第41話 正直に言おう
授業が終わるチャイムがなり、綾香が教室から去っていった。
「皆、保健室へ行くぞ」
信二が大声を出して、教室の歩いて廊下へ出ていく。
「お待ちくだされ信二殿、保健室は逃げませぬぞ」
和尚がそう言って信二の後を追いかけていく。
春陽は優紀と一緒に保健室へ向かう。
「最近は香織と上手くいってるようだな」
「誰かさん達の影響で、香織が甘えたに変わってしまった。家にいる時に自制させるのに苦労しているよ」
香織が優紀に縋りついて甘えている姿が容易にイメージできるから面白い。
「それで優紀の中では変化があったのか?
「未だに香織は幼馴染のままだけど、香織の好意は素直に受け取るようにしている。だけど、どこまで香織のことを自分が好きなのかわからない」
他人から見て、優紀は常に香織を守って行動しているのだが、幼少の頃からの習慣で、優紀はそのことに気づけないみたいだ。
「そのうち、自分の気持ちに気づくさ。今は素直になった香織を歓迎してあげることが1番だと思うよ」
何も考えていない気楽な様子で、春陽が優紀に笑いかける。
「春陽は昔から達観的だったけど、最近は達観さに磨きがかかったな」
「そうだね。綾香を甘やかしていたらこうなった。自然に変わっていったことだから良いんじゃん」
確かに春陽は最近は、綾香の気持ちまかせな部分が多い。
服を選んでもらうのも綾香に頼んでいるし、綾香の料理はどれも美味しいので文句をいう所もない。
基本的に綾香は節約家で、自分の給料で色々と買い物してくるので、綾香が自分の給料で何を買おうが自由だと思っている。
家でも優等生の綾香だから何も言う所はない。
少しは甘やかしてもいいかなと思っているうちに、今の2人に関係に段々となっていった。
「春陽から綾香先生を襲いたいっていうか、迫りたいって気持ちにならないのか?」
それは常にある。ないと言えばウソだ。
ただ、春陽は父、敦と同じように大人にはなりたくない。
まだ春陽は高校2年生だ。今からエロな方向ばかりを覚えたら大変なことになる。
無理に我慢している訳ではないが、自分から綾香を求めないようにはしている。
自分が求める前に、我慢できなくなった綾香がおねだりしてくる。
その姿が可愛くて、その姿を見たくて、意地悪している部分もある。
「俺と綾香のことはいいよ。それより香織がどう変わったか教えてくれよ。そっちのほうが面白そうだ」
優紀の顔から笑みが消える。
「それは恥ずかしくて俺の口からは言えない。しかし、甘えている香織は普段と違って可愛いとだけは言っておこう」
「可愛い香織を見られるようになっただけ良かったじゃん」
「しかし、これ以上、甘えられても応えられない。俺の理性が飛ぶ。それが怖い。今度、和尚にでも相談してみようかな」
それを聞いた春陽がプププーと噴き出す。
「それは止めておいたほうがいい。一番、理性がないのは和尚だ。ジョディ先生と毎日のように朝まで頑張ってるんだぞ!寝ないでしてんだぞ!一番の煩悩にまみれているのは和尚だ」
優紀の顔が引きつる。
「それは本当か?」
「俺がアパートからマンションに引っ越した原因は和尚とジョディ先生の行為が原因だ。アパートが激しく揺れるし、声はうるさいし、朝まで眠れなかったからだよ」
優紀の額から汗が流れ落ちる。
「すさまじいな。さすがジョディ先生。タフそうだもんな」
春陽は同意して無言で頷いた。
そんなことを話している間に保健室へ着いた。
京香先生が白衣を着て、いつもの椅子に座ってため息をつく。
「今日は皆でどうしたのかしら? 私の顔を見に来たのなら、私は元気にしているわよ!」
鼻にかかった甘い声が保健室に広がる。
白衣を着ていてもわかる、ツンと上を向いた形の良い豊満な胸。
煽情的な腰のライン。ムッチリトして形のよい逆ハート型のお尻。
そこから伸びる、程よく肉付きのよいきれいな脚。
椅子に座って、既に和尚は合掌のポーズをしている。
信二は嬉しそうに京香先生のお尻ばかりを見ている。
保健室へ入ったばかりの優紀は頬を赤らめて、脚に釘付けとなっている。
「こんにちは、京香先生、綾香は来てますか?」
「ええ、春陽君が来るまで隠れてるんだっと言って、ベッドで寝ちゃったわよ。早業ね」
春陽は髪を掻いてベッドへ向かう。ベッドの中には綾香が隠れていて、布団ですっぽりと体と顔を隠している。
「綾香! 起きてよ! 布団の中で何をしてるの?」
春陽が布団の中へ顔を潜らせると、クリクリとした大きな瞳と目が合った。
「春陽君を待っていました。布団の中なら誰にも見られてません。だからキス♡」
確かに誰にも見られていないが、これは危険度が高い。春陽でもドキドキする。
