やりなおすということ
無敵の輝きを放っていた彼女は本当にあっけなく死んだ。それにも関わらず俺は未だに時間を巻き戻さずにいる。
どの面を下げて彼女と会えばいいのか分からない。時間を巻き戻して嫌なことから逃げ続けて来た俺はこれまで失敗をしたことが無かった。
ティリスとの関係はひと月待たずに終わった。少し過ごすだけで彼女は本当にどうしようもない人間であるとわかった。自分を中心に世界が回っていると考えて、逆ハーレムなどといろんな男に言い寄る不誠実の塊だった。自己紹介での沈黙も庇護欲を煽るための演技だった。
彼女の男の一人が楽しむ時に出した麻薬にハマり、薬の金目的に6人に強盗を働いて処刑された。
街では不審死が相次いでいるが劇的な事件は全く起きなくなっていた。その現実が嫌でもリアーヌの存在を思い起こさせる。
一度は自ら命を絶とうと考えたが、何をどうやっても実行前に巻き戻されてしまう。それはリアーヌの言っていた決定された未来のために死ぬことが出来ないのか、ただ巻き戻しという能力がなせる技なのかは判断がつかなかったが、結局は些細な違いでしかない。
彼女の残した膨大な手紙を読み解いていく内に、一つだけで違う手紙が見つかった。
リアーヌが俺に宛てた手紙だった。
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ロイクへ
面と向かって話すことが難しいので手紙という形を取ることを許してください。
あの頃のあなたはいつだって私のことを信じてついてきてくれましたね。その時の私は使命感と自負心に満ちていて、いつだって自信満々にあなたを引っ張り回していたと思います。
でも察しの良いあなたには分かっていたように、本当は私は強い人間ではありませんでした。
いつだって私は不安に付きまとわれていて、一人ではだいそれたことを出来ません。だから私はいつもあなたが後ろにいることを何度も確認して動いていました。
私があなたと初めてあったとき、私はあなたの中から、私にはない経験に裏打ちされた心の余裕を感じました。失敗してもなんとかなるという器の大きさを。
その時の私はたくさんの能力を身に着けていましたが、それは失敗を恐れて挑戦から逃げるための言い訳に過ぎませんでした。私にはまだ出来ないからあとにしようというという逃げにほかなりません。
だから私はあなたを頼りました。あなたに甘えていたのです。
でも途中で私は道を失いました。
出来る事が増えて行く内に、身の程を知らずに触れてはいけない事に手をだしてしまったのです。未来が見えることで、自分が神にでもなった気分になっていたのです。
あなたはまだ犯してもいない犯罪を裁くべきではないと言いましたね。本当はその理屈が正しいことを私は理解していました。私はただ自分が後悔したくない、苦しみたくないというだけで労力の先払いをしていたのです。それは本来許されないことでした。
あなたが私を捨てるという未来を見たとき、私はようやく自分の行いの非道さを理解しました。
あなたが私がその悲劇の未来を作り出していると言ったとき、私はその現実が直視出来ずに全てをあなたに押し付けました。
あなたと私の未来であるなら二人で一緒に立ち向かうべきだったというのに。
私はあなたが私を捨てたことを怒る資格がありません。私が身勝手に全てをあなたに押し付け、最後の最後まで手紙という手段に逃げているのですから。
だから私のことは気にせず幸せに生きてください。
さようなら。今までありがとう。
リアーヌ
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濡れた手紙を読み終えた俺は立ち上がって決心した。
今戻らなければ一生やりなおす機会を失う。
俺は時間を巻き戻した。
周囲の光景が歪むがそれは能力によるものか違うものが原因かわからなかった。
目の前にはリアーヌがいた。どの時間のリアーヌかは分からない。ただ、そこにいる彼女は憧れ追いかける星ではなく、自分が向き合わなければならない女性だった。
「謝らないといけないことがあるんだ」
この謝罪は時間を戻して自分を繕わない。だからきっとひどいものになるだろう。それでも絶対にやり遂げなければならない。