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とある女子高生の日常

「ねえ、美咲、私……告白しようと思うの……」


「──は?」


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 8月、夏の暑さも本格的になってきた頃、某所にて、とある共学校に通う二人組が肩を並べて登校していた。


 一方は、黒髪ショートのいかにも運動大好き女子という感じの子。海東上高校二年、下島 美咲(しもじまみさき)。肌が少し焼けており、中身が空のスクールバックをリュックのように背中に背負っていた。


 もう一方は、打って変わって落ち着いた感じの子。同じく海東上高校二年、上篠 結(かみじょうゆい)。黒髪ロングで肌は雪のように白く、華奢な体つきをしていた。教科書が入っているのか、少し重たそうなスクールバックを右肩に掛けていた。


 太陽が見下ろす炎天下の中、片方の子が頬から汗を流しながら告白をしようとする旨を伝える。


「いやいやいや!え?嘘でしょ!?マジ!?急すぎんか!?」


 驚きを隠せない美咲は足を止め、結の方を向く。背負っていたスクールバックが肘までずり落ちる。


「ホントだよ……!私昨日寝る前にたくさん考えて決めたの!」


 結も足を止め、驚く美咲と向き合い、赤面しながら意思の硬さを伝える。


「誰だ?相手は誰だ!?」


 結の肩を両手で掴み、揺らす。


「おっ同じクラスの東海林くんだよ!」


 揺れていた結の身体が止まる。いや、身体が止まったのでは無く美咲が揺らすのを止め、呆然と立ち尽くしていた。


「東海林……?」


「うん……」


 二人の間に静寂が訪れる。さっきまで聞こえていたうるさい蝉の音も何故か聞こえなくなった。

 しばらくの沈黙の後、美咲が口を開いた。


「結……悪いことは言わない。やめておけ」


「なんでぇ!?」


 結は両手を振り下ろしながら言う。


「お前とあいつじゃ釣り合わない、うん、きっとそうだ。いや、絶対そうだ!やめよう!」


 手をあごに当てうんうん、と首を縦に振る美咲。


「酷いよぉ!そこは応援するところじゃないの!?もしかして美咲……私に彼氏が出来るの嫌なの??」


 図星を突かれたのか、美咲がうっと声を出す。


「うるさぁあい!リア充は全員爆発すべきだ!教室でイチャイチャしやがって!年齢=彼氏いない歴の私への暴力か!?もはや一種のいじめではないか!?教育委員会は今すぐ対応すべきだ!そうだろう日本!そうだろう!?非リア共ォ!」


 周囲に蝉の鳴き声が響く。


「何言ってんの美咲……ほら遅刻するよ行こ」


 そう、結は手を伸ばした。美咲はその手をとり、二人は止まっていた足を再び動かす。

 もう学校はすぐそこだ。


 ☆ ☆ ☆ ☆


 とある教室。蝉の声が絶妙なセッションをしており、夏を彷彿とさせる。


 教室では三限目の現代文の授業を行っていた。その蝉のセッションに鼻をかむ音が混じり、教室に響く。クラスメイトはその音がする方へ目を向けるが、すぐに黒板へと視線を戻す。


