念のようなものを感じた。


 僕はなかなか人が出てこない集会場へ目を向けた。

 旅に出てから、エルライは一体何を見て、聞いて、経験したんだろうかと気になる。

 聞いてみたいが、そもそも今のエルライと話が合うのか不安だ。

 どう声をかけたらいいんだろうと悩みながら、僕は落ち着きなく腕をさすった。

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