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第42話 皆でキャンプ



「やっと着いたわね」



 レンタルした小型バスを降りて、京香先生が森林の空気を吸って気持ち良さそうに、体全身を伸ばす。


 ここは春陽達が住んでいる街から4時間ほど高速に乗り、そこから一般道で2時間走った場所にあるキャンプ場だ。


 信二が持っていた雑誌の中で、一番近いということで選ばれた場所である。


 まだ夏前ということもあり、日差しはキツクなっているが、山の中の温度は、それほど熱くない。



「やっと自然の空気を吸えたぜ。バスの中の雰囲気が続くことを思えば天国だ」



 信二がバスを降りて来て、嬉しそうに森の空気を吸う。


 バスの中では、一番後ろに和尚、ジョディ先生のペア、真中に春陽、綾香ペア、前に優紀、香織ペアと乗っていたのだが、後ろに行くほどアマアマな雰囲気が濃厚になっていた。


 特に和尚の膝の上に乗ったジョディ先生は、和尚の頭を撫でて、自分の胸を押し付けたり、和尚のツルツルの頭にキスの雨を降らせていた。


 春陽と綾香は2人寄り添って、手を恋人繋ぎをして、後ろから聞えてくる和尚達の声を聞かないようにしていた。


 しかし、時々、綾香が我慢できなくなり、春陽にキスのおねだりをして、この2人も甘い雰囲気を醸し出しだす。


 前に座っていた優紀と香織は、優紀がしっかりと自制心をキープしていたので、香織が肩にしなだれるぐらいで収まっていた。


 しかし、運転してる京香先生がルームミラーを見ると激しく絡み合う、和尚とジョディ先生が見える。


 そのことが京香先生の不機嫌につながった。


 京香先生の隣に座っていた信二は、チャンスを活かそうと、何度も京香先生に話しかけようとするが、京香先生のご機嫌斜めな顔が怖くて、あまり話すことができなかった。


 和尚の上に乗ったジョディ先生は、桃色の妖艶な色香を常に放射し、バスの中は一種、異様な雰囲気に包まれていた。


 信二は見てはいけないと思いつつ、美女のジョディ先生の妖艶な眼差しや、艶やかな顔、形のよいお尻に、目を向けてしまい、何度か京香先生に、注意を受けた。


 優紀と香織、春陽と綾香もバスの外に出てきて、新鮮な空気を吸って、心を落ち着かせている。


 しかし、和尚とジョディ先生はバスから出てこない。妙にバスが横揺れ、縦揺れを起こしている。


 皆はバスの中で何が起こっているのか考えないようした。


 京香先生はキャンプ場の管理事務所で手続きをする。



「まずは荷物をバスの荷台から降ろして、テントの設置ね」



 キャンプ道具は1度しか使わないので、全てレンタルショップで借りている。


 今はレンタルショップから直接、家にキャンプ道具は運送されてくるから、とても便利だ。


 和尚とジョディ先生のことは放っておいて、キャンプ道具を出して、テント設置場所へと向かう。


 多くの人達が既に、大きなテントを設置して、軽く、ビールなどを飲んで賑わっている。



「私達も早くテントを設置しましょう。私も早くビールを飲みたいわ」


「そうですね。俺達も喉が渇いていますから、テントの設置が終わったら、休憩しましょう」



 春陽はテント用具を背負いながら、京香先生に微笑む。


 今のテントはワンタッチテントが主流だ。だから重い支柱などを建てる必要はない。


 優紀と春陽と信二の3人は、説明書を読みながら、簡単にテントを設置していく。


 そしてテントの設置が終わった中へ、京香先生と綾香がマットを敷いていく。


 このマットがあるおかげで、少々のデコボコや小石があっても気にならない。


 寝室用のテントが4つ設置され、もう一つは全員が入れるほどの大型テントを設置する。


 そして簡易のリクライニングチェアにそれぞれが座って、各自に飲み物を飲んでリラックスする。


 キャンプ設置場所は草原が広がっていて、その周りを森林が囲んでいる。


 樹々の緑色が濃く、葉も良く茂っていて、季節感を感じさせる。


 テントの設置が終わって、休憩を取る京香先生は、クーラーボックスからビールを取り出して、美味しそうに一気飲みをしている。


 そして頬をピンク色に染めて、リクライニングチェアに座っている。