「ぶばー、鼻水やばぁ」


 窓側一番後ろの席で美咲はそう呟いた。かみおわったティッシュを丸めて、机の上に置く。

 ふぅと一息ついた後、美咲は右へ身体を向け隣の席にいる結の肩を叩いた。


「なぁ本当に、本当に告白するのか?いいのかファイナルアンサーか!?」


「もー何回も言ってるとおり、昨日決めたんだって」


 先生が板書した文字をノートに写していた手を止め、美咲の方へ首だけを向け、今日で何回目かわからない同じ質問に結は、嘆息を漏らしながら答える。


「なるほど。ファイナルアンサーと、そういうことですね」


「あーはいはいそうですよー」


 顔の向きを黒板に戻しながら結は答える。


「はいー!外れです!賞金獲得チャンスを逃しましたね!残念賞としてこの鼻紙ティッシュをあげましょう」


 美咲は机の上に置いていたティッシュを持ち、結の机の上に置いた。


「いらないよ!ゴミ捨てるのめんどくさいからって私に押しつけないで!!」


 結は丸まったティッシュの端をつまんで持ち、美咲の机に戻す。


「というかなんで急に告白なんてしようと思ったんだよ」


 美咲はティッシュを結の机へ返す。


「したいと思ったからするだけ」


 結は「次やったらわかるよね?」と言わんばかりの引きつった笑顔を見せながらティッシュを美咲に返す。

 美咲はあははーと目をそらしながら受け取る。


「はえーそんなもんかぁ……もし、告白が成功したとして、彼氏が出来たら結と遊べなくなるのかな……いつもみたいに一緒に登校できなくなるのかな……」


 美咲は悲しそうな顔をしながら手に持っている鼻紙ティッシュを握る。


「そっか美咲、私しか友達いないから一緒に登校する人いなくなったらぼっちになっちゃうもんね……」


 哀れみの眼で美咲を見つめる結。


「それもあるけど、そういうことじゃねぇ!」


 握っていたティッシュを結に投げる。投げたティッシュは結に当たらず、結の隣の席で突っ伏して寝ている金髪の男子の頭に直撃した。


 二人は一瞬目を合わせ、美咲は風の早さで机に突っ伏し寝るふりをし始め、結は止まっていた手を動かし、ノートに黒板の文字を書き写し始めた。


「なんだァ……コレ」


 その金髪の男子はむくりとゆっくり顔を上げ、おでこにしわを寄せながら低く、威圧感のある声でそういった。教室に静寂が訪れる。


 二人は焦っていた。それもそう。結の隣に座っていた金髪の男子は地元でも有名の超ヤンキー。名字は大熊。名前の通り、熊のように屈強な肉体で今にも制服がはち切れそうだ。いつもは学校に来ないのだが、今日だけは何故か学校に来ており、一限からずっと寝ていたのだ。

 その、熊を冬眠から目覚めさせてしまった罪は大きい。周りのクラスメイトの嫌味の視線が集まる。美咲はかなり焦っていた。関係人物の結も。


「オイ、コレお前のか?」


 結の方を見ながら、大熊は言った。


 美咲は腕の隙間から先生に助けを求めるように目線を送るが、「がんばれ」と言わんばかりに親指を立て、グッチョブのポーズを取った後、無言で黒板の方を向き板書し始めた。


(せ、先生ぇぇぇええええええ!!!!!!!!)


「い、いや、し、し、し、知らないですすぅねぇ……急に横から飛んできてわ、私もびっくりしたんですよ。ねぇ?美咲?」


 美咲の身体がびくっと動き、机が音を立て揺れる。美咲は腕の間から結の顔を見る。


(私を売りやがったなぁあ!!!!!結ィィィイ!!)


 力強い眼でアイコンタクトを送る。


(売るも何も、実際投げたのは美咲でしょ?)


 そう言わんばかりにあざ笑うような瞳で美咲を見る結。


 瞬間、大熊が椅子から立ち上がり、美咲の方へ歩き始めた。ゆっくり、ゆっくりと、おおきな足音を立てながら。


 熊に会った時は死んだふりをした方が良いという言葉が美咲の頭をよぎり、美咲は机に突っ伏し続け、寝たふりを突き通す。


(ワタシハシンデマスーオイシクナイデスヨー)


 次第に足音は大きくなって行き、美咲の机の近くまで来ると止まった。そして、美咲の肩を叩いた。


「なぁ、コレ。キミのか?」


 美咲はこれ以上寝たふりをするのは逆効果だと判断し、ゆっくり顔を上げ、嘘あくびをする。


「ふわぁー、ん?このティッシュですか?さ、さぁ……わかりませんねぇ……で、でも!もしかしたら、私のかもしれない!あやっぱ私のじゃないかもしれない!でも一応もらっときます!私こう見えてもゴミが好きなんですよぉ!はは……」


 と、苦笑いを見せる美咲にその大熊は真顔で美咲を見つめる。


「そうか……優しいんだな。やっぱり君は……」


 と言いながら大熊はそのティッシュを美咲の机に優しくおいた。そして、一枚の小さい紙を美咲に渡した。


「あ、あの、これは?」


「読めば分かる」


 と、そういい残し、大熊は自分の机に戻っていった。

 しばらくの静寂の後、先生の声を合図に教室にいる全員の緊張が解ける。


 しばらく唖然としていたが、その紙を開き中を読んだ美咲は思わず声を上げた。


「今日の放課後屋上に来て下さいぃぃ!?!?!?!?」


「大声で言うなアア!!」


 大熊が赤面しながら叫んだ。


 ──再び沈黙が訪れた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 全ての授業が終わり、放課後が訪れた。それぞれが好きなように時間を過ごす。家に帰ってゲームする者、買い物に行く者、様々だ。


