第一章19 『威力』
「答え合わせだあ? ここからどうやって俺達を倒すのか、是非とも教えて欲しいなあ。ブフフ」
「アニキィ、そろそろ獲物を振り回すのも疲れてきたぜぇ」
「うるせえ! お前は黙って続けてろ!」
そう言って太った男はモーニングスターを振り回す男の頭を叩く。
このまま待っていても良さそうな状況ではあった。
しかし、ユウは自分の考えを試さずにはいられない。
ユウは自分の足元に目を向ける。今いる森の畦道には草木の他に、大小様々な石が落ちている。
足を屈めて膝をつき、手のひらほどの大きさの石を二つ拾う。
そして、ユウは拾った石の“質量”をゼロにした。
「検証二つ目……成功だな」
ユウは誰に言うでもなく呟くと、一つの石を真上に軽い力で投げた。
すると、打ち上げられた石は物理法則を無視したかのような勢いで、空へと吸い込まれていった。
「え? えええええ!?」
間近でそれを見ていたステアは信じられない物をみたようなオーバーなリアクションで声を出す。
投げられた石はいつまで立っても落ちてこない。
ユウは満足そうな顔をした後に、手に持ったもう一つの石も同じように質量をゼロにした。
今度は二人の男がいる方向に向き、石を構え、子どもに向かってボールを投げるような優しい動作で石を投げた。
ーー瞬間、石は音を置き去りにした。
ユウによって真っ直ぐに投げられた石。石の軌跡上にある空間の大気が歪み、石は大気圏の隕石のように赤く燃える。
そして、石は瞬きをする間もなく、二人の男の足元へ直撃した。
衝撃で男達の体は浮き上がり、地面には大きなクレーターが一つ。
さらにそれだけでは留まらず、石は地を跳ねて直線上の何十、何百もの木々をバギバギとなぎ倒した。
余波で風が巻き起こり、ユウ達の体に向かって暴風が牙を剥く。
気を抜くと吹き飛ばされそうな風を受けて、ユウは目を閉じてステアの体が飛ばされないように必死で彼女の体を抱きとめた。
再びユウが目を開いた時、辺りの地形が変わっていることに気がついた。
石を投げた直線上は黒く焦げ、それが直径二メートルの幅で地平線まで伸びていた。
「流石に少しやりすぎたか?」
予想以上の威力に、思わずユウの額から汗が流れ出る。
ステアは目の前で起こった事が信じられないかのように目を丸くした後、口を開いた。
「ユ、ユウさん、一体何をしたんですか?」
「俺の能力で石の重さをゼロにして、それをただ投げただけだ。俺の左手は能力であらゆるモノの数値をゼロにできる。ただしこの力は触れたモノにしか使えないし、ゼロにしたモノが俺から離れた瞬間に能力の効果は切れる」
石を投げた際のエネルギーは、石の質量と速度の積で求められる。仮に石の重さが限りなくゼロに近くなった場合、その速度は光速を超えるだろう。
この星で地球にあった物理法則が通じるかはわからなかったが、概ね問題は無さそうだ。
「光の速さで動くモノは想像を絶するエネルギーを纏っている。それが地面にぶつかればあんな風にもなるさ」
音速の弾丸と化した石の破壊力は凄まじく、木々をなぎ倒すだけでなく前方に大きなクレーターを作り出していた。
「もしかして、ユウさんって実はすっごく強いんですか?」
ステアが尊敬の眼差しでユウを見て手を握る。ユウはそれに答えて自慢気にフフン、と鼻を鳴らすと森の奥から一本の矢が飛んできた。矢は二人には当たらず、ユウの足元につき刺さった。
意識の外からの攻撃にたらりと、ユウの全身から冷や汗が流れると森の奥から、
「テメー覚えてろよ!! いつか絶対コロシにいくからな!」
と空気を震わせるような怒声が聞こえてきた。
ユウは男が生きていたことに安堵すると、未だ笑顔を見せるステアを見て微笑み返した。
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二人が元の道に戻ると、ユウは草陰に落ちていた少女の首飾りを見つけた。ユウはそれを拾い上げてじっと中を覗き込む。首飾りには丸い懐中時計がついている。
懐中時計を開くと中には目印も数字もない真っ白な面に、時計の針があるだけのシンプルな作りだった。
外側は凝った模様に合わせて凸凹としている。
「あーっ! それ、私の懐中時計です。さっきの騒動で鎖が切れたんですね。どこにいったか心配してたんですが、ユウさんが見つけてくれたんですね。ありがとうございます!」
「ほい。そんなに大事なものなのか?」
「はい! 道端に捨てられていた私の横に、置いてあったそうなんです。孤児院の神父さんがいってました。中に私の名前が掘ってあるんですよ」
「名前なんて掘ってあったっけ?」
「えーっ! ユウさん、ちゃんと見てくださいよ! 開くとほら、真ん中のここにちゃんと書いてあるじゃないですか!」
「えっ?」
少女が笑顔で懐中時計を開く様子を見て、ユウの背筋に寒気が走る。
ステアが指差すその場所を覗き込むと、そこには数秒前に見た通り、針のほかに綺麗な白い面があるだけ。その他には何一つ書かれていなかった。




