第43話 皆でバーベキュー
この作品はフィクションです。
バーべキューコーナーの一角を借り、木炭を敷き詰め着火剤のジェルタイプを木炭に塗って着火。
その上に薪を乗せて、火が消えないようにする。
やっぱり皆の狙いは牛肉、ウインナー、鳥のモモ肉。
肉三昧。
牛肉とモモ肉はあらかじめ下味をつけて染み込ませている。
いつも精進料理しか食べていない和尚は、この時とばかりに肉に食べていた。
あまりに焦って食べているため喉を詰まらせている。
ジョディ先生が横から、水を渡して、和尚は一気に水を流し込んで、満足そうに笑っている。
京香先生はビールを飲んで、ゆっくりと牛肉を器に入れて、タレと一緒に食べている。
綾香は鶏肉の足に、アルミホイルを巻いて、持ち上げて、器用に鶏肉を小さな口に頬張っている。
「肉ばっかり食べてないで、野菜も投入しましょう」
京香先生の号令で、キャベツ、玉ねぎ、ピーマン、椎茸、ニンジンなどが網の上に置かれていく。
煙がモウモウとあがり、バーべキューを食べている雰囲気が盛り上がる。
学生の春陽達はコーラやジュース、水を飲んで乾きを癒し、どんどんと肉を平らげていく。
京香先生、綾香、ジョディ先生の3人はワインを栓を開けて、ワインを飲み始めた。
「綾香、お酒、弱いから、あんまりワインを飲んじゃあダメだよ」
「ハーイ♡」
既に春陽を見る目がハートマークになり始めている。酔っている証拠だ。
香織は3人を見て、羨ましそうにしているが、優紀にお酒を止められた。
酔っぱらったジョディ先生がワインをカップに入れて、和尚に無理やり飲ませ始めた。
和尚は昔から日本酒は飲める口で、お酒は相当に強いという。
いつも父親と晩酌しているそうだ。
和尚はワインを飲んでも、全く酔わずに、肉を平らげていく。
「今日くらいは仕方がないわよね。少しだけよ」
京香先生も既に少し酔っているのか、大らかになってきている。
皆が肉で盛り上がっている最中に、我慢できなくなった香織がワインを盗み飲みして、頬をピンク色に染めて足元をヨロヨロさせている。
「優紀、おかしいの! 足元が回ってる!」
「お前! ワインを飲んだだろう! それは酔ってるんだ! 止めろ!」
「わーい! 優紀が怒ってるー!」
香織は何が楽しいのか、全くわからないが、優紀に縋りついて大笑いをしている。
香織って笑い上戸だったのか。
優紀は香織に抱き着かれて、困った顔をしているが、肉を食べることを止めようとはしない。
「オー! 浩平は酔わないから、面白くないでーす!」
ジョディ先生が、ワインのカップを和尚に飲ませ続けているが、和尚は、ニッコリと笑って、肉を食べ、ワインを飲んでご満悦のようだ。
「浩平君にワインを飲まさないで! せっかくのワインがなくなるじゃない!」
京香先生がジョディ先生からワインを取り上げる。
春陽の元へ綾香が歩いてきて、春陽にべったりと抱き着いてくる。
「エヘヘ、酔っちゃいました♡」
「そっか! 酔っちゃたかー! 綾香はお酒が弱いから、もうダメだぞ!」
「ハーイ!」
信二が春陽と綾香のやり取りを見て、なんとも言えない顔をなっている。
「なんだか春陽のほうが大人に見える。綾香先生って家ではいつもこうなのか?」
「ああ、酔うとこんな感じかな。弱いのにワインが好きなんだよ」
春陽は困ったような笑みを返す。
「段々と担任の先生って思えなくなってきたんだけど」
「そうだね。家にいる綾香は甘えたさんだよ。学校では大人ぶってるけどね」
「ふーん! 段々、腹立ってきた!」
信二が肉を夢中で平らげていく。
優紀は薪をくべて、肉や野菜を網の上に置いて、皆が食べる分の用意で忙しい。
「そんなことしてないで香織を構ってよー! 香織を構ってー!」
優紀は無言で香織を京香先生のほうへパスする。
香織は京香先生に抱き着いて、京香先生の胸の中で気持ち良さそうな顔をしている。
「京香先生の胸って、大きくて柔らかくて暖かい。気持ちいい」
それを見た信二と和尚が、羨ましそうに香織を見る。
「香織ちゃんは女の子だから、触っても大丈夫だよ。先生と一緒に食べようね」
京香先生が優しく微笑んで、香織の髪を撫でて、肉や野菜を、香織に食べさせ、水を優しく飲ませる。
ジョディ先生がワインを飲み過ぎて、段々と和尚に対するスキンシップが激しくなってきたように見える。
全員、この2人は無視しようという雰囲気が流れ、2人を無視してバーべキューを楽しんでいく。
アッと言う間に楽しいバーべキューの時間は終わった。
「私は綾香と香織ちゃんとテントに連れていくわ。後片付けは男性陣でお願いね」
