第7話 大掃除の後
現在の時間、夜8時20分。
やっと、女性陣の陣頭指揮により、春陽の部屋の掃除、片付け、整理整頓が終わった。
信二、優紀、和尚、春陽の4人はカッターで段ボール箱を開け、荷物を出したり、新品の家具をドライバーで作ったりと力仕事が続いた。
ベランダには1カ月以上溜まったゴミ袋の袋がたくさん放置されていた。
すべてのゴミを外のゴミ捨て場に置きにいく作業も男性陣の仕事だ。
何度も部屋とゴミ捨て場を往復する。
綾香先生の部屋で、着替えを行った京香先生は、ジャージ姿で掃除をする。
綾香先生から借りた黒のジャージなので、胸とお尻の細部はぴったりだが、借りた中の白いシャツが短い。
そのためジャージ中のシャツは短く、きれいなおへそが見え、きれいな脚が見えている。
その艶めかしい姿を仕事の合間に男性陣は無言でチラチラと覗いていた。
男性陣のチラ見のおかげで、段ボールの開封作業が遅れ、女性陣に呆れられることになる。
信二、優紀、和尚、春陽の4人は女性陣に聞こえないようにコソコソ話をする。
「春陽の家の掃除なんて嫌だったけど、京香先生のおへそが見れて俺は満足だ」
「あの脚の曲線を見たか。まさに神秘。俺は満足だ」
「菩薩もかくや。まさに眼福。これに勝る者はなし」
「綾香先生のジャージ姿も可愛いな! 絵理沙先輩のジャージ姿もお洒落だし。皆に手伝いにきてもらって良かったよ」
4人は体を寄せて、ヒソヒソと女性陣の印象を語る。
綾香先生は真っ赤なジャージ、絵理沙先輩はピンクのジャージを着ている。
2人のジャージ姿も私服のジャージで可愛いかった。
「やっと家の片付けは終わったわ。これだけ放置してるなんて、春陽君が今まで生活していたことが不思議だわ」
京香先生が思わず漏らす。
「へぇ~、もう疲れちゃった! 家で夕飯を作ろうと思ってたのに、もう体力ないよ~!」
「そうですね。私も疲れました。家で料理をする体力ないです」
綾香先生と絵理沙先輩も疲れたとテーブルの椅子に座って、だらりとヘバッている。
居間に座っていた山が動いた。
「皆も疲れたご様子。ここが私が夕飯を馳走しよう」
和尚の言葉に疲れきってた女性陣は目を輝かせる。
「浩平君って料理ができるの?」
「私も僧侶の身、精進料理くらいは作れますぞ」
京香先生の美しい微笑みが若干引きつる。
「あれれ? そんな精進料理の材料なんて冷蔵庫の中に入ってなかったよ?」
「拙僧の一番に上手い料理は真心こめた塩にぎり」
その言葉を聞いて、全員が無言で絶句する。
「今日は出前にしない? 私が奢ってあげるから!」
京香先生が和尚の言葉を聞かなかったことにして、出前の提案をする。
「待ってくだされ! 塩おにぎりには自信があります。おしんこと食べれば絶妙ですぞ」
「男の子の手で握られたおにぎりなんて食べたくないわ」
「見てくだされ、拙僧の手を。指の爪もきっちりと切っております。坊主は清潔感が必要」
京香先生の前に和尚が自分の手を伸ばして見せる。
確かに和尚の手は女性のようにスラっとしていて、指が長く、全体的に柔らかい。とても清潔そうに見える。
「京香、なんでもいいわよ! 私、もうお腹空き過ぎて我慢できない」
「そうですね。私も外で買ってきてゴミが増えるのは反対です。今、掃除したばかりですし」
綾香先生と絵理沙先輩の2人は既に心が投げやりになっているようだ。
「それで浩平君の気持ちが収まるなら、塩おにぎりでも作りなさい。私もどうでもよくなってきちゃった」
「ありがたき幸せ。この大義を拙僧、真心こめて務めさせていただきます」
台所で石鹸を使って、入念に手を洗い、和尚は新品の炊飯器で米を炊き始める。
確かに慣れた手つきだ。
「体が疲れきちゃったわ。身体も埃でかゆい。春陽君、ごめんだけど、お風呂借りるわね。綾香、替えの洋服を用意して、今日は綾香の部屋に泊まっていく」
「何も春陽君のお風呂を使わなくても、私の部屋のお風呂を使えばいいじゃない」
「今日は頑張ってくれた。男子君達にちょっとしたサービスよ」
オォーー! なんというサービス!
