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第一章3  『神様の意中』


(オムコさん? オムコさん?? なんだ人の名前か? 俺の名前はナルセ・ユウだぞ? おむこさん、オムコサン、……お婿さん?)


 ユウは聞こえてきた言葉の意味が理解できずにいた。目の前にいる自称神様の少女、ティアは火事で死にそうになった少年、ユウを不思議な力で助けた後、今いるこの何もない空間に少年を呼んだ。


 少女はこの空間を“チュートリアル”と言っていたか。これから行くエリシオンという星でユウに自分を探してもらい、お婿さんになって欲しいらしい。


(なるほど、意味がわからない)


 今まで女の子と縁のなかったユウはこの状況に混乱していた。いや、例えモテモテの少年であったとしても結果は同じであろう。

 ユウは自身の疑問を晴らすべく、嬉しそうな笑顔を見せているティアに問いかける。


「とりあえず、理由が聞きたいんだけど?」


「それを聞いてどうするの? さっきも言ったけど、キミに選択肢はないんだよ」


 妙に威圧感のある彼女の言葉にたじろぐと、もうそれ以上は何も言えなかった。


「そうだ、こうしよう! いつまでもキミを待つ、なんて退屈なことボクにはできない。だから向こうでボクを見つけたら、ボクを指差して『カミサマ見〜つけた!」ってそう言って欲しいな! 正解したら向こうのボクは、ボクの正体をキミに見せることにするよ。ただし、チャンスは三回。嘘はなしだ」


 可愛く指を指すような動作をして、ティアがそう提案した。ユウはまだ次々と流れてくる内容を理解しきれていないが、ティアは続ける。


「三回のチャンスで失敗するようならそれでゲームオーバー。キミは元の場所に返すよ。火事で焼け死ぬその一瞬前まで時間を戻してね。ボクが欲望むのは、向こうでボクにたどり着く聡明さと、それまで生き抜く強さを持った人間だ。凡庸な人間は必要ない」


「は? なら、なんで俺を選んだんだよ! 俺には他人に自慢するような頭も、誰かと張り合う強さもないぞ!」


 急に投げかけられたティアの冷たい言葉に、ユウは体を前のめりにして疑問を問いかける。しかしティアは返事をする気がないようで何も答えず、作ったような笑顔で微笑んでいるままだ。


 ふと周囲に目を向けると、何もなかった空間に光の粒が漂っている事に気がついた。発生箇所は自分の周り、おそらく足元から光の粒が舞い上がってくる。ユウはそれを疑問に思い下を見ると、自分の足が段々と消えているのが目に入った。痛みはまったく感じないが、消えていった足の感触は何故か残っている。


「な……なんだよ、これ?」


「ボクからの“お願い”は伝えたからね、ここでのチュートリアルはもう、終わり。転送を始めさせてもらったよ」


 ティアは自分の話は済んだからか、満足したように白い髪の生えた頭の裏で両手を組み、微笑みながらそう言った。

 ユウは慌てたように声を張り上げ、


「待ってくれ、まだ聞きたいことが山ほどあるんだ!」


 と、彼女に向かって手を伸ばす。前に出ようと足を踏み出すが、ユウの足は既に膝の辺りまで消え、動くことはできなかった。


「大丈夫、向こうで必要な知識はキミの頭に送っておくから。ボクの全能の力でね」


「そうじゃない! なんで俺なんだよ、初めて会っていきなりプロポーズとか、自分を探せとか意味わかんねえよ!」


「神はいつだって、きまぐれさ」


 伸ばしたユウの手を愛しそうに見るティアの瞳に思わず目を奪われる。自分より見た目は年下の、整った顔の中にある大きな優しい瞳は、不思議とユウの心を落ち着かせた。


 ドクン、ドクン、と張り裂けそうだった心臓が、次第に落ち着いていくのを気持ちよく感じる。


 ティアはゆっくりと手を突き出すと、ユウの手が届かないギリギリのところでそれを止めた。


 あと紙一枚分の距離を詰めれば触れそうな、白く綺麗な彼女の手に暖かさを感じると共に、そこに触れられないもどかしさを感じる。


 そんなユウの様子を見てティアは小さな口を開け、


「本当に人間らしいな、キミは。そんなキミに一つだけヒントをあげる」


 慈愛に満ちた笑みを見せて、


「このボクの体は仮の姿。向こうのボクはこの顔かもしれないし、別の顔かもしれない。でも、向こうのボクはキミと同じ人間だ。嬉しければ笑うし、嫌なことがあれば泣く。体から血がたくさん出ちゃったら、当然死んでしまうだろう。向こうのボクは、他の人間となんら変わらない」


 どこか寂しそうにティアは答えた。ユウの体が消える速度が速くなる。もう胸から下は残っていない。


 ティアの姿を見て話を聞いていると、自然と心が安らぐ。体はどう見ても少女にしか見えないが、彼女が放つその雰囲気は偉大な聖母を思わせた。


 ティアは遂には口のなくなったユウに近づくと、ユウの目を覗き込む。


 見惚れるほど綺麗な長い睫毛の下には大きな紅い瞳。その瞳の奥にある光は、小さな事で砕けて無くなってしまいそうな、悲しい気配を感じた。


 ユウはそれを黒色の自身の目へと焼き付ける。

 とうとうユウの目が光の粒に変わり、最後には少年の存在は何もなくなった。


 ティアは一人になった何もない空間で、何もない空を見上げ呟いた。


「ボクの姿は贋物(ニセモノ)だけど、この気持ちは本物だ。ユウくん……キミならボクを見つけてくれるって。そう信じているよ」


 少年のいなくなった空間で、神は一人呟いた。その言葉はいなくなった少年には聞こえず、世界の誰にも聞こえなかった。


「その目がキミを導いてくれる。がんばってね、ユウくん」




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