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「ふぇっ……ひっく、いっ、痛い……! ううっ、せっ、聖様……!」
地面に倒れ込んだまま、今にも泣きそうな声をあげた。すると近くで彼の声が聞こえた。
「ナミヤちゃん、大丈夫かい――?」
「せっ、聖様……!?」
「あの時もこんな風だったね?」
聖矢はそう言って彼に向かって手を差しのべた。その大きな手を震える手で掴んだ。
「どっ、どうしてここに……?」
「ナミヤちゃんッ!!」
彼は奈美夜を自分の胸の中に閉じこめると、両腕でぎゅっと抱き締めた。
「せっ、聖様…――!」
「どうか愚かな俺を許して欲しい。俺はキミの事を知らなかった。でも、廿浦さんにキミの過去を聞かされて全てがわかったんだ。それにキミを突き離してたった1つ、自分の気持ちに解った事がある……! 俺はキミが女の子でも男の子でも心から愛してるってことが…――!」
「聖様っ……! わっ、わたし……! いいえ、僕は貴方に嘘をついた……! 本当は男の子なのに僕は……! 聖様に嫌われても当然なのにっ……つひっ……!」
「いい、もう何も言わなくていい! 全部、俺が受け止めるよ!」
彼はそう言うと優しく微笑んだ。その笑顔が眩しくて、胸の中で泣きじゃくった。聖矢はそんな彼の手を不意に取るとポケットに隠していた指輪を指に嵌めた。
「これが俺の気持ちだ。受け取ってくれるかい?」
「ッ……!?」
その薬指には銀の指輪が嵌められていた。その意味を知ると小さく頷いて抱きついた。
「ええ、もちろんよ……! 聖様、大好き…――!」
二人は抱き合うとキスをした。その光景に父親と母親はびっくりするとその場で固まった。廿浦はそんな二人に暖かい拍手を送ると近くにバイクを用意した。
「さあ、このまま奈美夜様を連れ去って下さい。二度と鳥籠に戻らないように」
「廿浦…――!」
「貴方はもう鳥籠のカナリヤではありません。さあ、今こそ自由になる時です。この廿浦、貴方様のお側にお仕えできて幸せでした。どうか末長くお二人でお幸せになって下さい」
「ありがとう…――!」
二人は最後に言葉を交わすと、聖矢はそのまま奈美夜を両親の元から連れ去った。そして、二人は遠くへと姿を消した。こうして二人の物語は幕を閉じた。バイクを走らせてる途中に彼は一言「髪切ったんだね」と呟くと、「変……?」と尋ねた。すると彼は「いや、可愛いよ」と言って、はにかんだ笑顔を見せた――。