2 synapse
凜は、マスコミへの緊急発表会へ向かう。
ここは、石田研究所。都内にあって、国の期待も高く、急成長を遂げている。
フラッシュと共に、壇上に現れる者たち。美しくも不安げな、冴木凛 と、所長の石田一成と、助手。
会場には大勢の関係者、観客と、マスコミ。
「本日は、石田研究所 から緊急発表があるとの事です」
(一体なんなの?事前に相談もなく)
凜は驚いていた。一切の連絡はなく、所長である石田教授に、ゲリラ的にされた。
緊急発表をするという事は、相当大事な内容のはず。
石田教授が口を開く。
「私は、脳内シナプスのコントロールに成功した」
ざわめくマスコミ。同時に
「え?」
最も驚愕したのは凛。
「は・・博士?何を言うの?」
慌てて駆け寄るも、マスコミの波が押し寄せて、はじき出される。
脳内シナプス、元は、凛の父、総一朗の研究。亡くなってから。研究は公にしない。と石田と約束していた。最高機密。知ってるのは石田と凛だけ。
助手がモニターを準備する。凜は青天の霹靂。言葉も出ない。
「こちらが実験映像です」
2つのかごの中には、それぞれ1匹づつラット。A、Bと書いてある。Bはピクリとも動かない。
「Bラットは、植物状態にあります」
液体を注射する。
(ダメ・・!)
凜は止めようと動こうとするが、腰が抜けている。
やがて、ラットが動き始めた。
そして、かごを駆け巡る。歓声が起こる。
「すごい!脳死が治ったって事ですか!?」
マスコミが騒ぐ。
「そうです。私が開発した、脳内シナプス活性化によって」
(嘘よ!父の研究だわ!)
「さっき、コントロールと、おっしゃいましたが?」
「ええ、それは後ほど説明する」
「もしかして、これを人間に使えるんですか?!」
(そんなことはさせないわ!)
凜は立ち上がろうとする。腰が抜けて、しゃがみこんでいる。
「もちろん。私はそれを目的としている。病に苦しむ人々を治せるのだから」
おおお!
(も・・もうだめ)
その後凜は、ショックのあまり呆然とし、石田博士と話す間もなく、ただ手をこまねいていた。
会見は終わった。
ーーー
「飲みすぎだよ」
「いいから注いで」
「はいはい」
凛と、さっき居た助手の男は、2人でBARに居る。
結構飲んでいる。
「飲みすぎだよ、いくらお酒好きでも」
「クロスも飲んで、早く」
「解ったよ」
「・・どうして黙ってたの?」
「またその話かい?僕も知らなかったんだよ」
堀クロス、30歳。石田研究所の元所長。脳科学者として、相当優秀で、27歳で所長に推薦された。しかし、2年前、石田博士と凜が、急遽入社。政治家の推薦によって。半ば強制的だった。その後、あっという間に、クロスは助手へと蹴落とされた。
そして、
クロスラボ→石田研究所
と名前も改められ、実権はすべて石田のものとなった。
「・・シナプスはパパの研究なのよ?どうして?」
「確かに、急だよね」
「何故だと思う?クロス、教えて?」
「僕が?解るわけないよ」
「お願い、アドバイスして」
「僕は助手なんだけど・・君に頼られると弱いな」
クロスは、石田と、凛に地位を落とされた。そして自分の身一つで、努力をして築き上げた研究が、すべて、盗まれた。それでも、凛には協力的だった。
「僕が石田博士を呼び寄せる。そこで聞きたいことを気のすむまで聞いてくれ」
「解った、今から行くわ」
「おっと、そんな酔っ払いじゃ、相手にしてもらえないよ?明日改めよう」
「そんなことない・・から・・」
言いながら、凜はクロスの前に眠った。
「・・やれやれ、美人に弱いのは僕の降格の原因かも」