アルフレイラ・二
トリスデン帝国がアムリタ王国とカシュー王国の三国が隣接する国境付近に位置するエスペランザ浮遊島空域へ侵攻した。
それまではそれぞれの国が領有を主張していて一歩も譲らない交渉を行いながら、エスペランザ浮遊島は緩衝地帯の空域として存在していたのだが、空域の実効支配を目論んだトリスデン帝国とカシュー王国が軍を派遣するに至り、ここにきて一触即発の状況が生まれたのだ。
しばらく緩衝地帯の外縁で三国の艦隊のにらみ合いが続いたのだけれど、やがて帝国の一部艦隊が突出してエスペランザ浮遊島空域に侵入。
これに対し、二つの王国が迎撃に出て三国が入り乱れて、戦いは一進一退を繰り返したのだが、この戦闘に呼応してなのか、カシュー王国で帝国派貴族たちによるクーデターが発生した。これによってトリスデン帝国とカシュー王国が連合を組むに至り、戦況は二国対一国となった。
アムリタ王国の軍は連合を組んだ両国に数で圧倒されて戦線の維持が厳しくなり、エスペランザ浮遊島空域から撤退することになる。
余談として、エスペランザ浮遊島は帝国領に編入された後、しばらくしてカシュー王国は帝国の傀儡政権が誕生して、やがて属国に成り果てた。
撤退戦の話に戻す。殿軍に父の部隊に白羽の矢が当たり、王国へ多くの味方を帰還させる活躍を見せたのだそうだ。
同じ部隊の同僚だったと名乗るゼクス・シグザウェルがやってきて、「最後まで味方機を守りながら戦う獅子奮迅の活躍だった、アムリタ王国の英雄だ」と、涙ながらに母に語っていた。
その話を聞いていた母の表情はいつもの様に冷めたモノで、その心情は如何なものだったのかは判らない。もしかしたら、父と結婚した時から覚悟をしていたのかもしれない。と、子供心に思っていた。
その後、国から僅かばかりの遺族年金が支払われた。かと言って、父の生前ほど生活は楽にならず、母は裁縫の技術を活かした仕事に就いて、自分も身体強化の訓練がてら家事手伝いをこなして、なんとか母子で慎ましやかに暮らしていた。
そんな状況でも、空を飛ぶことは諦められなかった。
暇がある毎にゼクス・シグザウェル、ゼクスさんが家を訪ねてくるようになった。その彼が、魔導機の知識を得るための情報源となった。
最終的な結論として、魔導機の操縦方法を教えているのは軍隊だけで、手っ取り早い話が兵学校に入学して飛行科を専行して卒業する事、らしい。
魔力が一定量を越えていて、成績がいい場合は優先で魔導機が扱える部隊へ所属出来るという事だった。……まぁ、それは建前だったのだけれど。
本当の条件は、魔力が一定量を越えていて「貴族階級に属している」或いは「貴族や軍上層部のお偉いさんにコネが在る者」に優先権があったのだ。
ウチの両親は、至って普通の平民出身で、その子供である自分も当然の如く普通の平民である。ついでに親戚一同を見回しても貴族はもちろん軍上層部にコネのある者は誰一人として居なかった。父が生きていたら話も変わっていたかもしれない。
そんなこととは露知らず、兵学校に入学出来る十二歳になった頃、母に無理を言って説得して、喜び勇んで兵学校に入学した。その際、知らなくていい事実も突き付けられたのだけれど。
それは、兵学校に入学願書の書類を提出する時に自分のフルネームが「アルフレイラ」って女性的な名前だったことだ。これ知った時、名前を付けた父親に初めて殺意を覚えたっけ。
母曰く、自分が生まれてくる前に父が産まれてくるのが女の子だと勝手に決め付けて、女性名しか考えていなかったと。更に母からリークされた話で、それが若い頃に遊んでいた娼館の娼婦達の源氏名のひとつなんだとさ。
「な、なんだってーーー!!!!」だよ、まったく。
まぁ、流石にこれには母もキレたそうで、父をボコボコにしたんだと。俺もその場に居たら小一時間正座させて問い詰めたかった所存。
今以て書類上の自分の名前がアルフレイラだってことは、それでも父は押し通したのだろう。娼館の推しの名前を息子に押し付けるとか、どんだけその娼婦に妄執を持ってたんだって話だ。
結局、自分が男として生まれてから、名付けられた名前を変更されることも無く家族間でアルと愛称呼びのまま育てられた。なので兵学校でもアルフレイラではなく「アル」で通した。
ちなみに入学当初「アルフレイラか、女みたいな名前だな」って真名を言ったヤツは学年関係なく身体強化を使ってボコボコにした。……まるで最後に精神疾患した某アニメの主人公みたいだな!
中には、お貴族様の子弟もいたけれど、学校では身分平等を謳っているので、建前上ではそれ程問題にされなかった。……そう、建前上では。
入学した兵学校は軍隊の兵員を育成する機関である。
体育会系なのはもちろん先輩後輩の上下関係やら身分制度やら派閥やらのドロドロとした素敵な環境下において、一連の騒動を経て自分は腫れ物扱い、または狂犬扱いを受けて、在学中の六年間は孤立で勉学に励むことになった。
当然、飛行科である。相方になるヤツはババ抜きをする感じで入れ代わり立ち代わりで嫌々ながら相手をしていたのだと思う。
無理を聞いてくれ兵学校に入れてくれた母に気取られないようにして、そんな苦境を表に出さず必死に勉学も励んださ。
前世記憶が殆ど役に立たない今世魔導文明の知識を必死に学びながら、鍛えても鍛えても全然筋肉が付かない身体に嘆きながら。原因は小さい頃から嗜んでいた身体強化の魔法の所為だったのだけれど。使うと成長が阻害されるので身体が出来上がってから覚えるのが正解だって知らなかったししょうがないじゃん。
兵学校飛行科を卒業する頃には、華やかな出会いも無く気の合う友人が数人出来たぐらいで、それまでに鍛え上げた魔力量……この時点で人外レベルだったのだけれど、結局、これを以てしても身分の壁は越えられなかった。
軍に入隊したはいいけれど、希望していた魔導機を扱える兵科に配属されるまで中々に厳しい就職活動を強いられた。やはりお偉いさんや貴族様とのコネがモノを言う世界らしい。
我が妄想……続きでした。
読んで頂き有り難うございます。
20231022
改稿。最後の部分を300文字ぐらいカットしました。
そこに追記で1200文字ほど作文したので、字数が少なく半端ですが次話として投稿します。




