中立地帯・大森林上空遭遇戦・一
大陸暦三二一年九月一四日一一時三〇分――――。
眼下に広がる緩く湾曲した大地。遠くには所々に青々した背の高い山脈が横たわっている。そして、裾野には果てしなく広がる大森林と曲がりくねった川と湖沼が存在している。ここは中立地帯の大森林。
その上空千メートルの高度を複数の箱型した構造物が移動していた。この世界に於ける、大型魔導機関を搭載した空中移動可能な戦闘艦艇が三列に縦列を組んで、アムリタ王国の王都アンカリーナの在る西へ進路を採って航行していた。
彼等の仕事は艦隊の中心に居る輸送艦の護衛任務であり、中立地帯の大森林奥地で発見された古代遺跡の発掘品を王都の研究施設へ移送している最中であった。
カラス型駆逐艦ダイダインの後部の見張り台で、防寒対策のされた厚手のコートを羽織って周囲を警戒している見張り員が二人。
双眼鏡を覗いて周囲を確認している男がトーエ。見張り台の手摺りに肘を掛けて寛いでいる男がウェイン。
現在は母艦アメリアと戦艦オンワードから先行して索敵用魔導機も出ており、トーエとウェインが視認出来る範囲でも特に異常は見られない。
そんな事から二人は、遙か前方で小さな点になって飛び回る索敵哨戒中の蜻蛉型魔導機と、中央に、戦艦、輸送艦、母艦の順番で配し、それ等を側面から駆逐艦が護衛する三列縦隊の陣形を採っている艦隊を眺めながら、のんびりと会話をしていた。
「母艦と戦艦から魔導機が出て哨戒してるんだ。俺たち必要無くね?」
「そーは言ってもなぁ、これが仕事だしー、我慢するしかないっしょっ」
「ウェインはそれでいいかもしれんが、俺は早く出世して楽してぇんだよ」
「それなんだよなぁ。……そういえばさ、俺の同期の一人が魔導機乗りの見習いやっていてな、あそこの戦艦に乗艦してるんだ」
「……へぇ、戦艦の艦載機乗りの見習いか。よっぽどのコネが在ったんだろうなぁ。……で?」
「ああ、何を言いたいかって言うと、魔導機乗りは見習いとは言え、俺たちより階級が上なんだよなぁって、な」
「うわっ、ずっりーなぁ!! それが判っていたら俺も魔力とコネが在ったら魔導機乗り目指していたわぁ……」
「まぁ、そいつの話じゃ連中には連中の苦労があるって話なんだけど」
「それなー、あれは限られた貴族か余程のコネがないと乗れないからなぁ。世の中ままならねーなぁ」
国家としては、貴重な魔導機乗りの待遇を悪くして他国に飛ばれるよりは多少なりと優遇的な処置して離反を防ぐ意味合いも在ったのだが、それが彼等の、そして、それに付随する貴族達の特権意識を増長させる原因にもなっていた。
ウェインの脳裏を掠めたのは、軍学校卒業後も顔を合わせた時は何時もと変わらず接してきてくれた、中世的な容姿と小柄で細身の体型をした同期の顔だった。
本人曰く、魔力による身体強化の弊害。子供の頃から身体強化を多用した影響で身体や筋肉の発育不全が原因らしい。
確かに魔力による身体強化の訓練は身体がしっかり出来上がってくる成人年齢十五歳からの使用が推奨されている。最初聞いた時は自分の小柄な身体に対する劣等感からそんな言葉が出たのだろうと思った。
しかし、彼の軍学校時代における身体強化の使い方は、子供の頃から嗜んでいるとしか思えないほどスムーズに扱っていたのを見て、彼が言っていた事が本当だったと理解した。
しかもこの同期、同学年どころか当時の軍学校内でも抜きん出た魔力量の持ち主だった。それも恐らく王国内でも上位に位置するぐらいの魔力量。これも本人に言わせると「昔読んだ軽めの小説に書いてあった知識のお陰」なのだそうだ。本当に意味が判らない。
当時、ウェインも軍学校のカリキュラムに付いて行く為、身体強化や魔力量を増やしたかったのでトレーニング方法を参考にしたいからとどんなの小説だったか聞いてみたけど、のらりくらりと上手い具合にはぐらかされてしまった。
そんな同期と、先日、大森林<竜の墓標>発掘現場の臨時宿営地で久しぶりに再開して一緒に食事をした際、「親父の勇名と保護者のお陰でなんとかやっていけてるけど、ただの平民上がりだったら相当に当たりが厳しい」と、アルコールをひと口も摂取していないクセに愚痴愚痴とクダを巻かれたのだ。
我が妄想……続きでした。
読んで頂き有り難うございます。
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