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わんこ少女キア

引退魔王と領主の息子

作者: リィズ・ブランディシュカ



 俺は魔王だ。


 元、だがな。


 数か月前はそうだった。


 効率化を優先して魔王の仕事を行っていたら、いきなり部下に反乱を起こされてしまった。


 あいつらめ、誰のおかげで赤字が黒字に変わったと思ってるんだ。


 それで、分からず屋たちの所で仕事する気になれなくなった俺は、魔王の座にしがみつく事なくあっさり降りて、各地を放浪。

 自由気ままな一人旅を行っていた。





 だが、ある日。


 ひょんなことから人間の男と知り合った。


 それはなんでもない街道を歩いていた時の事だった。


 道端で休憩していた男が話しかけてきた。


「なんだ。坊主。腹でも減ってんのか、目つきわるいぞ」

「生まれつきだ」


 そいつは道端でいきなり話しかけてきた、というか悪口を言って来た馴れ馴れしい男だった。


 それで、「ははっ、そうか悪い悪い」謝ったそいつは、なぜか当然の顔をして俺の旅についてくる事になった。


 なぜだと問いかけると、「一人で旅するガキを放っておけるか」とのことだ


 俺は魔王だったが、見た目はただの子供に見えるらしい。

 身体的な年齢は、十歳前後だったので、そのせいだろう。


 強大な魔力を持った魔族は老化が遅いので、そのためだ。


 だからそのせいで、心配されているのだろう。


 余計なお世話だと思った。


 うっとおしかったので、そこらへんをうろついていた魔物を適当に焼き殺して、実力をみせてやったのだが。


「まだまだケツの青いガキじゃねーか」と笑われるだけだった。


 無理をして強がっていると思われたらしい。


 それでそれからは、無理やりついてくるその男テッドと共に二人で旅する事になった。


 最初はうっとおしかった男だが、慣れるとその男の有用性はありがたかった。


 食用の食べ物を見分ける目を持っていたし、魔物についての知識も詳しかった。


 それらは、長いこと魔王の座で仕事をしていた俺には無いスキルだった。


 だから、俺は次第に、やつと行動する事を自然な事だと思う様になっていった。






 しかし、とある領地アーデルト領に行った時に、その旅は終わった。


 その領地は荒れ果てていて、民達は飢えを乗り越えるのに必死だった。


「ひでーありさまだな。親父の奴め」


 テッドはその現状を嘆いて、どうにかしたいと思ったらしい。


 しばらくその場所に滞在する事になった。


 放っておいても良かったのに、俺もテッドの事が気になってその場所に留まる事になった。


 魔王だった頃には考えられない事だ。


 他人のいざこざに巻き込まれても構わないと思うなどと。


 そんな中、テッドはその領地の住民達を集めて、反乱を起こした。


 領主バズール・アーデルトに歯向かったのだ。


「俺についてこい、一緒に悪徳領主を打ち倒そう!」


 しかし、飢えて力のない者達は、数はそこそこいたが致命的に力が足りなかった。


 領主の兵士に倒されて、全滅するように思えた。


 見ていられなくなった俺は、こっそり魔王の力をふるって奴等を手助けする事にした。


 魔王とただの人間。


 力の差は歴然だ。


 ほどなくして悪徳領主バズール・アーデルトは討伐された。


 その代わりは誰が付くんだと言う話になったが、まとめ役として悪徳領主を討伐した、テッドに白羽の矢が立つのは不自然な事ではなかった。


 しかもテッドは、バズール・アーデルトに勘当された一人息子。


 テドール・アーデルトだった。


 だから、他の人間よりは領主と言う者に詳しかったから、そのせいもあるだろう。






「悪いな坊主、俺達の旅はここで終わりだ。俺は俺を頼ってくれた連中を見捨てる事はできない」


 だから自然にそうなるのは当然の流れだったのだろう。


 俺は一人で旅を再開する事になった。


 テッドは、その土地に残って領主としての仕事をこなす事になった。


 これっきりになると、その時は思っていた。


