中立地帯・大森林上空遭遇戦・五
大森林上空にて、アムリタ王国の王都アンカリーナに向かっていた艦隊が、所属不明艦に拠る襲撃を受けこれを撃退した。
艦隊の被害状況を確認した後、無線封鎖はそのままに艦隊を二つに分けて再編成を行った。
所属不明艦の追跡した母艦アメリアを基幹とした艦隊とは別に、戦艦オンワードを基幹とした駆逐艦ブルーバック、エルパープ、ダイダイン、ハイベィト、輸送艦の順で単列縦隊を組んで王都へ向かっていた。
所属不明艦の襲撃後と言うこともあり、艦隊は警戒態勢は厳にし、戦艦オンワードに搭載されている偵察用蜻蛉型魔導機六機の内、先の戦闘で活躍したゼクス・シグザウェル専用魔導機と交代用予備機二機以外の四機が哨戒に出ていた。
駆逐艦ダイダインの後部見張り台で索敵に携わっていたトーエとウェインの二人もようやく任務から解放されて休憩交代が出来たので、艦内の喫飯所である休憩談話室へやってきていた。中には他部署の休憩交代に入った先輩乗組員たちが会話をしながら食事を摂っていた。
「あ、先輩、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「おう、トーエにウェインか。見張り中に戦闘になったんだって? お前等大変だったな」
「はい、まさか初任務で実戦を目の当たりにすると思いませんでした」
「突然の奇襲に肝を冷やしました」
「だろうな。でもお前等が一番に発見したんだろう? 同じ艦の乗員として鼻が高い」
「お手柄だな。よくやった、このまま問題なく進めば明日には王都だ。それまでしっかりと飯食って英気を養うといい」
「はい、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
先に食事中だった先輩乗組員たちとひと言ふた言の会話をして、配膳係から受け取った食料をトレーに乗せて、自分達が何時も座っている窓際の席へ着いて、パンに齧り付きながらフォークでポテトサラダや肉を突き始める。
「俺、この任務終わったら娼館行くんだぁ。……どうだウェイン、お前も一緒に行くか?」
「ぶふーっ!!」
「……なに吹き出してんだよ、きったねぇな」
「トーエがなんの脈絡無くいきなり娼館の話を持ち出したからだよっ!」
「だってさ、初めて実戦経験したろ? その所為か興奮冷めやらないって言うかさ、だから、どうだ?」
「だから如何だって言われてもなぁ。俺たちはただ見てただけだったろ。つーか、お前、食い気より色気の方が大事かよ」
「えー、ウェインはそうじゃないのかよ? 味方の蜻蛉型が敵機を撃墜した時、結構な雄叫び上げてたじゃないか」
「あ、あれは味方の蜻蛉型が無傷で敵機を落としたからであって……だからってなんでそれが娼館に行く事になるんだよ!」
「ははーん、その反応……お前まさか童貞なのか?」
「う、うっせーよ」
図星を突かれたのか、ウェインはフォークでトレーの上に乗っかっているポテトサラダを掻き混ぜながら不貞腐れたように窓の外に目を向けた。
正面に座っているトーエのニヤ付いた顔がやたらと憎たらしい。その後ろの方で先程会話を交わした先輩たちの視線が生暖かく向けられている羞恥からだった。
駆逐艦ダイダインの休憩談話室は、所属不明艦を退けた所為もあってか空気が若干弛緩していた。
ウェインがフォークで掬ったポテトサラダを咥えて、休憩談話室に据え付けられた丸い窓から外を眺めていると、室内に突如として緊急警報の音がけたたましく鳴り響き始めた。
「な、なんだ? 何が起きた!?」
「……えっ敵襲? まさかまた!?」
「飯を食うのは後だっ、全員持ち場に戻るぞっ!!」
先輩乗組員たちは、テーブルの上に無造作にスプーンやフォーク、食器を置いて慌しく休憩談話室から出て行った。
ウィエンとトーエも自分の持ち場へ戻る為、急いで駆逐艦ダイダインの後部見張り台が在る甲板へ向かった。
二人は甲板に出て、風に煽られながら後部見張り台に近付いていくと、交代勤務していた見張り要員が、なにか大声で叫びながら上空を、駆逐艦ダイダインの前方を指差していた。
その指し示された方に二人が振り向くと同時に、駆逐艦ダイダイン前方の上空から三条の光の塊が艦隊の隊列目掛けて降り注いだ。
そのうちの一つが駆逐艦ダイダインの前を先行して進んでいる駆逐艦エルパープの中央に命中する。
たった一撃で駆逐艦エルパープの船体は見る間に大きく傾き、直後、轟音と衝撃波を発生させながら船体を真っ二つに割って轟沈。二つに割れた船体の各所から黒煙を上げて、時折誘爆を交えながら残骸となって大森林へ散っていく。状況から駆逐艦エルパープの乗組員の安否は絶望的。
「っ!?」
「……!!」
「え、エルパープが轟……沈?」
「一体なにが……何が起きたんだ!?」
二人は爆風と衝撃波に煽られながら甲板の手摺りに掴まって前方で起こった惨状を眺めていると、遙か高空から巨大な黒い影が飛来してきた。轟沈した駆逐艦エルパープの更に前方を進んでいた駆逐艦ブルーバックの甲板に、まるで巨鳥が木の枝に止まるの如く軽やかに降り立った。
全身に黒く鈍い光沢を発した鱗を纏ったソレは、背に付いた四枚の翼を大きく広げて、太くしなやかな首を持ち上げると、周囲に向けて自身の存在を主張するかのように咆哮した。
「竜、だと……まさか、そんな……」
「あ、ああ……駆逐艦に古代竜が……」
トーエは信じ難いモノを目にした様な、ウェインは絶望に満ちた表情で、二人は身体を震わせる。ただ呆然と駆逐艦ブルーバックの甲板に取り付いた巨大竜を見ていた。
ここでウェインの言葉を補足すると駆逐艦ブルーバックに取り付いた竜は正確には巨大竜。古代竜より身体は小さく、成体ではあるがまだ中堅級の竜である。それでも体長は五十メートル以上あり、人類の見立てとして、艦種に当て嵌めるとで重巡洋艦級になる。実際はそれ以上になるのだが。
所属不明艦との戦闘前にウェインの言葉を聞いた神が送り込んだ使者なのか、或いは運命の悪戯か。いずれにしても、大森林上空遭遇戦はこれからが本番だった。
我が妄想……続きでした。
読んで頂き有り難うございます。
更新は不定期でマイペースです。