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散文の後/北風(仮)  作者: 新辺守久/小珠久武
本編
5/17

中立地帯・大森林上空遭遇戦・三

 トーエとウェインの二人が所属不明艦の発見と報告した事に因って、情報は艦隊全体に行き渡り、程なくして警戒態勢を敷かれた。


 先ほど発見した所属不明艦は艦隊左舷後方高度約百メートル航行中。その先端から大自然の深緑をバックにキラリキラリと人工的な小さな光を幾つも吐き出している。


「……発艦機は全部で十二、帝国の旧式矢印ポイント型!!」


 トーエは双眼鏡を覗きながら所属不明艦の観測結果を口にした。それを聞いたウェインは見張り台に据え付けられていた艦内通信機を使って再び艦橋へ報告する。


 報告を聞いた艦橋では各部署に対して対防空戦闘準備の号令が出された。同時に隊列を組む各艦も状況を確認した様子で慌しく発光信号の遣り取りが繰り返された。


 そうしてる間も、所属不明艦から発艦した矢印ポイント型魔導機が加速上昇を開始して、飢えた狼の如く艦隊の下腹部に牙を立てようと襲い掛かってくる。


 だが、艦隊は所属不明艦を早期発見、観測できた事が功を奏したようで、左舷後方から急速接近する矢印型魔導機に対して、両舷に配された駆逐艦隊が激しい対空砲火の弾幕を展開して、これに対応する事が出来た。


 駆逐艦隊からの激しい対空砲火に、矢印型魔導機も容易に艦隊へ接近出来ず、それでも幾つかの魔法弾や実体弾を左舷航行中の駆逐艦隊に向けて射出していた。


 しかし、駆逐艦の船体に張られた防御用魔法障壁に跳ね返されて致命傷を与える事が出来ず、矢印型魔導機は獲物に牙を掛け損ねたまま艦隊の外側をねぶるように勢いよく上昇していく。


 矢印型魔導機が弾幕の射程外に達した辺りで、駆逐艦から撃ち出されていた対空砲火は一時的に止んだ。これが完璧な奇襲であれば何隻かの艦が、その凶悪な魔法弾の牙で致命的な損傷を受けて餌食になっていた可能性があった。


 駆逐艦ダイダインの後部見張り台に立って、いち早く所属不明艦の奇襲を発見したウェインとトーエのお手柄だった。その当の二人は、突然始まった対防空戦闘を耳を塞ぎながら見守っていた。


「……ふう、第一波はなんとか凌げたか」

「いや、次は上から突撃槍を持ってダイブして来る。今度は標的を絞ってくる筈だ」

「一番ガワの弱そうなのは……って、中央にいる輸送艦、か」

「慌てるな、アレを見ろ!!」


 護衛の駆逐艦隊が第一波を凌いでいる間に、隊列中央にいた母艦アメリアで、挨拶も無しに突然現われた無粋な客を持て成す為、発艦準備の整った魔導機が順次飛び立ち始めていた。


 数年前に王国で、格闘戦闘や対地攻撃はもちろん索敵もこなす多目的運用を目指して開発され制式採用された、長い尾と左右に二対の翼が在る蜻蛉ヤンマ型魔導機が、艦隊上空に護衛機となって陣取り始めていた。


「これで艦隊の守りは万全だ!! 我が王国の魔導機の力見せてやれってんだ!!」

「つーか相手は何処の国なんだ? 帝国じゃ型落ちだが矢印型の黒で統一した機体に所属マークは……お前確認できたか?」

「いや、真っ黒に塗り潰されて判らなかった。帝国か属国、或いはどこぞの近隣国家の可能性。って言うか、大森林まで出張ってくるなんてご苦労なこって」

「大森林だからだろうが。自国の利益の為なら何処にも属していない領域で、どこぞの勢力に襲われても近隣国家は知らぬ存ぜぬ。後ろに帝国が居たとしてもだ。最悪、事故か空賊の仕業に仕立てられる」

「お宅のトコの艦隊が大森林で座礁してましたよ。もしかしたら事故か空賊かもしれませんねぇ。不運なことに積荷やら船体やらは死肉食いスカベンジャーに会ったが如く殆ど食い荒らされてましたよ。残ってた艦隊の残骸からなんとかお宅のフネと判断出来たので外交的配慮で情報を持ってきましたよーって」

「そして略奪したお宝は自分たちのポッケに無い無いする訳だな」

「前提として情報漏洩を防ぐ為に襲われた艦隊は全滅なんだよな」


 トーエは手に持った双眼鏡で、遙か上空で翼に太陽光を反射させながら反転急降下してくる矢印型魔導機を睨めながら、ウェインは艦隊上空で配置に付いた味方の魔導機を眺めながら、会話を続けた。


「矢印型反転っ、来るぞ!!」

「いや、直掩に付いた蜻蛉型が前後二手に分かれて上昇を始めた、迎え撃つつもりだ!!」


 蜻蛉型魔導機が、遙か上空から急速接近してくる矢印型魔導機を正面に据えて、搭載された魔導機関へエーテル触媒を送り込んで加速をうながしながら上昇速度を上げていった。


 双方の魔導機が魔法弾の有効射程距離に達した瞬間、互いの魔導機の先端から閃光が発せられ激しい撃ち合いが始まった。連続してばら撒かれた魔法弾が互いの魔導機へ襲い掛かる。


 放たれた魔法弾を避ける為、急降下中の矢印型魔導機は乱数回避を始めた。


 対する蜻蛉型魔導機は先行していた五機が魔法弾を避けずに、機体下部に装着された魔杖、細長く先端に丸い珠の付いた円柱から、防御用魔法障壁を前面に展開させて魔法弾を防いだ。


 そして、弾け飛び掻き消された魔法弾を突き抜けるように、後続に位置していた五機が機体下部から垂直尾翼の様な板状の剣を展開させて、乱数回避をしていた矢印型魔導機の動きに合わせて高速機動しながら接近する。


 魔導機同士がすれ違った時に、矢印型魔導機が五機、機体や翼を切られて空に黒い煙を引きながら、機体の破片と火花を散らして力無く大森林に向かって墜ちていった。


「よし、矢印型五機撃墜っ!! 蜻蛉型の脱落は……無し!!」

「…………」

「ふはははっ、圧倒的だな我が王国の蜻蛉型は!!」

「うおぉぉーーーっ! そうだやっちまえーっ!! そのまま全部落としてしまえーーーっ!!!!」

「お、おう!?」


 魔導機同士の空中格闘戦を生で見た所為か、双眼鏡を持ったトーエが興奮冷めやらぬまま、それを片手にガッツポーズを決めた。


 言葉無く静かに戦況を見守っていたウェインも、初めて見る空戦にやはり心の内で物凄く興奮していたのであろう。堰を切ったように右の拳を天に突き出して大声を張り上げていた。


 突然隣から上がった大声に、トーエはビクッと体を震わせて思わず手に持った双眼鏡をお手玉してしまい、床に落としそうになっていた。

我が妄想……続きでした。

読んで頂き有り難うございます。

更新は不定期でマイペースです。

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