破天荒な面接
久々に書いてみました。
数分で読み終わるのでよろしければぜひ。
「受験番号31番、高瀬徹です。よろしくお願いいたします」
新宿のとあるビルの一室、リクルートスーツに身を包んだ青年、高瀬徹は元気よく、かつ丁寧に挨拶をした。
「人事部の松本です。こちらこそよろしくお願いします。どうぞおかけください」
失礼します、と高瀬は椅子に腰かけた。椅子の横にはカバンが置いてある。
面接官である松本は『そのカバンが少し動いた気』がして不思議そうにカバンを見つめたが、高瀬へと視線を戻し、面接を淡々と進めた。
「では、ご自身の長所と短所をお話しいただけますか」
「はい。私の長所は破天荒なところです」
またか。と松本は表情に出さないようにため息をついた。
この会社の代表はかなり破天荒なタイプで、一般的な常識を無視したグレーに近いやり方で業績を伸ばしてきた。そのおかげで短期間で上場企業に匹敵するような大きな売り上げを出すことができているのだが、それをメディアや求人広告でも大々的に語ってしまっているのだ。そのため同タイプがうけると思うのかこの類の自己PRが非常に多く、松本はうんざりしていた。
ところが。
「それを証明いたします」
高瀬がカバンの中身を手に取った直後から、松本の高瀬に対する印象は変わった。
「これは僕が今朝釣ってきたマグロです」
高瀬はカバンからマグロを取り出し、尾ひれ側を持って堂々と見せつけた。
今朝!? 釣ってきた!? マグロをビジネスバッグに入れてたの!?
松本の脳内はここ最近で最大のパニックに陥っていた。これまでの面接では武勇伝のごとく迷惑行為寸前の破天荒なエピソードを聞かされてきたが、実物を持って現れたのは彼が初めてだったのだ。
「仕事のある日でも趣味を楽しみ、楽しんだうえで遅刻をしない、破天荒かつ常識のあるところが、私の長所です」
自信満々の表情に、松本は「確かに…」と思わずつぶやいた。
いや面接に生もの、というかマグロを持ち込むのが常識的かは甚だ疑わしいが、他者に迷惑をかけていない破天荒さではこれまでの就活生とは一線を画していた。
だが、呆気にとられてマグロをまじまじと見つめていた松本はあるものを見つけてしまった。
「ん…? 値札…?」
マグロの尾ひれの部分に値札が巻き付けてあり、某有名スーパーの名前が書かれ、さらには割引のシールが貼ってあった。
両名の間に沈黙が走る。
とてつもなく長く感じた数秒が過ぎたのち、高瀬が口を開いた。
「短所は詰めが甘いところです」
「そのようですね。では面接を終了します」
高瀬は悲しげな表情で会釈をし、右手にマグロ、左手にカバンを持って部屋を後にした。カバンからはモーター音がかすかに漏れていた。新鮮に見せかけるためのギミックだったようだ。
残された松本は手元の履歴書を見つめしばらく考えたのち、ノートPCに面接結果を入力した。
「まさか、俺と同じことをやるやつがいたとはな…」
ノートPCには『合格』の文字が表示されていた。
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