和尚が目をカッと見開く。
「京香先生、それはいけませんぞ。ここには未成年ながら男性が4人。その中で美女が風呂に入るなど、危険ですぞ」
「それなら浩平君が危険な男性達から私を守ってね! お願いよ!」
「京香先生、それは大胆すぎです。私は反対です。教師としての行動から外れていると思います」
絵理沙先輩が心配そうに京香先生に抗議する。
男性陣は手を握って、絵理沙先輩、邪魔するなと言いたい気持ちをグッと堪えた。
「もう夜の9時よ。勤務外。勤務外。後のことは浩平君よろしくね。私、ダイニングで着替えるから、綾香は着替えを持ってきて」
「拙僧にお任せあれ。女人の着替えを見ようとする不埒者は拙僧が一掃しておきましょう」
綾香先生も京香先生を見て諦めた顔になる。
「仕方がないです。京香は1度決めたらやっちゃいますからね。部屋に戻るついでに、私もお風呂に入ってきます」
京香先生を放置して、綾香先生は自分の部屋へ帰っちゃうの?
「戻ってくる時に、何がおかずを持ってきますね」
綾香先生のフワリとした優しい微笑みが全員を包む。
「それでは、私もお風呂に入ってきます。夕飯になるおかずも探してきますね」
絵理沙先輩もテーブルの椅子から立つ。
そして綾香先生と2人で今のふすまを閉めて、男性陣達を居間に閉じ込める。
2人が玄関から出て行ったドアの音が聞こえる。
シャー。 シャー。 カタ。 コト。
ダイニングでは京香先生が服を脱ぐ音が聞こえる。
春陽と信二と優紀の3人が膝立になり。拳を握って、額に汗を掻いている。
和尚はふすまの前に立ち、両手を広げ、春陽達3人がダイニングへ行かないように仁王立ちしている。
しかし、その目から大粒の涙が溢れ、頬を濡らしている。
「拙僧、幼少の頃から修行をしてきた身、されど、これほどまでの過酷な修行をしたことはない。これまさに修行の極み」
信二が小さな声で呟く。
「和尚も実は見たいんだろう! 少しふすまを開けるだけでいいんだよ。少しだけ開けたって、京香先生にバレないって」
「そうだぞ。今日は俺は香織を振り切って来てるんだ。こんなチャンスはもうない。少しだけ、ふすまを開けようぜ。和尚」
和尚の目がクワっと見開く。
「うせい! 地獄の邪気共、拙僧を迷わせようとしてもそうはいかん。美の権現様をお守りするのは拙僧のつとめ! そんな甘言には乗らん! 乗らんぞ!」
ガチャ、ガチャ、ピイシャ。
京香先生がお風呂場へ入っていった音が聞こえる。
その音を聞いた途端、和尚の体が崩れ、四つん這いになる。
下を向いてる和尚の嗚咽が聞こえる。
「拙僧は、勝ったのか? 負けたのか? もうわからん。 良いことをしたはずなのに、この苦悩はなぜだ」
信二と優紀が呆れた顔で和尚を見る。
「和尚、人は仏になれないぜ。煩悩を持ってるのが思春期の俺達じゃん。恰好つけるからそうなるんだよ」
「いつもの和尚らしくない。エロなことなら、いつも真っ先に飛びつくのに。京香先生のことになると和尚は人格が変わるな」
「左様であった。お二人方の言う通り、拙僧もまだ高校生。無邪気さを忘れておった」
ガチャ
風呂場の扉の開く音がする。
「春陽君、ここ、トリートメントもコンディショナーもない。このままだと髪が痛んじゃう。綾香から借りてきて」
「え!」
「早くしてねー! もうお風呂、終わっちゃうから!」
「は…はい!」
春陽は言われるがままにふすまを開く。信二、優紀、和尚の3人もダイニングに飛び出してくる。
必死で京香先生の脱いだジャージを探す。
風呂場から京香先生の声が聞こえる。
「私の脱いだ下着や衣服を探しても無駄よー。全部、風呂場に持って入ってるから」
和尚は太い腕で目元を拭う。
「拙僧、一生の不覚!」
信二、優紀、和尚の3人がダイニングで呆然としている間に、春陽は靴を履いて玄関を出た。
201号室の部屋のインターホンを押す。