 しかし、今日の女性陣は全員、スキニーデニム姿なので、京香先生のきれいな脚を見ることができない。


 脚フェチの優紀としては、そのことが許せない様子で、香織に文句をいう。



「なぜ、せっかくの自然に来たのに、全員が短パンルックじゃないんだ。俺はそれを楽しみにしていたんだぞ」


「キャンプと言えば虫刺されじゃない。虫に刺されないように対策するのは当たり前じゃない」



 香織の言うことは尤もな話だ。


 テントには「ムシクルナー」を防虫用具をぶら下げているが、どれくらいの効き目があるのか、初心者の春陽達にはわからない。


 だから女性陣の脚をまもるため、春陽の提案でスキニーデニムを履いてきてもらったのだ。


 夕方まではまだ時間があるので、全員でハイキングコースを歩くこととなった。


 春陽と綾香が手を繋ぎ、優紀と香織が恋人繋ぎをしている。


 京香先生は仕方ないなとため息をついて、信二と手を繋いで歩いている。


 信二は喜んで目をキラキラとさせている。


 ハイキングコースは坂道で段々と山の頂上へ向かっているようだった。


 後にハイキングコースを見ると、やはり小高い山の山頂に続いている。


 初めは快調だった6人も段々と歩く速度が落ちてくる。



「山道を歩く時は1歩をゆっくりと、1歩は普段よりも少し大きくしてください」



 春陽が京香先生達に歩き方のコツを呼びかける。



「なぜ春陽が山登りのコツなんて知ってるんだ?」


「ああ、父さんが女性にフラれる度に、孤独を知るには登山だと言って、小さい頃に登山に連れてきてもらったことがあるんだよ」



 優紀は不思議そうな顔をして春陽を見る。



「俺にも意味は良くわからないけど、気分を切り替えるには丁度良いと、父さんは言ってた」



 春陽は落ちている枝の中から、杖の代わりになりそうな、手ごろな枝を拾って、綾香に渡す。



「ありがとう春陽君、ずいぶん楽になった。これ記念に持って帰ります」



 綾香は杖をついて、嬉しそうに顔を綻ばせる。


 それを見た、優紀と信二も枝を拾って、香織と京香先生に渡す。


 ハイキングコースは幅2mぐらいで、コンクリートで固められている。


 そのため、衝撃が足の裏に直撃する。その分、足の裏が痛くなるのが早い。


 春陽と綾香は集団の先頭を歩いていたが、段々と皆が遅れ始めたので、集団の後ろを歩くことにした。


 京香先生が左足を少し引きずっている。



「京香先生、止まってください。左足を少し見せてください」



 春陽は京香先生を呼び止めて、左足のスニーカーを脱がせる。


 京香先生は普段はスニカーは履かない。だから今回も新品のスニーカーを買って履いてきた。


 おかげで、まだスニーカーの革が柔らかくなっていなくて、アキレス腱のところが赤く腫れてきている。


 春陽は赤く腫れている部分に、バンドエイドの大判を幾つも張り、スニーカーの口の部分にティシュを詰めて、京香先生の足に靴を履かせる。



「あら、痛いのがずいぶんと楽になったわ。ありがとう春陽君」


「小さい頃に父さんにしてもらったことがあったんです」


「へー、あのお父さんがねー!」



 京香先生は父を思い出して不思議そうな顔をしている。


 女性関係以外は結構、まともな父親なのだが、女性関係が破天荒すぎて、良い部分が目立たないのは事実だ。


 信二は小声で春陽に呟く。



「もう少しで京香先生が俺にもたれてくる計画だったのに、邪魔するな」


「京香先生の足を放っておくと、明日は歩けなくなるぞ。これは処置しておかないとダメだよ」



 信二はそれでも不服そうに頬を膨らませる。



「あれを見ろよ!」



 先頭を歩いている優紀に香織が疲れたというように寄り添って歩いている。


 学校では絶対に見られない姿だ。初々しくて良いと春陽は思った。



「俺もあんな風にしてみたい!」


 綾香がそれを聞いてフワリと微笑む。


「担任の私がしてあげましょうか?」


「綾香先生は春陽じゃん。ちっとも嬉しくないよ。もういいよ」



 信二はそういうと諦めて、京香先生の隣を歩いていった。


 綾香が甘えた声で春陽に声をかける。



「春陽君、私、ちょっと疲れちゃった」


