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靄の庵

  ―家に到着すると、平生通り迎える母親が居る。梅雨は明けた筈なのにこうも降り(しき)るものか、などと彼女は言うが、その様な事は問題外である。

  母親に二つ返事をしてから室に籠る事にした。未だ夕日も見えぬ刻では在るが、夕飯の心配は要らぬと付け加え、少し物思いに耽る事にしたのだ。

  母親から見れば不審極まりないだろう。誕生日とも忘れ浮かない顔で室に帰依する息子を見て心配しない親など居ない。

  只、私と同じく母親も根っからの変わり者であり、平生より教育と云う物などに興味も無かった様子であった。良く言えば子の自由にさせて置く親だった。今日の私の所業も度外視して居たと迄は言わないが、差程気にしては居なかったのだろう。親が思考の邪魔に成らないだけでも救われる。

  室内は、其処が自分の室だと思えぬ様に思えた。嘗てこんなにもこの室を見た事が有っただろうか。引越しをしてから間もないだとか、前の家は自分の室など無かっただとか、そんな事は関係ない。

  湿度の高い室の中は、色彩を覆うような靄に包まれて居た。空間は歪曲し、夏の雨のむさ苦しさに()く針の如き風は、一瞬で下着に張り付いた汗を乾かす。

  気付くと(なみだ)を流している私が突っ立っていた。所狭しと空間は圧迫してくる。再び、自分の室が自分の室で無い様に思えた。今度は所有物的な意味合いで、だ。

  (からだ)が潰れそうだ...。憔悴(しょうすい)し切った心と体を思い、その場で突っ伏して瞳を閉じた。眠ろう、しばし、と。

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