 しかしなぜか、各地を放浪した俺は、たまに奴の事を思い出していた。


 一人で行動するたびに、奴のお節介の事を。


 静かにしていれば話しかけてくる。


 飯を食べていれば、もっと食えと分けてくる。


 戦いをすれば、ガキは引っ込んでろと背中に隠したがる。


 うっとおしいばかりだと思っていた一面を、なぜだかよく思い出すようになっていた。


 奴は、俺にとっていったいなんなんだろうか。






 どうにも気になった俺は、アーデルト領へ久々に足を延ばす事にした。


 以前テッドが好きだといっていた、酒を土産にたずさえて。


 しかし、アーデルト領で出迎えたのは、病でやせほそった奴の姿だった。


 ろくに食べ物も口にする事ができないから、酒も飲む事ができない。


 テッドは、「せっかく持ってきてくれたのに悪いな」と笑った。


 なぜ、そんな風に笑っていられるのか分からなかった。


 テッドは隠していたが、余命はもう長くはなさそうだった。


 俺はそんな奴の姿を見ていられなくて、顔を出さなくなった。


 しかし、その領地を離れる事も出来ない。


 言い表しようのない感情に襲われた。


 俺は一体どうしてしまったというのか。






 そんな中、拠点としている宿屋にテッドから手紙が届いた。


 それは、自分の遺産を全部俺に譲るというものだった。


 俺と奴の仲は旅の中であった赤の他人に過ぎない。


 血の繋がりなどないし、長いつきあいだというわけでもない。


 それなのに一体なぜ。


 手紙の最後には、「領主の後を継ぐ気があるなら、任せる」とも書いてあった。


 見なかった事にできただろう。

 

 知らなかった事にもできた。


 面倒な事を任せられるくらいなら、気ままに一人旅をしていたほうがいいに決まっていたからだ。


 けれど、俺は手紙をにぎりしめて奴の元へと赴いた。


 そしたら、最後に会った時よりもさらにやせほそったあいつが、ベッドの上で笑っていた。


 直観的に今日が峠だと悟った。


 その夜は、他愛のない話をした。


 旅の間の事ばかりだ。


 そして、最後の時になってから「なぜこんな事をした」と訪ねた。


 魔王だっとというのに、おそらく俺はその時になるまで勇気が出なかったのだろう。


 そうしたら奴は、自分の身の上を話した。


 バズールとかいうアホ親に育てられて苦労した事。


 自分の人生クソだと思った事。


 けれど、そんな中でもいい嫁にめぐり合えた事。


 その嫁との間に子供ができた事。


 しかし、嫁が平民だったからバズールに引き離されて、その子供と嫁が行方不明になった事。


 それで、テッドは旅に出ていた事。


 奴は続ける。


「要するにお前さんの事、自分の子供のように思っていたのかもしれないな。俺が子供にしてやれなかった事をしてやりたかっただけなのかもな」


 俺は「感傷の道具にするな」と言った。


 他にこういう時いう言葉が分からなかったからだ。


 テッドはそれを笑って許した。


「後の事は頼んだ」


 そういって、息をひきとった。


 俺にまた人の上に立てというのか。


 そこまで思って、俺は自分の事をテッドに言っていなかった事に気が付いた。


 短い時間だったが、話をするのはいつも奴の事ばかりだった。


 俺ははじめて、後悔というものをした。


 もっと自分の話もしていればよかったと。







 それから一か月後、俺は領主の座を引きついていた。


 反発は少なかった。


 正式な遺言状が効力を発揮したおかげだ。


 それに加えて、経営手腕を評価された点もある。

 

 テッドが任せた人間なら、という人間がいたおかげもあるだろう。


 俺はまた人の上に立って仕事をしている。


 いつまでやるのか分からないが。


「領主様、この間の件ですが」

「ああ、その事なら……」


 仕事中にテッドの顔が浮かんでいる内は、とりあえずやり続けようと思った。




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