「綾香は杖を持って置いてね。杖の端を持って俺が少し先を歩いて引っ張るから」



 笑って春陽が杖の先を持って、綾香を杖ごと引っ張る。



「これ、面白いです!」



 綾香に気に入ってもらえたようだ。


 約2時間ほどのハイキングで山頂に着いた。山頂からは春陽達の住んでいる街も見える。


 代わる代わる、スマホを取り出しては、写真機能で団体写真を撮ったり、ツーショットを取ったりして楽しむ。


 山頂には売店もあり、京香先生はさっそくビールを買って一気に飲み干して、頬をピンク色に染めていた。


 綾香もビールを飲もうとしたが、春陽がそれを止める。


 綾香は酒が弱い。ここでビールを飲んで甘えられても対処に困るし、下山できない。


 青空がどこまでも遠く、大きく感じる。雲がゆっくりと空を流れていく。


 街ではこんなに落ち着いた気分にはなれない。やはりキャンプに来たのは正解だと春陽は思った。



「今までアウトドアって興味がなかったけど、時には来るのも最高ね」



 京香先生が首筋から汗を流しつつ、ビールを片手に微笑んでいる。


 優紀と香織は坂になっている草原の部分で、体を大の字にして大空を見上げていた。


 信二は1人で走り回っている。


 春陽、綾香、京香先生の3人はそれぞれに草原に座って飲み物を飲んで休息をとる。



「また、明日も来ましょうか? 浩平君もジョディ先生もいませんから!」



 綾香がにこやかに提案する。



「あの2人も何を考えてるのかしら! いきなりバスの中で……あり得ないわよ!」



 京香先生が顔を真っ赤にして答える。



「和尚も大変ですね」



 春陽はそれしか言う言葉が浮かばなかった。


 1時間ほど、のんびりとしてから下山のハイキングコースを皆で降りる。



「春陽君、下山のほうが膝がガクガクいいます」



 綾香が戸惑った声をだす。



「実は下山のほうが登山は難しいんだよ。体重が直接膝に来るから、振動がすごいんだ。転ばないように気を付けてね」


「はーい!」



 綾香が春陽の背中に手を当てて、春陽の背中をブレーキ代わりに使う。


 それを見た香織が嬉しそうに、優紀の背中にへばりつく。



「香織、それは重いし、歩きづらい。綾香先生のようにしてくれ」


「誰が重いですって! 私、ちゃんとダイエットしてるわよ」


「そういう問題じゃない」



 優紀と香織の2人が痴話喧嘩を始めた。


 それを全員は無視して歩く。


 信二は目を輝かせて、京香先生が体を寄せてくるのを期待するが、京香先生は1人でのんびりと歩いている。


 全員がハイキングコースから戻ってみると、和尚はゲッソリとした顔をして、反省の面持ちをしている。


 ジョディ先生は頬をツルツルとさせて、気持ち良さそうにリクライニングチェアーに横になって、眠っている。


 それは幸せそうな笑顔で眠っている。


 京香先生を見た和尚が正座の姿勢になり、まっすぐに土下座する。



「拙僧達がまた、ご迷惑をおかけ申した。誠に申し訳ありませぬ。煩悩に負けた拙僧を許していただきたい」


「どうでもいいわ。それよりもバスの窓を少し開けて置いてちょうだい」



 和尚はハッとした顔になり、バスへと走っていった。


 春陽も京香先生の気持ちに共感した。


 ジョディ先生が妖艶な仕草で起きて来る。



「京香、綾香、私、運動したらお腹が空きました! バーベキューはまだですか? ビールも飲みたいでーす!」



 どこかでブチっという音が聞こえたような気がする。



 京香先生がスタスタとジョディ先生の元へ向かうと「ちょっと話があるから、付いて来なさい」と言って、ジョディ先生の耳を引っ張って、2人は寝室用にテントへ入っていった。


 しかし、京香先生の説教の声と、ジョディ先生が謝っている声が時々、テントから聞えてくる。


 綾香はテントを見た後にため息をつく。


 和尚がバスから帰ってきた。


 綾香はフワリとした微笑みを浮かべて、皆に号令を出す。



「京香とジョディ先生は放っておいて、みんなでバーベキューの用意をしに行きましょう。荷物をもってバーベキューコーナーに向かいましょう」

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