初陣・二
一拍置いて視界の風景が流れ、魔導機が射出機の軌道を滑り落ちていく。いや、射出とは名ばかりの自由落下。これは軌道が途切れている降りのジェットコースター。或いは、真下の落ちるフリーフォールならぬ前に落ちていくフリーフォール。
急激な落下速の圧で視界は薄暗くなって狭くなり、機体はガクガクと震えながら周りの景色をすっ飛ばしていき、軌道の終点である切れ目が目前に迫ってくる。
――――落ちる。そんな感覚とともに深緑色の景色が見えた。大森林。
そう認識した次の瞬間、フワッとした機体が浮遊する感覚と座席に圧し掛かる自分の体重。目の前に広がる薄雲の絨毯を敷いた青い空。隊列を組んだ艦隊の姿。
上空では母艦アメリアから発艦した蜻蛉型戦闘機が、腹に重そうな武器を抱えながらも、そんな気配を微塵も感じさせない速度で、二手に分かれて上昇していく。
一方の敵機であろう矢印の形をした魔導機が最高度に達したのか、折り返し迎撃に向かった蜻蛉型戦闘機と相対していた。正面と正面のぶつかり合いだ。
対向戦は蜻蛉型戦闘機が被害の無いまま、矢印型十二機中五機を撃墜して、四散した敵機に対しツーマンセルの形で反転攻勢の追撃に入った。
あっという間の出来事に、操作盤に置いていた手から汗が滲んでいた。……これが実際の空中戦。
ゴーレムの技術を基にしているとは聞いたけれど、胴体部から腕が延びて腹に抱えていた重そうな武器を振り回し、相手の機体を真っ二つに切り裂いていた。
腕の動きで機体にぶれた気配がないから、どうやって慣性の法則を殺しているのか。前世を経験している身からすれば本当に意味が判らない光景だった。
「母艦の連中もやるじゃあないか。狩りの邪魔しないように後ろから見るとしようか」
ゼクスさんが戦況を見ながらそう口にして魔導機を操作する。機体は隊列の最後方に回り込んでから艦隊と同等に近い速度で位置取りを決めた。
そうしている間にも蜻蛉型魔導機が有利な状況で空戦を続けていた。気が付けば、乱戦している味方に流れ弾が当たらないように配慮したのか、駆逐艦が張っていた弾幕の傘が無くなっていた。
「敵に一機、手練れがいるな。他のと動きが違う。だがウチ連中も負けちゃいない」
ゼクスさんが言った通り、確かに一機だけ矢印型の味方機すら付いていけない機動で飛んでいる魔導機がいた。
まるで蜻蛉型の攻撃を見切っているようなギリギリの回避を続けていて、あわよくば蜻蛉型魔導機に反撃に転ずるような動きをしている。凄い腕前だ。
敵味方の空戦に魅せられ操作盤に置いている汗ばんだ手にチリチリとした鬱陶しい痛みが走っている。大した痛みじゃないのに集中力が散漫になりそうだ。集中力を取り戻そうと戦場全体に視界を広げる。
繰り広げられた乱戦で、撃墜された敵矢印型魔導機から脱出した操縦士であろう落下傘が幾つか確認できた。それらは風に揺られながら大森林へゆっくりと落ちていった。
海に着水するのとは違って地面があるからマシかもしれないけど、危険な野生生物が跋扈する大森林のど真ん中、しかも未知の領域から生還するのは奇跡でも起きない限り厳しいだろう。敵とは言え同情してしまう。
そして、矢印型は手練れの一機を残して全滅したようだ。最後の敵に対し、蜻蛉型が詰めに入った。
「……ん、あの動き、駆逐艦と刺し違える気か!?」
そこで、ゼクスさんが敵魔導機の機動が変化したことを察した。魔導機同士の空戦を諦めて駆逐艦に狙いを定めたような言い方だ。
事実。矢印型魔導機の機動は追い詰める蜻蛉型を振り切りながら、対空砲火を止めていたブルーバックの隙を突くように近接していた。
神風攻撃。不意にその言葉が頭の片隅を過ぎった。
「アル、しっかり掴まってろ。ブルーバックに辿り着く前にヤツを迎撃する!」
だが、赤雷はブルーバックを後方から追う立場にあり、敵矢印型はブルーバックと対面して突撃しようとしているから、味方蜻蛉型の追撃があったとしても、相対速度で先に接近を許してしまい、僅かに間に合わない。
そんな思考を巡らせていると、背中が座席押し込まれるような感覚と共に赤雷の速度が徐々に加速を始めた。
余計なことを考えていた所為か、加速に因って操作盤に添えていた手が離れそうになり、思わず身体強化の魔力を身体に通して腹筋に力を入れてしまった。
その瞬間、操作盤に添えた手からなにかが吸い取られる感覚が襲った。なにか、とは俺の魔力。幼少期、魔力鍛錬を始めた最初期の頃、加減が判らず枯渇するまで何度も訓練した時と同じ感覚が沸き起こる。そして、徐々に襲ってくる倦怠感。
……なんて大喰らいなんだ、魔力を持って行き過ぎだこのやろう。さっきの格納庫の模擬訓練でゼクスさんと交わした会話を思い出した。これは拙いと思ったが魔力の吸い取られる速度が早い所為か、既にどうにもならなかった。
「な、なんだこりゃ!?」
後部の主操縦席から聞こえたゼクスさんの焦った叫び声と、これまでに無い加速を始めた赤雷。
急激な速度変化で挙動がぶれるまくる魔導機に戸惑いながら、最小限の挙動で軌道修正を行うゼクスさんの腕は凄まじい技量なのだと尊敬の念を覚える。
と、思う一方で俺の視界は接近するブルーバックの側面を写しながら砂嵐のようなノイズをザリザリと撒き散らしながら徐々に薄暗くなっていく。
「赤雷の挙動がおかしくなった。計器類の数値も異常だ! アル、お前の方の数値はどうなってる!?」
ゼクスさんのその問いは、遙か遠くに聞こえて、俺は返事すらできずに呆気なく意識は途切れてすべてがブラックアウトした。
我が妄想でした。
読んで頂き有り難うございます。
今回はここまで。次の更新は未定です。