 皆が教室から出て行った後、二人だけが残った。美咲と結だ。

 美咲はさっきの手紙をもう一度読み直し、顔を自分の手で叩き、夢じゃ無い事を確認する。

 結は、深呼吸をし、告白の言葉を何度も練習していた。


 そして、二人は目を合わせ、屋上へと足を進めた。どうやら結も屋上で約束をしているらしく、良いのか悪いのかわからないが告白の場所がかぶってしまったのだ。


 屋上へのドアの前で止まる。そして、結と美咲は手をつなぎ、ドアを開けた。生暖かい風が二人を襲う。蝉の音も小さくなり、カゲロウが鳴き始めていた。


 屋上には既に男子二人が並んでおり、片方は身体が大きい金髪の熊のような男子の大熊。で片方はすらりとしたまさにイケメンという顔立ちの男子の東海林。


 二人はその二人の男子に近づいて行き、美咲は大熊、結は東海林の前で止まる。

 そして、しばらくの静寂の後、大熊と結が同時にこう言った。


「「付き合って下さい!!」」


「ごめん、気持ちはうれしいけど付き合うことは出来ない。まだ、君のこと知らないし……(てか怖いし)」


 そう言ったのは美咲だった。正直、美咲は最初から断るつもりだったらしく、どっちかというと結の告白の様が気になっていたようだ。


 それを聞いた大熊はその場にしゃがみ込み、うなだれた。


 そして、それに続くように東海林は口を開いた。そして、真剣なまなざしで結の目を見た後、頭を下げた。


「ごめん!!好きな人がいるんだ……!!」


 沈黙が訪れる。カゲロウがあざ笑うように鳴く。


「そっか……ちなみにそのすきな人聞いても良い?」


 結はこぼれそうな涙をこらえ、かすれた声でそういった。


「実は……今、ここにいるんだ」


 下を向き、しばらく黙った後、東海林はそう言った。


「え?」


「美咲ならいいよ……付き合いなよ美咲」


 結は美咲を抱きしめ、泣き出した。美咲も瞳から涙がこぼれた。


「いや、違うよ。俺が好きなのは彼だ」


 ここで衝撃の発言をする東海林。二人は石のように固まり、東海林を見る。


「「はぁあああああああ!?!?!?!?!?!?!」」


 トンデモ展開に流石に二人も、そしてこの大熊ですらも、驚いていた。


「好きだ!君を一目見たときからその大きな身体に惹かれた。君がよければ付き合って欲しいっ!」


 そして、東海林は頭を下げながら手を伸ばした。だが、大熊は東海林の手を取ることは無かった。


「いや、すまん。俺男は恋愛対象じゃない」


 そう言い残して、大熊からその場から立ち去った。膝から崩れ落ちる東海林は、その場で泣き出した。


 美咲と結も東海林を残し、屋上を去った。瞳は砂漠化していた。さっきまでの涙はどこにいったんだっていうぐらいには枯れていた。


 ☆ ☆ ☆ ☆


 朝、登校してきた道を逆走しながら家に向かって歩く二人。

 一方は、黒髪ショートのいかにも運動大好き女子という感じの子。中身が空のスクールバックをリュックのように背中に背負っていた。

 もう一方は、打って変わって落ち着いた感じの子。黒髪ロングで肌は雪のように白く、華奢な体つきをしていた。教科書が入っているのか、少し重たそうなスクールバックを右肩に掛けていた。


「いやどんな展開だよ!!!!」


 美咲は頭を両手で掻きながら言った。


「もうめちゃくちゃだったね」


 笑いかける結。そして、美咲に手を伸ばした。美咲は一瞬頭に疑問符を浮かべたが、すぐにその手を握った。


 そして、二人で目を合わせこう呟いた。


「「やっぱり友達が一番だわぁ」」


 手をつなぎながら歩く二人を見下ろす太陽は二人をオレンジ色の光で包んだ。


 ──まだまだ二人の物語は続きそうだ。


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