「仕方ないな。少しだけだよ」
春陽は布団の中に顔だけ入れた状態で綾香と唇を合せる。
「さあ、もうお布団から出ようか」
「もう1回♡」
綾香は頬をピンク色に染めて、その顔が春陽にとって悶えるほどかわゆい。
綾香にねだられるがままに何度も綾香と唇を交す。
「そこの2人、ベッドの布団の中で怪しすぎるわよ。出て来なさい」
京香先生の声が保健室に響き渡る。
「ほら、怒られたじゃん」
「最近の京香って怒りっぽいのよね」
自分が京香先生を怒らせている原因であるという認識は、綾香には全くない。
春陽が布団から顔を出して、綾香が布団から体を抜け出して、2人で歩いて京香先生の元へ向かう。
1人だけ口をパクパクして、言葉が出ない人物がいる。
信二だ。
「綾香、信二にも伝えておいたほうが良いと思うんだ。俺の友達だし、良いだろう?」
「私も信二君のことが大好きです。良いと思います」
2人は信二の前に立ってペコリと頭を下げる。
「俺と綾香は2カ月前から付きあっってた。隠していてゴメン」
「私も先生なので隠してないとダメだから、信二君に言えなかったの、ごめんなさい」
信二が椅子に座ったまま暗い表情に変わる。
「春陽だけは俺と同類と思っていたのに、2カ月も前から綾香先生と付き合っていただと……完全に裏切られた」
「別に裏切ったつもりはないよ。たまたま偶然だよ」
和尚が信二を見つめる。
「縁とは異なもの。いきなり稲妻のように訪れる。拙僧がそうであった。世の中、先に何が起こるか分かりもうさん」
確かに和尚の運命は数奇だったよ。今でも信じられないよ。
「和尚にはジョディ先生。春陽には綾香先生。優紀には香織。俺にだけ誰もいないじゃないかー!」
京香先生が妖艶に微笑む。
「私だって誰もいないわよ。私は今で満足よ」
信二は京香先生の声を聞いて、目を希望でキラキラさせる。
「そうだ! ここで独り身は俺と京香先生だけだ! これは運命じゃないのか! 京香先生、俺と付き合ってください!」
「ごめんなさいね。私は年上好みなの。30歳以上の男性が好み。だから信二君、私のことは諦めてね」
信二の告白は3秒と経たずにバッサリと斬られた。
信二は暗くなって俯いてしまって動かない。
そんな姿を見て綾香が京香先生に噛みつく。
「可愛い教え子が慕ってきてるんだから、もっと言い方があるでしょう。今のは信二君に優しくない。もっと愛情をもって接してあげてほしいよ」
京香先生も綾香の言葉を聞いて少しだけ考える。
「そうね。少し言い方キツかったかもしれないわ。信二君、キャンプの時だけは一緒に行動してあげる。それでどう?」
信二は椅子から立ち上げって、姿勢を立たして京香先生に深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。一生の思い出にします!」
信二、言い方がオーバーだよ。
京香先生が首を傾げる。
「それで、今日は何をしに来たの? 全くわからないんだけど?」
春陽がのんびりとした口調で答える。
「今度、京香先生達とキャンプに行こうって、誘ったら、すぐに計画しようということになって、信二が京香先生と計画を練りたいっていうから、皆で一緒に来ました」
京香先生はやっと納得のいった顔をする。
「そうね。この間はノリで言っちゃったから、まだ何も用意していないのよ。信二君達も、一緒に計画を立ててくれるなら助かるわ。まだキャンプ地も決まっていないの」
信二は既にキャンプ雑誌をブレザーの中に隠し持っていた。
「京香先生! 俺に任せてください! 雑誌も買ってきましたし、俺は実はキャンプは得意です!」
そんな話は聞いたことがない。たぶん信二のハッタリだろう。
京香先生は嬉しそうに微笑む。
全員でキャンプ雑誌を回し読みし、行く場所などを検討し、行った先で何をするかなどの話で盛り上がった。
綾香が必要なことをノートにまとめていく。
京香先生が今、気づいたように皆を見回す。
「綾香は授業がなかったからいいけど、あなた達は授業を受けていないけどいいの?」
全員が授業のことを忘れていた。今更、授業に出っても怪しまれるだけだ。
このままサボるしかない。
京香先生がため息をつく。
「綾香! あなたも皆の担任なんだから、もっと管理しないとダメじゃない!」
「そんなこと言ったら京香だって保健室の先生じゃん。私だけ悪いみたいに言わないで。京香と私は平等だもん」
綾香と京香先生の痴話喧嘩が始まった。
皆、オロオロと春陽を見るが、春陽は全然、止めようともしない。
「いつも俺の家に来ると、2人は痴話喧嘩くらいしてるよ。仲良いからね。放っておけばいいよ」
それを聞いた信二が密かに瞳を輝かせていた。