京香先生が綾香と香織を連れて、寝室用のテントの中へ連れていく。
春陽、信二、優紀の3人でバーべキューの片付けを始める。
信二が口を尖らせて文句をいう。
「和尚はどうしたんだよ! 和尚にも後片付けさせないと、和尚だけ特別扱いじゃん」
それを聞いた優紀が信二を見て、和尚の方角を指さす。
「じゃあ、信二が今のあの2人に注意してこいよ。俺は嫌だからな」
信二が和尚の方向を見ると、ジョディ先生が和尚の体の上にまたがって、激しくキスをしている。
信二は顔を青くして、何も言わなくなった。
そんな和尚を見て春陽は苦笑をする。
「和尚も大変だよな。たぶん朝までコースだな」
「俺やだぜ。俺達の寝ているテントの中で和尚とジョディ先生が始めるのだけは止めてほしい」
信二が苦い顔で、洗い物をしながら呟く。
「あの2人にはバスに行ってもらおう。テントで大騒ぎされたら、他のお客さん達にも迷惑がかかるからな」
優紀が網を洗いながら提案をする。
信二も春陽も優紀と同意見だった。
京香先生が少し酔って、頬をピンク色にして歩いてきた。その姿は妖艶で美しい。
「綾香と香織ちゃんは寝ちゃったわ。洗い物を任せちゃって、ごめんなさいね」
信二は京香先生の顔を見て照れて、頬を赤くしている。
「京香先生! 和尚とジョディ先生がヤバい! 2人をバスの中へ隔離して!」
京香先生は和尚達のほうを見て、呆れた顔でため息をつく。
「まったく、あの2人は何しにキャンプに来たのよ! 家でやってなさいよ!」
京香先生はツカツカと和尚達のほうへ歩いていって、ジョディ先生の首根っこを捕まえて、和尚から引き剥がす。
「ノー! これから浩平と愛の語らいでーす!」
「うるさい! 場所を考えなさい! 浩平君とジョディはバスの中で寝なさい! 今から行きなさい!」
「オー! 京香! ナイスアイデアね! 浩平! レッツゴー! カモーン♡」
和尚は深々と京香先生と、春陽達に頭を下げて、バスの中へジョディ先生と一緒に消えていった。
洗い物が終わって、大型テントのリクライニングチェアに座って、皆で夜空を見上げる。
街灯が全く内ので、いつもよりも夜の星々がきれいに見える。
春陽は綾香と香織が寝ているテントの様子を見たが、2人共、気持ち良さそうな顔で眠っている。
京香先生がワインを飲みながら優しく微笑む。
「今日は楽しかったわ。皆で楽しむのも悪くないわね」
優紀が笑って頷く。
「香織があんなにお酒に弱いとは思いませんでしたけど、楽しかったですね」
「肉も美味かったし、空気も美味しいし、良かったな。これで俺にも彼女がいれば最高だったんだけどな」
春陽は信二の肩をポンポンと叩く。
「信二にも、そのうち、良い彼女ができるって、そんなに焦るなよ」
「うるせー! 春陽には綾香先生っていう可愛い彼女がいるじゃねーか! 俺に気持ちなんてわかんねーよ!」
京香先生が男子3人のやり取りを見て、優しく微笑んでいる。
「信二君、大学へ行きなさい。大学には色々な女子がいるわ。きっと出会いがあるわよ」
「はい!俺、大学を目指します。学生中に彼女ができないのはイヤだから!」
「他の2人も大学にはキチンと進学するのよ。桜ヶ丘高校は進学校なんだからね」
それを聞いた春陽は微笑む。
「保険医の京香先生が一番教師らしいのは面白いですよね」
「綾香は春陽君と出会って、一緒に住むようになってからダメな子になっちゃったわ。少し甘やかしすぎよ」
「綾香が甘えてくれるのは嬉しいですから、これからもどんどん甘えてもらいます」
「綾香も幸せ者よね。春陽君とどちらが年上か段々とわからなくなっていくわ」
京香先生がワインを一口飲んで笑う。
和やかな雰囲気が皆を包む。
京香先生が優紀を見て、ワインを飲む。
「優紀君は香織ちゃんと良い感じになってきたじゃない。2人共、付き合うの?」
「まだ俺の中では幼馴染って感じが強いです。香織は違うみたいですけど。今は時間に任せています」
「そうね。急ぐ必要はないわ。そのうち、自分の気持ちがわかるわよ。でも香織ちゃんを泣かすようなことだけはしないでね」
「はい、わかりました」
京香先生はいつものことだが、ワインを飲み過ぎても、タガが外れることはない。いつも大人で、魅力的な女性だ。
でも、京香先生が誰かに、少しは甘えた所も見てみたいと春陽は思った。
夜は段々と更けていく。京香先生を囲んで、信二、優紀、春陽の3人は楽しく夜を過ごす。
その時、駐車場では、バスは縦揺れ、横揺れと大暴れしていたが、テント設置場所にいた4人はそのことを知らない。




