中立地帯・大森林上空遭遇戦・七
トーエとウェインは駆逐艦ダイダインの甲板上で言葉無くその惨状を目の当たりにしていた。
そんな中、戦艦オンワードは衝角攻撃をした後、時計回りに反転。駆逐艦ブルーバックから引き剥がす事に成功した巨大竜に向けて、遠慮なく主砲を撃ちを始めた。
偵察用蜻蛉型魔導機は弾着観測を始めて、戦艦オンワードに向けて発光信号で弾着修正情報を送っていた。合間を見つけ、果敢に魔導機下部に搭載された剣を以って攻撃しているのはゼクス・フォルスター・シグザウェル専用魔導機か。
ここにきてようやく巨大竜に対して反撃する事ができた。
駆逐艦ダイダインは、近距離で大破炎上していた駆逐艦ハイベィトに接舷して救助活動を始める事になった。
甲板上で放心していたトーエとウェインだったが、巨大竜の足場になっていた駆逐艦ブルーバックの高度が徐々に下がり始め隊列から右側へ逸れていく姿を横目に見ながら、あとから来た手の空いた先輩乗組員たちと共に一緒になってその作業に従事した。
「……くそ、くそっ、駆逐艦が戦列から離れていく……被害甚大だ」
「……たった一体の古代竜の所為で艦隊が全滅してしまう」
トーエとウェインの口から辛うじて搾り出された言葉は呻き諦めにも似た呟き。その言葉を掻き消すように、駆逐艦ダイダイン全体に再び緊急警報の音が鳴り響いた。
駆逐艦ハイベィトから助け出された乗組員たちや駆逐艦ダイダインで救助作業に当たっていた先輩乗組員たちが俄然ザワめきだす。
「はぁっ、今度はなんだよっ!!」
「っ!? あ、ああ……そんな……」
もう勘弁してくれといわんばかりのトーエの逆ギレ気味で叫ぶ。ウェインは緊急警報の音に反応して辺りを見回し、更に上を見上げた事でそれに気が付いた。
艦隊上空に存在する二つの巨大竜の影。
駆逐艦ダイダインの甲板上のあちこちで絶望に満ちた呻き声が漏れ聞こえる。
同じ頃、護衛されていた輸送艦の艦長は決断した。無線封鎖を破って本国へ緊急通信を発したのだ。
そして、輸送艦艦内に非常事態発令の警報が断続して鳴らされる。音の意味は積載格納庫の緊急切り離しである。
輸送艦は戦域の離脱を計るべく速度を上げる為、積載格納庫を切り離して船体重量軽減する事にしたのだ。
積載格納庫の一つが一区画分の大きさがある為、内部に人が居ないか確認した後、少し間を置いて船体下部の積載格納庫が順次切り離されていった。
積載格納庫は重力に従って、輸送中の軍需物資やら遺跡の発掘品の数々を中に抱えたまま、大森林へと落下していく。
それに伴って輸送艦の船速が徐々に上がっていく。後方に戦場を置き去りにして離脱を開始した。
この時になって、戦艦オンワードと相対していた巨大竜の動きに変化が現われた。
それまで互いに激しく交えていた攻撃の手を止めて、上空で未だ手を出さず戦闘を傍観していた巨大竜二体の元へ合流したのである。
巨大竜一体が重巡洋艦級とは言え、戦艦に対して三対一と数的優位に立ったにも関わらず、巨大竜達はしばらくその場で何かを確認するかのように滞空していた。
やがて船体各所から黒煙を巻き上げ満身創痍に至った戦艦オンワードを一瞥して、これまでの興味を無くしたように、三体の巨大竜は東の空へ連れ立って飛んでいった。
そして、戦闘終了を知らせる合図が如く、大森林に駆逐艦ブルーバックの墜ちて爆発炎上した音が轟いた。
――――戦闘終了後、被害を受けた各艦はいち早く戦域を脱していた輸送艦の元に再合流した。
艦隊の被害は戦艦オンワードが中破。駆逐艦ダイダインと輸送艦は健在。駆逐艦ハイベィトは大破したが炎上箇所の消火に成功したので、身軽になった輸送艦が曳航して王都へ向かう事となった。
駆逐艦エルパープは轟沈。駆逐艦ブルーバックは大破。後、船体は大森林へ落下、轟沈。乗員の安否は、落下傘降下をした脱出者を含めてほぼ絶望的。これは、助かっていたとしても大森林で水や食料も無く、生存している内に救援が間に合わないとの見込みからそう判断された。
多大な損失を被った残存艦隊は、翌日になって所属不明艦を追跡した母艦アメリアを基幹とした別働隊と合流を果たし、二日後の九月十七日の午後にアムリタ王国の王都アンカリーナへ帰還した。
これが、中立地帯・大森林上空遭遇戦の顛末である。
追記として、艦隊が帰還した翌日の九月十八日、沈んだ駆逐艦の乗員の捜索隊と、駆逐艦に搭載されていた竜核と輸送艦から破棄された積載格納庫の回収部隊が編成され、大森林へ向かっている。
輸送艦からの無線連絡を受けた王国軍令部が、残存艦隊の帰還と報告を待たずに異例の速さで救援艦隊を編成して送り出したのである。
我が妄想……続きでした。
読んで頂き有り難うございます。
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