「は~い!」
201号室のドアが開く。
玄関から顔を出した綾香先生はバスタオル1枚を巻いただけの状態だった。
濡れてこげ茶色に染まっている少しカールがかかった髪の毛が濡れて輝いている。
お風呂で温もった体がほんのりと桜色に染まって、石鹸の香りが漂い、非常に色っぽい。
バスタオルで隠されているが、すこし濡れているバスタオルは体にぴったりと張り付いて、体のラインが浮き彫りになっている。
ツンと上を向いて突き出している形の良い大きな胸。
適度にくびれた腰。
逆ハート型でツンと突き出しているお尻。
バスタオルから見えるきれいな脚。
思わず、春陽は言うことを忘れて見惚れてしまう。
化粧を取った、童顔のあどけない顔。低い鼻と小さな唇が可愛い。
クリクリとしたこげ茶色の瞳が、何しに来たの?と春陽を上目遣いで覗き込んでいる。
まさかの憧れの綾香先生のバスタオルショット。
春陽はハッと気づいたように顔を横に向ける。自分の顔が真っ赤に火照っているのがわかる。
「何しに来たの?」
「京香先生からコンディショナーとトリートメントを借りてきてって言われて、お願いします」
「玄関閉めて、そこで待っててね」
春陽は言われた通り玄関に入り扉を閉める。
慌てて綾香先生は風呂場へコンディショナーとトリートメントを取りに歩く。
綾香先生の部屋の中はきれいパステルカラーで統一されていて、整理整頓もされていて、とても可愛らしい部屋だった。
お風呂場からコンディショナーとトリートメントを取ってきた綾香先生が急いで歩いてくる。
綾香先生がつまづいた。その拍子にバスタオルがハラリと体から落ちる。
春陽の目の前に形の良い柔らかそうな大きな胸が露わになる。
そして他にも、綾香先生の体の全てが春陽の網膜に焼き付く。
童顔と成熟された大人の女性の体のラインの妖艶な色香が混ざり合い、艶やかさが部屋中に匂い立つ。
体からの石鹸の香りと綾香先生の甘くて優しい香りが混ざって、まるで媚薬のようだ。
綾香先生は何が起こったのか、一瞬でパニック状態になったのだろう。裸体のままで固まっている。
春陽は体中が熱く火照って、胸の鼓動がうるさいほど高鳴る。
一瞬も目を離すことができない。
美しい。きれいだ。言葉で表現できない。
綾香先生も春陽と目を合わせたまま、体全身が真っ赤に染まっていく。
「ハワワーー!」
慌てて綾香先生がバスタオルを手で取って、前を隠す。
そして手を伸ばして、春陽にコンディショナーとトリートメントを渡す。
「こ・・・このことは絶対に内緒ですから!」
「はい! 失礼します!」
慌てて、春陽はドアを開けて外へ飛び出して、ドアを閉めて、ドアにもたれる。
「あ~ん! 全部、見られちゃったよ! どうしよう!」
部屋の中で綾香先生が一人で呟くが、外の春陽に聞こえることはなかった。
「これは夢か!」
春陽もまた、今の光景を信じられなかった。
空を見ると大きな半月の月が浮かんでいる。
しかし、春陽の目に月が映ることはない。今でもはっきりと綾香先生の裸体が目に浮かぶ。
これは絶対に誰に言わない。自分だけの宝物だ。
自分の部屋に戻った春陽は、風呂場の中にいる京香先生が春陽の帰りを待っていた。
「おそーい!」
風呂場のドアが少し開いて手が伸びる。
春陽はコンディショナーとトリートメントを渡そうと京香先生の手に渡す。
手渡している間、風呂場の隙間から、京香先生の全裸が見えた。
京香先生が悪戯っぽく笑ってウィンクして、風呂場のドアを閉める。
素晴らしい! 完璧なプロポーション!
全てが妖艶で色っぽく、艶やか。
こんな1日に2回もあっていいのか。幸せ過ぎる。
このことは信二、優紀、和尚の3人に絶対に知られてはならない。
春陽は1日で女神様と天女様の裸体をみることとなった。
このことは一生、誰にも言わないと心の記録の小箱に閉まって、きつく鍵をかける。