第一章4 『トンネルを抜けたら』
説明回です。
飛ばしてもらっても構いません。
コツ、コツ、コツ。
どれくらい歩いただろう。自称神を名乗る少女ティアとの会話の後、気がついたらトンネルを歩いていた。トンネルの中は薄暗く、壁にある炎の松明だけが唯一の明かりだった。床は塗装されているようだが、長い間使われていなかったようで割れている箇所がいくつもあった。
ティアによる転送が終わり、ユウは転移先のものと思われるトンネルの中にいた。
「面倒なことになったな」
ユウは独り言をつぶやきながら、ティアとの会話を思い出していた。
『この星でボクを探して』
確かにそう言ったティアはユウの目を見つめた後、何かを呟いていた。ティアの転送によって、目も耳も消えていたユウに彼女がなんて言っていたかはわからないが、大事な事を話していたはずだ。何故かそんな気がする。
その後の記憶は無く、気がついたらユウはこのトンネルを歩いていた。
『ここで必要な情報は頭に転送しておくからね!』
ティアの言った通り、頭の中にはこの星の様々な情報が入ってきた。
ティアから送られてきた情報を整理しよう。
まずはじめに、異能力についてだ。異能力というのはエリシオンにある物理法則を無視した超常現象全般を指す言葉だ。
能力によっては触れなくても岩だって動かせるし、怪我を治すことだってできる。もしかしたら、死んだ人間だって生き返らせることができるかもしれない。簡単に言うとハ○ーポッターに出てくる魔法のようなものだ。異能力なんていきなり言われても信じられないが、実際にティアの力を見てしまったのだから信じなくてはしょうがない。
ただこの能力というものは一人一つだけしか使うことができず、同じ能力は同時に二つとして存在しない。ただ一人が持つ固有の能力だ。ちなみに自分の能力が何なのか、ユウはまだわかっていない。
異能力を持った者が死ぬと、その能力は別の人物に発現することもあるらしい。
エリシオンにはあらゆる異能力を集めた図鑑が存在しているようだが、どこにあるかまでの情報は、ティアからは貰えなかった。
能力は親からの遺伝によるところが大きいと言われているが、個人の深くにある特性、特質、感情によって遺伝した能力をベースに親とは違う力を得ることも多いようだ。
さらに、ここではどうやらRPGなどである「ステータス」という概念が存在するらしい。
ステータスには力、体力、早さ、魔力の四種類がある。
力は大きければ大きいほど色々なものを持てるし、その分攻撃力も連動して上がる。殴り合いの喧嘩になれば、当然力の強いものが勝つだろう。
体力はスタミナと言い換えた方が正しいかもしれない。体力が高ければ長い間眠らなくても活動が可能で、体にダメージを受けても、体力が多くあればある程度は耐えられるようだ。持久力とも言えるものだ。
早さのステータスは行動すべてに関係している。このステータスが高ければ移動の速度だってもちろん速くなるし、万が一戦闘になっても素早い行動が可能だ。反射神経もこの早さに含まれる。
最後に魔力は異能力を発動するために必要なステータスだ。マナとも言う。
魔力がなければどんなに強い能力でも発動ができない。この星では、能力がないものであっても魔力を持っている。
体力を身体的エネルギーとするなら、魔力は精神エネルギーと言ったところか。どちらかが無くなってしまうと、その人物は生きていくことはできない。
このステータスは通常ユウ以外には見えず、ユウの持つ”賢者の瞳”を通してしか見ることができないらしい。
エリシオンには”鑑定士”と呼ばれる能力を見抜く職業があったり、ステータスを測るアイテムがあるようだがどちらも貴重な存在なようだ。
ユウは試しに目に力を入れ、自分の手を凝視した。すると頭の中に、
『対象、成瀬・有。力D、体力D、早さC、魔力E、異能力、なし。エクストラスキル“賢者の瞳”を所有』
という機械的な声が響き、自分のステータスが確認できた。
ティアに貰った知識では全てのステータスにおいて、SからEの六段階さらに一般的な平均がCだとわかったので、ユウのステータスはかなり低いものだった。もっとも引きこもりであった彼には当然のステータスであるが。
また、エリシオンには人間である“ヒューマン”を含めて四つの種族がいる。亜人族、魔族、そして竜族だ。
亜人族とは、獣人、エルフ、ドワーフに巨人族といった比較的人間に近い種族をまとめた総称である。
彼らは人と同じくらいの知性を持ち、人間に友好的な種族のようだ。
それぞれの種族に得意なステータスが存在し、身体も特徴的らしい。
例えば獣人はその名の通り人と獣が融合したような姿をしている。大抵の獣人は二足歩行で体力、早さのステータスが高い。ゲームでよく見るネコミミ少女はこの獣人に分類される。
エルフの特徴はなんといってもその長い耳だ。尖った耳と強い魔力を持つエルフだがその数は少なく、他の種族との共生を好まない種族とされている。エリシオンには男のエルフはおらず、交配は他の種族と行われ生まれる子は必ずエルフとなるようだ。
ドワーフ、巨人族は共に力が強く豪快な生活である。巨人族は子どもであっても身長は二メートルを超える者もおり、建築や運搬の仕事で重宝されている。
次に魔族はゴブリンやリザードマンといったゲームでモンスターの役割を持つような生物が分類されている。人間と比べて知能は低いことが多く、ヒューマンや亜人族を襲う事例が多々報告されている。
魔族は同じ魔物同士では同じ異能力をもっているらしい。これは能力というよりも、その魔物の特技といった方が近いかもしれない。上位の魔族になると、人のように特異な能力を持つ種も現れるとか。
竜族は魔族に近い種であるが、その力は魔族の比ではなく一体一体が国を滅ぼすほどの力を持っている。ヒューマン、亜人族よりも高い知能を持ち、その体は大きいものでは五十メートルを超える。
ティアから貰った知識はこんなところか。日本のRPGに良く似た設定に親近感を覚え胸が踊る。しかし、そんな気持ちもティアの言葉を思い出し、胸の奥へと消えていった。
ーーボクのお婿さんになってよ!
ティアは確かにそう言った。平凡な高校生であるユウに何を頼んでいるのだろう。
全能の神様とやらが何を考えているかなんて、一般人のユウには理解できるはずもないが、自分では気づいていない魅力でもあるのだろうか。
全能であるということは何もない道をただ歩くことと同じだ、と何かで聞いたことがある。
どれほどの時を生きているかはわからないが、この世界に退屈しているようなことを言ってたっけ。
コインの表と裏のように、全能の神は何もないユウに惹かれたのかもしれない。
助けられた手前、断ることもできず強引に転送された世界。
ユウは歩きながらティアの意中を考え、トンネルの出口を目指した。
十分ほど歩いたあと、うっすらと明かりが見えてきた。そろそろ出口に到着しそうだ。
外からは活気のある声が聞こえてくる。出口から差し込む日差しは強く、外は快晴のようだ。ユウは考えてもわからない、と神様の意思の詮索をやめトンネルの外へと踏み出した。
次回から異世界の街に入ります。