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欧州幻想神話譚  作者: 白いいぬ
第一章
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第0話

某TRPGで作成したシナリオを読み物風に起こし直しました。

実際のプレイが反映されたりされなかったり。

「ハァ、ハァ、ハァ…」

 暗い森の中を走る影があった。

 今夜は月が出ているとはいえ、生い茂った枝葉の下まではその月明かりも届かない。それでも影は、盛り上がる木の根、突き出た岩を、危なげなく飛び越えていく。まるで夜の暗さなど気にならぬかのように。

 影はわずかに脚を止めると同時に森の奥をちらりと振り返った。

「ここまで来れば…」

 鈴のような女性の声だった。目深にかぶったフードからのぞく耳先がわずかに尖る。エルフである。

 月明かりも届かぬ夜の森を走っていたのは、見た目だけならまだ少女ともいえる若いエルフであった。

「…っ」

 耳が動く。森の奥からのかすかな音を耳が拾った。

「ちっ…」

 舌打ちと同時にエルフは再び走り出した。

 しばらくして、十を超える影がエルフの後を追うようにその場を過ぎていった。先を行くエルフに比べて背丈は劣るものの、体重だけなら倍はあろうかという体躯、そして何より悪意と殺意がみなぎる醜い顔。オークの集団である。

 オークたちは、錆の浮いた手斧(ハンドアックス)曲刀(ファルシオン)を手にし、一様に薄汚れた革鎧を身に着けていた。

 わずかに残る足跡を見つけた一匹のオークが、手にしたファルシオンをエルフが逃げ去ったほうへと向けた。

「イグゾ」

 周囲を圧するほどの殺意を放つオークの集団が、下生えを踏みにじりながら動き始めた。


 ガスッ!

 投げつけられたハンドアックスが、すぐそばの幹に刃を食い込ませる。エルフは思わず足を止めた。が、即座に背負った短弓(ショート・ボウ)を構えて矢を放つ。

 カツッ!

 矢は過たず先頭を行くオークに突き刺さる。しかし、革とはいえ鎧を着ているオークには大した傷は与えられず、むしろ自身に向けられる殺意を増しただけだった。

「ウガァァァァァッ!」

 雄たけびを上げて別の一匹が突進してくる。反射的に放ったエルフの矢がオークの胸をとらえるが、相手は気にした風でもなく、ファルシオンを振り下ろした。

 キン!

 硬い音を立てて曲刀が弾かれる。エルフは左手の弓をそのままに、右手で細剣(レイピア)を抜き放ち、襲い来る刃を受け流した。しかし、相手は目の前のオークだけではない。弓を手にした左側から、別のオークがハンドアックスを叩きつける。

 ガッ!

 運が良いのかオークの腕が悪いのか、肉厚の刃はエルフの体をかすめて大地にめり込んだ。

 エルフに肉薄していた二匹のオークの攻撃に間隙が生まれる。エルフはその隙を逃さず再び駆け出した。

「マデェッ!」

 受け流されて体勢を崩したままのオークがファルシオンを投げつける。

 シュッ!

 その刃はエルフの体をかすめて森の中へと消えた。続くエルフも森の中へと姿を消す。

「サガセェッ!」

 それを合図に、オークたちは一斉に森の中へと散っていった。


 オークたちが散っていったのを見計らうかのように、闇に包まれた森の中でも一際色濃い巨木の影が動いた。

 森の中へと消えたはずのエルフの姿が現れる。ただ逃げただけではいずれ追いつめられると考えた彼女は、魔法によって巨木の影に潜み、オークたちを欺いたのだ。

「これで少しは時間が稼げる…か」

 オークたちが散っていった先とは別の方角に向けて彼女は走り出した。

 彼女の向かう先は人間たちの住む場所だ。本来であれば人間に助けを求めることなど、彼女の自尊心からすれば許されないことだった。しかし、今の彼女には使命があった。命がけで彼女を送り出してくれた仲間たちに報いなければならない。

「くっ…」

 腕から一筋の血が流れ落ちる。オークの放ったファルシオンは、彼女の左腕をわずかにかすめていた。命にかかわる傷ではないが、弓が使えないというのは致命的だった。

 あの時、追いついたオークの相手などしなければ、少しでも先に進めたはずだ。

 彼女は自身の判断の甘さと過信を悔いた。が、まずは己の使命を果たさねばならない。

 ひたすらに森の中を走る。どれだけ走り続けていたのか、もう時間の感覚がなかった。しかし、まだ辺りが闇に包まれていることを考えればそれほど時間が経っていないのかもしれない。すなわち、大して距離をかせげていないのかもしれない。

 彼女は焦った。放っていた腕の傷からは血が滴り続け、じわじわと体力を奪っていく。森を抜けるより前に倒れてしまうかもしれない。オークたちも、いつ追いついてくるかもしれない。

 と、突然森が開け、明らかに人の手による道に突き当たった。ようやく森を抜けたのだ。思わずそのまま倒れそうになる自分を、彼女は意志の力で踏みとどまらせた。森を抜けることが目的ではない。人間に助けを求め、仲間を救い出さねばならない。

 彼女は、気力を振しぼり、人里目指して再び踏み出した。

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